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第九話 リナリアとルシアン


「はぁ~~~……。ダメだぁ……」


 目の前のガラス瓶の中には数滴の液体。痛み止めに用いられる白柳(ホワイト・ウィロウ)の樹皮から抽出される治癒薬の一種だ。帰宅してからも練習の一環にと作り始めたのだが……。精一杯集中しても、申し訳程度の量すら作り出せなかった。これなら魔術など使わずに手ずから煮出した方がはるかに早く済むだろう。


 本来難しい作業ではないが、長時間に及ぶ演習室での練習で既に疲労困憊のリナリアにとって、簡単な生活魔術でもかなりの労力を要した。

 長い長いため息とともに、勢いよく木製テーブルにどさりと突っ伏す。

 すると後ろからクスっという笑い声が聞こえた。

 突っ伏したまま、だるい頭を動かして声の方を振り返る。


 「お帰りなさい……ルシアン」


 「ただいま、リリ。 お疲れのようですね」


 ルシアンは労いの笑みを浮かべながら、リナリアの頭に優しく掌を置く。そしてもう片方の手を白柳(ホワイト・ウィロウ)の樹皮に向けたかと思うと、一瞬で治癒薬を完成させてしまった。


 「……さすがは大魔術士様、お見事です」


 いじけたように呟くリナリアに、ルシアンは微かに眉を寄せてリナリアの隣に腰を下ろした。



   ◇◇◇

 

 

「苦戦している様ですね」


 教授から養父の顔に戻ったルシアンが、リナリアの前にコトリと木製のカップに入ったお茶を差し出した。

 リナリアは湯気の立ち昇るカップを両手で包みながら答える。

 

「苦戦どころではないです。 完全にお荷物状態で。 クロード様に捨てられるのも時間の問題だろうって……わたしも……そう思います」

 

 

 窓の外から、鳥の鳴き声が聞こえた。

 外郭のさらに外、王都のはずれの森の入り口に位置するこの家に、リナリアとルシアンは二人で暮らしていた。

 とある事故で両親を失ったリナリアをルシアンが引き取ってから、もう10年程になる。

 

 

「そうですか……。ルヴェリエ君は何と?」


「クロード様は……『どうしてそんなに効率の悪い魔力の使い方をするんだ?』って」


「効率……⁈」


「でも、私の魔力は悪くないとも仰ってました」


「……なるほど」


 ルシアンが楽しそうに目を細める。


「それはそれは……。期待できそうです」


「なっ⁈ どこがですか⁈」


「言ったでしょう?あなたたち二人はお互いに欠くべからざる、とても良い組み合わせなんです。そしてそれに気づくことが、今回の課題を解く鍵になるでしょうね」


 また意味ありげによくわからないことを。優秀な人はみんなこうなのだろうか⁈ルシアンもクロードも説明が少なすぎる。

 でも…ルシアンはわたしの為にならないことは決して言わないし、嘘もつかない。



『……』

 

「……⁈」

 

 穏やかな笑みを浮かべていたルシアンに、突然微かな異変を感じた。

 リナリアはさっと立ち上がると、手慣れた様子で出来上がったばかりの白柳(ホワイト・ウィロウ)の治癒薬で薬湯を作り、カップに入れてルシアンに手渡した。

 ルシアンはリナリアを優しく見上げると、差し出された薬湯を口を運んだ。そのままゆっくりと大きく息を吐く。


「全く……あなたには敵いませんね。ありがとう、リリ」


 リナリアは小さく頷いて微笑み、空になったカップをルシアンの手から受け取った。


「ルシアン、他に何かわたしに出来ることはありませんか?」


 ルシアンの小さな違和感に気づいたリナリアが、いつも口にする言葉。

 ルシアンは微かに口の端を上げ、いつものように首を振ってリナリアに『大丈夫』という視線を送った。

 

 


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