23. 《時間跳躍》vs《未来予知》
豊橋のいいところを3つあげろと言われたら、まず市内電車が走っていること、次にマツケンこと黄金の暴れん坊将軍――松平健さんを生み出したこと、そして⋯⋯、新幹線が止まることだ。
俺達は新幹線に乗って名古屋に向かっていた。
豊橋から名古屋まで、新幹線なら25分ほど。
考えることがたくさんあったが、ぼんやりしているうちに着いちまう。
「青木くん、大丈夫か?」
考え事をしていたら一瞬バグっちまう。そこにいるのがブラック先輩――カナさん、なのはわかっているんだが、顔を向けると見たこともない女性で、声音も違うもんだから。
今回の作戦に参加しているのは俺とカナさんと南方の3人だ。
俺達は正式に神城さんからアトラスブルー、アトラスブラック、アトラスレッドに任命され――レッドに関しちゃ、俺は認めてないけどな――星乃博士からブレスレット型の新ヒーロースーツを授けられた。
今はブレスレットの機能を使い、ナノマシンで全身に別人の変装をほどこしているってわけだ。
男女2人なら目立たないが、3人だと目立つので、南方は別車両に乗っている。
「姉さんの⋯⋯ことだな」
俺は何かを答えようとして、でも返事ができなかった。でも、それは言葉にするよりわかりやすい返事だったろう。無言の肯定ってやつだ。あの日から俺の頭の中は神城さんのことでいっぱいだ。いや、まあ、その前から大体そんなもんなんだが。
*
三日前、アトラス司令部で神城さんから俺たちに今回の作戦が示された。
「私の《未来予知》は黒木の《呪いの王》の力で白宮/黒木の動きは追えないようになっている」
「だから、《未来予知》の力で、奴らがこの先何をするかはわかんないんすよね?」
「と、奴らは思っている。奴らも《未来予知》の弱点を知っているからな」
「《未来予知》の弱点⋯⋯って?」
「姉さん! それは神城家の禁忌です」
珍しくブラック先輩が声を荒げる。
「かまわん。どうせ、御三家同士はお互いの力を抑制するため、暗黙のうちに知り合っていることだ。敵が知っているのに、味方が知らない道理はないだろう。《未来予知》の弱点は、未来を知るかわりに、私の生命を削ることだ」
「は? 生命を削る⋯⋯、って、どういうことなんだよ、レミちゃん!」
とっさのレミちゃん呼びに、神城さんはため息をつく。お前、何度言ったらわかるんだ?、とその瞳が語っている。
「そのままの意味だ。時間を操る力は生命の力を使わなければ使えない。《未来予知》を使うたびに、私の寿命は減っていく。だから、奴らは私が《未来予知》を乱用できないと思っている。しかも、ご丁寧に《未来予知》に制約まで加えてきたからな。奴らはもう《未来予知》は使いものにならないと思っている」
「そりゃ、そう思いますよね」
「白宮の《時間跳躍》の力は巻き戻った時点が最強なんだ。その時点ではそこから何が起こるか100%わかるからな。なにせ一度経験している人生だ。そこから時間が経過するほど、白宮が時間軸に変化を加えるほど、元の時間軸とは分岐して未来が形成されてくるため、何が起こるか分からなくなるから《時間跳躍》のメリットは失われていく。その点、私の《未来予知》ならどの時間軸においても現在進行形の未来が読める。そこが私たちの最大の武器だ。それを恐れていたからこそ、黒木は嬉々として私の《未来予知》の制約にのってきた」
「神城さんが何考えてんのか、相変わらずさっぱし分かんないんすけど」
「わかんねえなら考えるな。バカが考えても答えは出ねえんだから、時間のムダだ」
なんだかデジャヴだな。
前にもこんな会話をしたような。
「奴らは油断している。だから、思いっきり使ってやったんだ」
「何を!?」
「《未来予知》だよ。死ぬほど《未来予知》を使ってやった。日本全土、主要都市に起こる出来事を片っ端から見漁ってやった。あらゆる時間軸分岐の可能性もな。奴らが直接視えないなら、簡単なことだ。奴ら以外を視ればいい、視えないところで奴らは何かを企んでいるわけだからな。市役所にあったアトラス司令部も未来がうまく視えなくなったから何か起こると察することができたんだ」
めちゃくちゃだ、この人。
でも、神城さんらしいっちゃ、らしい。
「そんな⋯⋯、そんなに《未来予知》を使用したら姉さんの生命が⋯⋯」
「今しかないんだ。小出しにしても寿命を浪費するだけで《未来予知》から有効な情報は取れなくなっていく、そして、同時に白宮は力を増していき、この国を支配していく。後になるほど、我々アトラスの勝ち筋が消えていくのは明白だ。奴に勝つには今が最善なんだ。奴が日本の頂点に君臨する前に、世界を味方につける前に倒すしかない。アトラスの最後の戦いだ。みんな、力を貸してくれ」
司令部にいるみんながそれぞれ神城司令を見ながら、一様に頷いている。
ただ一人を除いて。
「ブラック先輩、大丈夫ですか?」
ふと見ると、ブラック先輩の顔が蒼白になっている。
「最後って、まさか姉さん⋯⋯」
詰め寄ろうとするブラック先輩を、神城さんは手で制した。
「勝負は3日後、奴らが必ず何か仕掛けてくるイベントがある。そこに向けて限界まで《未来予知》を使い切った。目指すは名古屋国際会議場だ!」
「3日後の名古屋国際会議場⋯⋯!」
南方が理を得たりという顔をしている。
気にいらねえな。俺より先に神城さんの思考に繋がるんじゃねえよ。
「その日、名古屋で何かあるのか?」
「国際ヒーローサミットです。名古屋国際会議場に全世界からヒーローや司令官が集まる予定です」
「⋯⋯それ、今の俺たちが一番近づいちゃいけないとこじゃね?」
「だから、いいんだろ」
これだよ。こういうときの神城さんの顔が、めちゃくちゃ楽しそうで、輝いていて、⋯⋯俺はそんな神城さんが、大好きなんだ。
「ぶちかましてやれ」
あなたがそういうなら、⋯⋯やってやるさ。
もとより神城さんに捧げた生命だ。
*
俺達は名古屋駅から地下鉄に乗車し、栄で東山線から名城線に乗り換え、西高蔵駅で降りた。
ここまでは神城さんの《未来予知》の通り、何も起きない。別ルートでは俺達は国際会議場にたどり着くこともできなかったらしい。これが唯一のルートなのだそうだ。
ただここから先は小細工は通用しない。
改札を出たあと、地下道を歩き、国際会議場へ向かう出入り口の階段を登る際に、俺達三人はそれぞれブレスレットのボタンを押した。
俺の身体をナノマシンに制御された全身型のスカイブルーのヒーロースーツが覆っていく。カナさんは元のヒーロースーツに近い、サムライを模した黒いヒーロースーツ。南方は往時の赤星さんを彷彿とさせるシャイニングレッドのヒーロースーツだ。
ここから国際会議場までは立ちはだかる敵を蹴散らせという司令だ。
「いくぞ!」
俺達は光の中に飛び出した。
生命を賭した神城さんに報いるなら、俺達も生命を賭けて戦わなきゃならねえ。
俺が帰るまで、死ぬなよ、神城さん!




