19. あなたを守る、俺の生命をかけて
《黒き侍》の周りを取り囲む暴風と雷鳴がひときわ凄みを増す。
その姿はもはや守護霊なんてレベルじゃなく、精霊だ。人の扱えるモノではない。
もともと制御ギリギリの存在だったのに、黒木の呪いのせいで、とんでもないものが生み出されてしまった。
ブラック先輩のヒーロースーツも限界だ。全身のあちこちから火花が飛び、白煙が上がっている。
このままじゃ、ブラック先輩がマジで死んじまう。
力のないものには、何も成し遂げることはできない。
力が足りないと思ったら、戦場に近づくな、足手まといにしかならない。
さんっざん神城さんと赤星さんに教育されてきた。身体にたたき込まれた処世術が俺の身体を縛りつける。
ごめん、二人とも。
俺は何もできなくても、目の前で仲間が死ぬのをただ黙って見ているだけの男にはなりたくないんだ。
「ブラック先輩!!」
俺は迸る雷鳴を必死で避けながら、荒れ狂う暴風の中、ブラック先輩に駆け寄る。
「死んじゃダメだ、どんだけカッコ悪くても、どんだけ泥くさくても、生きるのを諦めちゃダメだ。やるだけやってどうしようもなければ仕方ない、そんときゃ俺も一緒に死ぬ」
ブラック先輩が振り向き、こちらに刀を投げつける。俺の目の前の地面にこれ以上来るなと、守り刀が刺さる。
「来るな、逃げろ、青木くん。もうこの建物は崩壊する。今しか逃げるチャンスはない」
俺はブラック先輩が威嚇で投げ、地面に刺さった刀を引き抜き、それを《黒き侍》に向けて構える。
「武士道とは死ぬことと見つけたり、ってね。俺は人の話を聞かねえたちなもんで、すみません」
「⋯⋯ばかもの」
その時、《黒き侍》がこちらの敵意に自動反応し、《雷神》を振るった。その瞬間、空から稲妻が降りてくる。死を覚悟した俺をブラック先輩が音速で駆けてきて、押しのけた。
轟く雷鳴がブラック先輩を貫き、その瞬間、漆黒のヒーロースーツが粉々に砕け散った。
真っ二つに割れた仮面から現れたのは、朝ドラのヒロインと言われても納得のド直球大和撫子だった。
倒れこむ美女を慌てて抱きかかえる。
「青木くん⋯⋯、無事か。良かった⋯⋯」
ブラック先輩はそのまま意識を失う。雷撃のショックのせいだろう。でも、呼吸もある、心拍もある。まだ生きている。
ブラック先輩が女性だった!? いや、そんなことはどうでもいい。今一番の問題はブラック先輩がとんでもない美女だってことだ。神城さんに匹敵する美貌。ちょっと待て、そうか神城さんの弟じゃない、妹ってことか!? なおかつ性格も良いときたもんだ。そんなことあるか!? 傾国の美女が2人も身近にいる!? 俺はどうしたらいい。どっちを幸せにしたらいいんだ。
あれやこれや妄想している間に、《黒き侍》の暴走が極まってきた。《黒き侍》を中心に発生する竜巻が刻々と迫ってくる。しかも、雷を纏う暴風だ。あいプラザ豊橋はすでに半壊し、火災も発生、周囲を炎に取り囲まれている始末だ。まさに地獄絵図。
生きるか、死ぬかの瀬戸際だ。まずは目の前のことに集中だ。ブラック先輩を何が何でも生きて連れ帰る。イチャイチャするのはそれからだ!!
「ブラック先輩、ここで少し待っていてください」
もはや安全な場所なんかどこにもない。その場にブラック先輩を横たわらせる。そして、《黒き侍》に向き直る。この場で、唯一安全な場所があるとしたら、それは俺の背後だけだ!
「ブラック先輩、あなたを守る、俺の生命をかけて」
俺の中から力が湧き上がってくる。奪われた力が俺の全てではないと、俺のギフトそのものが教えてくれる。
そうだよな、《蒼の爆炎》!!
俺の全身を蒼き炎が包みこむ、その爆炎が白を経て、そして白銀の炎へと変貌する。
《白銀の爆炎》!!
ブラック先輩への想いが、俺の新たな力になる。
《速度強化》、白銀の炎の上を俺は滑らかにスピードスケートのように滑る。稲妻をくぐり抜け、竜巻の中へと飛びこむ。暴風と雷撃に全身が張り裂けそうになるが、《防御強化》にて全身を白銀の炎が包みこむ。
《黄金の爆炎》のような一瞬の爆発力はないが、《白銀の爆炎》は使いやすいスキルだ。思ったとおりに、流れるようにスキルが使える。まるでそのまま、神城さんとブラック先輩のキャラのようだ。
《黄金の爆炎》はキング、王手を指せる勝負を決める強大な力がある。
《白銀の爆炎》はクイーン、スキルが使用しやすく、思いどおりに力を引き出せる。変幻自在の万能感だ。
《黄金の爆炎》では自分の肉体しか物理強化できなかったが、《白銀の爆炎》では武器や防具にまでその力を広げることができるようだ。
俺は《黒き侍》の巻き起こす竜巻に乗り、天空に舞い上がる。竜巻の頂点まで達したところで、竜巻の中央。《黒き侍》の真上から自由落下する。
「古今東西、竜巻の弱点は頭上と決まってらあああぁぁぁ!!」
《攻撃強化》、俺はブラック先輩の守り刀を握りしめ、白銀の炎の矢となる。
《白銀の炎槍!!》
「いっけえええぇぇぇ!!」
勝負は一瞬。しかし、敵意にオートセットする最強の剣豪の抜刀の方が速かった。俺の白銀の矢が届く前に、黒き刃の閃光が走った。殺られる、と思ったそのとき、《黒き侍》の抜刀が弾いたのは、真横から竜巻をぶち抜いて達した炎撃だった。
振り抜き、隙だらけになった《黒き侍》を俺の《白銀の炎槍》が貫く。
《黒き侍》の姿が半透明となり、やがて細かい粒子となって消えた。と同時に、周囲の暴風も雷鳴も嘘みたいに消え去った。
俺は最後の力を振り絞り、ブラック先輩に寄り添う。スーツは粉々だが、全身に特に目立った外傷は無さそうだ。美しい顔にも傷はない。呼吸と脈を確認し、俺はブラック先輩を抱き上げ、《黒き侍》との決着の最中、炎撃が飛んできた方向に向かう。
俺が見間違えるわけねえ、あの炎は俺の知る限り最強の炎――《不死鳥の流焔》。
そこには世界一信頼できる男が立っている、はずだった⋯⋯。
「赤星さん⋯⋯、じゃない!?」
そこに立っていたのは、退職代行を頼みそうなアカデミー上がりのド新人。
「新アトラスレッド――南方駆」
いや、認めねえよ、俺は。




