第十四話 魔導窟
「じゃあ、入るぞ」
洞窟の入り口に立つと、クロードは静かに言った。
薄暗くてじめっとした中は、外からはほとんど見えない。
——ホントにクロード様とここに立つ時が来るなんて……。
◇◇◇
「リナリア。 放課後、魔導窟に行くぞ」
ある日登院するなりクロードがリナリアに告げた。
「え⁈ でもわたし、まだ十分な調整が出来ませんが……」
そんなそぶりを見せることもなかったので、まだもう少し先だろうと完全に油断していたところを……。
「問題ない。 君の気が済むまで練習に付き合ってやるつもりだったが……そろそろ期限も近い」
心の準備も出来ていなかったリナリアが口をパクパクさせていると
「心配するな。 君の雑な魔力の穴埋めは俺がする」
雑……って。
否定は出来ない。悲しいがおっしゃる通りである。
そして課題の期限が迫っていることも、確かにクロードの言う通りだった。
重ねてきた練習の成果も少しは出始めている。
充分な準備が出来ている、とはお世辞にも言えないが……。
これ以上引き延ばすのも得策とは思えない。
「わかりました、クロード様。 行きましょう!」
意を決して熱意のこもった目を向けたリナリアに対し、クロードは相変わらず冷めた顔で頷いただけだった。
◇◇◇
リナリアはクロードと並んで課題試験の実演場所、学院の端にある演習用の洞窟の前に立っていた。
この洞窟は今回のような実技試験の他、魔術研究所の実験や訓練に使用されることもあるという。
実践に近い演習も行われるため、万が一の事故を防ぐべく、より厳重な結界が張られている。
入口に立つだけでじっとりと重苦しい空気が漂っているのを感じる。
クロードは手際よく魔術で松明を灯すと、躊躇なく中に入って行った。
リナリアも慌てて後を追う。
足元がぐしゃりと湿っていて、時折どこからか『ぴちゃん』と水が滴る音が響いてくる。
「きゃっ」
ぬるりとした苔の様なものに足をとられ、思わず悲鳴を上げた。
すかさずクロードがリナリアの肘を掴んで支える。
じっとりとした洞窟の中をしばらく進むと、不意に空気が変わった。
「行き止まり⁈」
クロードが松明で行き止まりの岩盤をくまなく照らし、魔力探知を試みる。
「……ここだ」
一見何の変哲もない岩の壁が、クロードの魔力に反応して白銀にぽぅっと光っている。
これが課題の封印……⁈でもこの封印の魔力、すごくなじみがあるような……?
リナリアが封印の放つ空気の既視感に気を取られていると、クロードの鋭い声が響いた。
「リナリア、魔法陣は最初の案で行くぞ」
クロードは封印が施された壁の前に立つと、目を閉じてゆっくりと手をかざした。クロードの全身をぶわりと魔力が覆い始める。長い指先から放たれる青白い光が線を描き、瞬く間に魔法陣を形作りはじめた。
光に包まれるクロードと、美しい所作で描かれていく光の陣形……。
ほどなくして、無駄のない完璧な魔法陣が完成した。
冴え冴えとした空気を纏ったそれは、クロードそのもののようだった。
クロードはふぅと息を吐くとリナリアに視線を送った。それを受け、リナリアも力強く頷く。
が、クロードはそのまま何故かリナリアから視線を放さない。
……奇妙な間が生じた。
クロードが『何か』を待っている……⁈
「クロード様、何でしょう?」
「……いつもの挨拶はしないのか?」
「……い、いいんですか?」
「礼儀は大事だからな」
この緊迫した状態で、効率重視のクロードがリナリアに時間をくれるとは……。
とは言え、感慨に浸っている暇は無い。
リナリアは目を閉じて両手を組んだ。
——なるべく苦しくしないように頑張るから……。みんなも力を貸してね
リナリアが息を吐いてすっと手を下ろすと、隣からクロードの声が聞こえた。
「満足か?」
「——なら始めるぞ。最初から全力で行け。躊躇はするな。君の雑さは俺がフォローする」
また雑って……!
突っ込みたいところだけど、この緊迫した状況でそれどころではない。
知らぬ間に緊張で冷たくなっていた指先に魔力を集中させる。
クロードに言われた通り、最初から思い切り魔力を出力させた。
(行けるッ!)
そう思った瞬間、説明のできない違和感、不穏な気の流れを感じて、リナリアが魔力の出力を弱めた。
横目でリナリアを捉えたクロードはその異変を魔力切れと判断したのか
「リナリア下がれ、俺がやる」
さらに力を強めた。
「待ってくださいクロード様! 何かおかしいです……この封印、なんだか…」
「良いから下がってろ‼」
あまりの負荷の大きさに顔を歪めながらも、クロードはそれまでとは比にならないほど大量の魔力を流し始めた。
と、その瞬間、崩れ始めたように見えた封印が、最後の抵抗をするかのようにクロードの放った魔力をはじき返すとともに、すさまじい閃光と爆風が起こった。
「……‼」
「……‼」




