8. あなたのヒーローになりたい
豊橋市公会堂。
それは昭和初期に建てられた歴史的建造物だ。
正面に大階段、その上にギリシャのパルテノン神殿を思わせる意匠をこらした柱が立ち並び、その両脇の大柱の上にスペイン風のドームと鷲の像が立ち並ぶ。
とんでもなくカッコいい、豊橋市の誇りたる建物だ。
俺はランニングの際に、ロッキーよろしく大階段を登り、一番上で「エイドリアーン」とガッツポーズをするのが日課になっていた。
ただ目下の問題点としては、公会堂と目と鼻の先に豊橋警察署がある。こんなところを、こんなときに待ち合わせ場所にするなよな。
街中にパトカーのサイレンが鳴り響いている。俺はヒヤヒヤしながら、パトカーとの接触をやりすごし、どうにかこうにか公会堂までたどり着いた。
公会堂の前面は広い石畳の広場となっており、視界が開けすぎている。その向かいには市電の走る豊橋のメインストリート、国道1号線だ。
俺はパーカーのフードをかぶり、通行人を装って、公会堂の前を横切りながら、様子を伺っていた。
そのときだ。公会堂の大階段の最上段に、神城さんが姿を現した。いつも通り、世界は私の前にひれ伏す、と言わんばかりに堂々と仁王立ちし、正面で腕を組んでいる。
「青木ー、よく来た。上がってこい」
小柄な体のどこからそんな声が出るのか、地の果てまで響きそうな声で、俺に呼びかける。
いやいやいや、目立ちすぎですって。
あんた行方不明で指名手配中なんでしょうが。
警察から逃げてんじゃなかったんすか?
俺は慌てて大階段を駆け上がる。
一番上まで駆け上がり、息をきらしながら、俺は神城さんに問い詰める。
「レミちゃん、いったい何がおきてる? 行方不明っていったい」
神城さんはすかさず俺の頬を平手でスパーンとはたいた。そして、そのまま俺のシャツの首元をつかみ、ねじりあげる。
「青木、時間がないからよく聞いて、秒で答えろ」
神城さんの目がいつになく真剣だ。
「私には東京で国防を担っていたときから敵がいる。そいつとの勝負に負けて、私は東京を追われた。今、そいつはこの国の防衛を一手に担っている。ただし、そいつは狡猾なヴィランだ。このままではこの国は終わる。私はそいつにもう一度勝負を挑む。命がけの大勝負だ」
パトカーが大階段下の石畳に続々と到着する。どっかから通報がはいったのだろう。まあ、あんだけ目立てばそうなるだろう。次々と警察が集結してくる。
「青木、私の目的を達成するためにお前の力が必要だ。力を貸せ。この国の未来のために」
「レミちゃん……」
「神城司令と呼べ」
正直に言おう。
数日ぶりの神城さんは神々し過ぎて、その美しさにおぼれかけていた俺は、話の半分も聞いちゃいなかった。警察に包囲されつつあり、大ピンチなのもどうでもよかった。
誰が正義だ、誰が敵だ。
そんなことはどうでもいい。
目の前に今世紀最大の美女がいて、彼女が俺を必要としてくれている。
俺にとっちゃ、それで十分だ。
「神城司令」
「青木、時間がない、早く選べ」
「好きです。愛してます」
「は? お前、今の状況わかってて言ってんのか」
「答えなんか決まってます。ダイレンジャーを一度クビになって、よくわかりました。俺はヒーローになりたい。世界なんかどうでもいい、あなたを守りたいんだ」
「はあ、まあ、いいか」
神城さんは俺の首から手を離す。
「お前と話してると、真面目に生きようとしている自分が時折バカみたいに思えるよ」
「ほめられてるんすよね、それ」
「まあ、そう思っておけ」
気がつけば階段下はパトカーと警察でごった返していた。
その前に歩み出てきたのが、火野さん率いる新ダイレンジャーだ。
火野さんとサムライブラック、そしてレッド選抜試験のときの新人坊やがいる。さすがに他のダイレンジャーは神城司令の捕縛には呼ばれなかったようだ。神城司令の息のかからない新人達の初仕事ってところか。
「この数はちっと骨が折れますね、どうします、神城さん」
神城さんはあきれ顔から、いつもの冷徹な表情に戻り、俺にとんでもないことを伝えてきた。
「お前の未知数のギフトについて、研究結果を伝える」
それ、今っすかね?




