18. 呪いの王、暴走する侍
「こうならないように気をつけていたのに⋯⋯」
ブラック先輩の動揺が半端じゃねえ。
「ブラック先輩、あの、姉さんって、まさか?」
「神城司令は私の実の姉だ」
マジ!?
最大のライバルだと思っていたブラック先輩がまさかの弟!?
そりゃ、神城さんに信頼されるわけだ。
しっかし、ブラック先輩の反応がどうもおかしい。
「ブラック先輩、どうしたんですか? あの神城さんですよ。《未来予知》でこんな事態、予見できているはずでしょ。司令部に取り残されてるわきゃないですよ」
黒木朔夜の笑い声が劇場に響き渡る。
癇に障る笑い方をしやがる。
「くははは⋯⋯、アトラスブラック。こいつは何も知らないのか。《未来予知》がもはやそんな万能な力でないことを。それともそんな大事な話も神城に見惚れて聞いてなかったのか!?」
ブラック先輩が立っていることすらできないのか、その場で崩折れる。
「逃げろ。青木くん、君だけでも。我々の完全敗北だ。7年前、私はヒーロー裁判にかけられた。私にはレインボーブリッジ事件の全責任が課せられていた。もとより白宮英雄の息のかかった裁判だ。勝てるわけがない。私はそこで死ぬはずだったんだ」
《黒き侍》が唸りを上げた。それはまるで獣の咆哮のようだった。
暴走!?
これ、まずいんじゃねぇか!?
「私の死刑を免れるため、神城司令は白宮英雄に取引を持ちかけた。それを、白宮英雄は喜んで受けたよ。神城司令と赤星猛と私の3人が黒木朔夜の《呪いの王》を甘んじて受ける。その引き換えに、私の死刑ならびにヒーロー免許取消が免除された」
ちょっと待てよ。
なんで、そんな大事な話を教えてくれなかったんだ。
「《呪いの王》の力で、神城司令は出身地である豊橋でしか《未来予知》を使えなくなり、白宮や黒木に直接関わる未来予知は見れなくなった。赤星猛ことアトラスレッドの《不死鳥の流焔》はその力の強大さゆえ、すぐに力を損なうことはなかったが、徐々に力を失う呪いがかけられ、ヒーローとしての活動限界に達した時点で引退を余儀なくされた。その上、メディアを通じて、笑いものにまでされた。そして、私の《黒き侍》もまた呪いの力で、コントロールが難しくなってしまった。私が少しでも感情を動かすと自動発動するようになってしまったんだ。事件後、名前と姿を変えてヒーロー活動を再開したが、白宮の仲間が私を《ヒーロー殺し》だと吹聴し、《黒き侍》がそれに反応して仲間を半殺しにする事件を繰り返したため、私の信用はヒーロー社会の中で失墜した」
《黒き侍》の左手の刀は『風神』、その力の暴走で《黒き侍》を中心とした暴風が生まれようとしていた。そして、右手の刀は『雷神』。暴風に加えて稲妻が走る。
この暴走が7年前にレインボーブリッジを崩壊させたんだ。その力が今、再び降臨しようとしていた。
「豊橋は今大混乱だ! 豊橋東部に位置する豊橋市動植物園で起きた謎のヴィラン襲撃、からの大破壊! 動植物園に警察やマスコミが殺到する中、今度は豊橋中央部の豊橋市役所での大爆発!! そこから距離のある、ここ豊橋南部のあいプラザ豊橋には誰も目を向けていない。数少ない仲間もみんなドカンだ。さらばだ、アトラスレンジャー。神城と縁をもったことを永遠に悔やむがいい」
黒木朔夜が舞台を降り、一番近くの扉に向かう。すると扉が開き、桃ちゃんが現れた。
「桃ちゃん!!」
俺の呼びかけに、桃ちゃんはカケラの反応も見せなかった。ただ黒木に忠誠を誓うように、頭を下げるだけだ。くそっ、俺は信じねえぞ。
「黒木ぃぃぃ。てめえ、覚えとけよ。俺は必ずお前をぶちのめす! 神城さんは死んでねえ。そんなことで死ぬような人じゃねえ。そして、俺も生き延びる。何が何でもだ。人の生命を甘く見るんじゃねえ。生命を燃やして、お前が人生何周しても叶えられなかった神城さんとの結婚を俺が成し遂げてみせる!!」
「アトラスブルー、スキルを失い、戦闘力を失ったお前に何ができる。もともとお前程度のヒーローがしゃしゃりでてくる舞台じゃないんだよ。身の程知らずが。アトラスブラックの暴走に巻き込まれて死ぬがいい。これでアトラスレンジャー完全消滅だ。私にとっても新しい人生の幕開けだ。さらばアトラスレンジャー。さらば神城レミ。これからは私のやりたいようにこの国を支配していく、この国の暗黒時代がこれから始まるのだ!!」
黒木の高笑いを残し、扉は非情にも閉められた。
すでに《黒き侍》の暴走は止められないところまできていた。暴風が竜巻となり、天井を貫き、建物全体が振動を始めた。
「青木くん。君と出会えてよかった。昔から私の周りには、私の顔色を伺う人ばかりだった。《黒き侍》を受け継いだことで、幼少期から強大な力を持つことに苦しんできた。簡単に人を傷つけることのできる力だ。一歩間違えば、人を殺めてしまう。だから、極力、人との接触を避けてきた。アトラスレンジャーの頃は少し楽しかったな。赤星さんを始め、強い戦士が集まっていたから、暴走しても誰かが私を止められると信じられたから、少し心を開けた。けれど、北条に裏切られ、白宮に敗北し、再び人を信じられなくなった。ずっと暗闇の中を歩いていた。君と一緒に過ごしたこの一月は、本当に楽しかった。青木くん、君は太陽のような人だった。君のように裏表のない、素直な人は他にいない。君は生きなくてはいけない。誰かが黒木の世界を止めなくてはならない。ギフトなどなくても、君の声はきっと世界中の人々に届く。ありがとう、そして、さらばだ、アトラスブルー」
気づけば白宮英雄にぶん殴られたブラック先輩のヒーロースーツの腹部がヒビ割れ、火花が散っている。
「現存する最高強度のスーツも白宮の膂力の前には役に立たないな。《黒き侍》は私のギフトだ。私が死ねば、消失する」
ブラック先輩が暴走する《黒き侍》に向かって歩き出している。
自滅するつもりなのだ。
「ダメだ! 先輩、そんなことさせねえ。もうこれ以上、仲間を失いたくねえ」
とんでもない風力が劇場内を埋め尽くしている。電流もビリビリきやがる。スキルを失った俺は身動きがとれない。
こんなにも無力なことが悔しいなんて。仲間一人守れないなんて、そんなことでヒーローを名乗れるもんか!
きばっても失われた力が戻ってくる兆しはない。
こうなりゃ捨て身でブラック先輩を留めるか。留めたところで、暴走する《黒き侍》をどうすりゃいい!?
そうこうしているうちに、ブラック先輩は暴風の中、《黒き侍》の前に立ちはだかった。
くそっ、考えてる場合か。
「《黒き侍》⋯⋯今までありがとう、もう終わりにしよう」
「そんなのダメだ、ブラック先輩! やめろおおおぉぉぉ!!」




