第十二話 理由
「お二人ともどうぞごゆっくり」
ルシアンはリナリアにもお茶を淹れると、次の授業の準備があると言って出ていってしまった。
まさかあのクロードとソファに並んでお茶を飲む日が来るとは……。
いや、パートナーになって一緒に試験課題に取り組む時点で十分あり得ないんだけど。
隣に座るクロードをこっそり盗み見ると、いつものように何を考えているのかわからない顔で淡々とお茶を飲んでいる。
美味しいと思っているのか、ひょっとして口に合わないのかすらわからない。
クロードと二人っきりの空気に耐えられなくなったリナリアは
「そ、そうだクロード様。 教授室も対魔術耐性の結界が張られてますよね⁈ せっかくだから魔力調整の練習に付き合ってください」
気まずさを埋めるために提案してみた。
クロードはカップを口元に運んだまま、好きにしろと目で促している。
「……くぅぅぅ~……やっぱり上手くいかない」
「もう諦めろ。 前にも言ったが、俺が一人で封印を解けば済む話だ。 君はただ隣に立ってろ。二人組という試験の体裁が保てればそれでいい」
クロードが溜息と共に淡々と告げる。
「……なぜそんなに頑張るんだ」
最後の言葉はまるでクロード自身に向けられた独り言のように聞こえた。
なぜ……って
「…………恩返ししたい人がいるんです。今の私があるのは全部その人お陰なので。いつかその人みたいな魔術士になって、今度はわたしがみんなに幸せを返したい。それがわたしの夢なんです」
「……そうか」
ルシアンのお茶によって心が解きほぐされたからか……クロード相手に、思いがけずこんなに正直に胸の内を語ってしまった。
しかしそんなリナリアの言葉に、クロードは相変わらず表情を変えぬまま、たった一言平坦に答えただけだった。
……わからないとか理解できないって言うわりにパートナーは解消しないし、わたしのこと馬鹿にしたりもしない。興味ないって顔してるくせに、何故?ってすぐ聞いてくる。口では効率効率って言いながら、練習にもちゃんと付き合ってくれるし……。
クロード様ってば……
美しい無表情の下、その心の奥では何が流れているんだろう。
◇◇◇
練習に集中するあまり、午後の授業に遅れそうになってしまった。
教室に続く回廊を二人並んで走りながら、クロードが辛抱溜まらずといった体でリナリアに問う。
「……なんだったんだ教授室でのアレは⁈」
「……アレ?」
「なぜいちいち魔法陣に話しかける?」
「……あたり前じゃないですか? クロード様はノックもせずに人様の部屋に入るんですか?」
「ちょっと待て……ひょっとして毎回やってたのか?」
「決まってるじゃないですか?」
「……だから無駄に時間が掛かっていたのか」
(……無駄⁈)
「クロード様、いくら名門一族の天才だからって挨拶は基本ですよ。 もしかしてまた効率ですか?そんなに効率効率言うなら、もう制服も着ないで素っ裸で登院すればいい良いじゃないですか?」
「…………リナリア・フェイン、君は本当に、変わっているな……」
「クロード様に言われたくないです!」
並んで教室へと急ぎながらふと視線を感じて振り返ると、クロードとリナリアを驚いたように見つめている者がいた。
以前、リナリアが話しかけたマナリーフの治癒薬の中で尻もちをついていた男子学生だ。
不思議に思って周囲に視線を走らせると、そばにいた学院生たちもリナリアとクロードを信じられないと言った表情で眺めている。
すれ違いざま、一人の女子学生の呟きが聞こえた。
「……クロード様があんなに喋ってるの、初めて見た……」




