第十六話 共鳴
「良かった。もうほとんど痕も残ってないですね」
嫌がるクロードを無理やり治癒室に連れ出し、傷口の経過を確かめてリナリアは安堵の息を漏らした。
「治癒術の練習台にされた気分だ」
「な…⁈ 綺麗に治ったんだからいいじゃないですか⁈」
魔導窟の封印を解いた後、魔力切れで気を失うようにその場に倒れこんでしまった二人は、徽章を通じて異常を感知した教授陣に無事保護された。
幸いクロードの怪我も大したことはなく、せめてもの罪滅ぼしにとリナリアが治癒を申し出たのだ。
「う~ん。 わたしの治癒術もなかなかじゃないですか? 治癒科に進んで治療院に入ろうかな~」
リナリアが鼻歌でも歌いだしそうになった時、治癒室の扉が叩かれた。
「ルヴェリエ君、ケガの具合はいかかがですか?」
「ルシアン‼」
ルシアンはいつもの優しい笑みを浮かべたままクロードと目礼し合うと、ゆっくりと寝台に進み静かに腰を下ろした。
「お二人とも課題試験、最優秀賞おめでとうございます。 頑張りましたね」
『てへへ…』とわざとらしくも本気で照れてしまう。
自分でもよくやったと思う……ほとんどクロードの功績ではあるが。
「……でも、今回はどうして二人組の課題だったんでしょう?クロード様がほとんど進めてたし、いつもみたいに一人で解くものでも良かったのでは?」
リナリアがずいぶん前から不思議に思っていた疑問をルシアンにぶつけてみた。
「共鳴演習……今回の課題の別名です。異なる力、弱さの中にこそ強さがあり、ほころびがあってこそ完成する。それが今回の課題の核だったのです。あなたたち二人が、もっとも違う場所から歩み寄って一つの魔術を完成させた。それこそ、私がこの課題の答えとして見たかったものなのです」
ルシアンはそう言ってニコリとまなじりを下げると
「……少し、意地悪過ぎたでしょうか…⁉」
悪戯っぽく肩をすくめた。
「魔術知識が多いことや技術が高いことはもちろん素晴らしい。でも君たちにはそれだけを目指して欲しくなかったのですよ……かつての私のように」
ルシアンが少し遠い目をしたような気がした。
「そうだったんですね…」
リナリアがふと思い出したように非難めいた目をルシアンに向ける。
「それにしても今回の課題、危険すぎだったんじゃありません⁈ クロード様もこんな怪我しちゃったし、一歩間違えば……」
「学院徽章に異常を感知する魔術が組み込まれていますから……とは言え、今回は駆け付けるのが少し遅かったかもしれませんね」
——そんな悪気のない素敵な笑顔で言われても……。
怪我をした当人が何も言わない以上、わたしもこれで良しとしよう。お陰でとても大切なものを学べた気がするし。わたしも、そしてきっと、クロード様も……。
◇◇◇
「おいリナリア・フェイン、お前からクロード様に聞いてもらえないか?」
「リナリア、この問題についてクロード様はなんて?」
「クロード様は進級したら何を専攻するって?」
(……ちょっと待って⁈)
最近、学院生たちがクロードにお伺いを立てる際の窓口にされているような気がする。
(わたしはクロード様の仲介屋でも通訳でもないのに……)
確かに、以前に比べると断然クロードの考えていることが読めるようにはなった…とは言え。
クロードの方をちらりと見やると、我関せずといった顔をして悠然と窓の外を眺めている。
その姿は腹立たしいほど完璧で美しい……。
「クロード様」
「……なんだ?」
「課題試験の褒章石の埋め込み終わったみたいです。 学院徽章を取りに来いって教授が言ってました」
「ああ」
そう言うとクロードは、リナリアに並んで歩き出した。
見慣れた無表情。でも今は、その下にちゃんと温かいものが流れていることを、リナリアは知っている。
凍土の様に固く冷え切っていたクロードの心が、草木を芽吹かせる程に優しく豊かにほどき始めたことを……。




