20. 不死鳥の再来
気がつくと暗い部屋にいた。
どこか近くにわずかに光源があるようだ。
だんだん焦点があってくると、周りの光景がぼんやりとつかめてくる。
俺はどうやらベッドで寝ているようだ。
なんだか足のあたりがけだるいなと思い、肘をついて上半身を少し起こしてみると、そこに女神がいた。
ブラック先輩。
ヒーロースーツは破壊されてしまったため、今はなにやら上品そうな生地の着物に身を包んでいる。色はほのかな水色。
ベッドの隣の椅子に腰掛け、そのまま俺の足にもたれて眠ってしまったようだ。
ずっとマスクに隠されていたのでわからなかったのだが、髪はボブくらい、まつ毛が長く、素顔がとんでもなくカワイイ。
いつまでも見ていられる。
こんな幸せな目覚めがあっていいのだろうか。
今の俺ならガイアレッドやら、白宮長官やら、黒木朔夜やらだろうが余裕でぶっ飛ばせる気がする。
「んっ」
俺の体動に反応したのか、ブラック先輩が慌てて起き上がる。俺と目が合うと、ブラック先輩の目が潤み、そしてがばっと抱きついてきた。
「よかった、青木くん。もう目覚めないかと。心配したんだぞ」
「は!? 俺そんな寝てました?」
「君が倒れて、三日になる。無理もない。ガイアレッドと闘い、それから白宮英雄に立ち向かい、さらに《黒き侍》の暴走も抑えてくれたんだ。君にはどれだけ感謝しても足りない」
いや、もうこのハグでお釣りがでるくらいの報酬なんですが。
めちゃくちゃいい匂いがする。
なんだ、俺もう死ぬのか!?
幸せすぎて死ねる⋯⋯。
って、ちょっと待てよ。
寝る前の記憶があやふやだ。
「俺、三日も寝てたんですか!?」
「そうだ、覚えてないか? 私も気を失っていたので、あとで報告を聞いたのだが。《黒き侍》の暴走を君は新しい力に覚醒して、おさめてくれたと聞いた。ギフトを失っていたはずなのに、君ってやつはどれだけすごいやつなんだ」
「いや、そんな、それほどでも、⋯⋯ありますけど」
なんだ、なんか大事なことを忘れている気がする。
豊橋市動植物園でのガイアレッドをブラック先輩との共闘でぶっ倒し、あいプラザ豊橋で白宮英雄&黒木朔夜に会って《黄金の爆炎》を奪われ、⋯⋯そうだ、アトラス司令部が爆破されたんだ。
だんだん記憶が戻ってくる。
そのあと《黒き侍》が暴走し、ブラック先輩の素顔に心打たれた俺は新たな力《白銀の爆炎》を発動させて、《黒き侍》を打ち破った。
その後、なんっっっか大事なことがあった気がするんだが。
「ああ、二人とも起きましたか」
部屋の奥から聞き慣れない声がする。
そちらを見ると、蝋燭の光に照らされる人影がある。眼鏡をかけたその顔が、気を失う直前に見た顔と一致する。
「ああっ、お前!?」
「お前とか、やめてくださいよ、青木センパイ。名乗ったはずですよ。新アトラスレッド、南方駆です」
確かに。全部思い出した。
こいつに出会って、急に力が抜けてぶっ倒れちまったんだ。
「認めねぇ。なんで俺を差し置いて、お前が⋯⋯」
「確かに、今の僕では力不足です。レッドがリーダーなんて決めつけるのは時代遅れですよ。リーダーは青木さんがいいと思います。よろしくリーダー」
なんっだ。いい子じゃないか。
「ああ、よろしく。リーダーなんてくすぐったいな。ははは。⋯⋯っじゃ、ねえええぇぇぇ。そこはっ! まあ、それでいいが。そこじゃねぇ!! レッドだ、レッド。なんっで、新人のお前が!!」
南方はふっと後ろを向いたかと思うと、「ちっ、意外とめんどくさい奴だな」とぼそっと呟き、こちら側を向いて、右手を上げた。
おい、全部聞こえてんぞ、お前。
すると南方の右手が炎に包まれ、そして炎がゆっくりと形を作る。鳥の形をした炎は長い翼と尾をなびかせ、ゆっくり部屋を一回りすると消えた。
何度も見たことがある。よく赤星さんが愛おしそうにその炎の鳥を作って見ていた。
「《不死鳥の流焔》⋯⋯だな」
「はい」
ようやく繋がった。赤星さんがいないのにどうしてその最強の炎の力を、時折近くで感じたのか。どうして実績もねえ、こんな若造を神城さんが甘くみていたのか。
《不死鳥の流焔》は攻撃系ギフトの最高峰。これまた《最強7大レアギフト》の1つだ。
「でも、なんで赤星さんのギフトをお前が?」
「お前、はやめてもらえないんですかね?」
「お前を認めたらやめてやるよ」
「青木さん、思ってたより粘着質なんですね。もっと何も考えてない人かと思ってました」
「お前、なんか堂々と俺をバカにしてないか?」
南方はふう、とこれみよがしにため息をつき、「赤星猛は僕の実の父です」と衝撃発言をぶっこいた。
「は?」
おいおい、寝起きに今日イチの衝撃だよ。




