17. いいか、人生は一度きりなんだ
「白宮のやつは演説が好きでな、いろいろ話しすぎる⋯⋯」
とか言いながら、黒木も舞台上で悦にひたり、何事か語り続けている。結局、もとは同じ人間なので、どっちも演説好きなんだろう。
神城さんの話も終わっちゃったみたいだし、俺は黒木の話になんとなく相槌をつきながら、聞いている風を装って思索にふける。
なんかいろいろわかった気がする。
神城さんがあれほど思いつめて、秘密結社をつくって、犯罪者になってまで、闘い続けるのか。
「⋯⋯俺としてはな、お前みたいな小物を相手にする気はなかったんだがな⋯⋯」
自分の人生をなげうってでも、白宮英雄――今は黒木朔夜か、(正直、どっちでもいいんだが)をブチのめしたがっている理由が。
全部こいつが悪いんだ。
神城さんはたまたま《未来予知》を受け継いだだけだ。もって生まれたそのギフトのせいで、勝手に白宮英雄の許嫁にさせられた。そこに神城さんの意志はない。どうせ、なんでも世界は自分達の思いどおりになると思ってるお偉方の余計なお世話だ。
「⋯⋯ガイアレッドは俺が仕立て上げたヒーローだ。ガイアレッドの力に瞬間とはいえ届いたお前を⋯⋯」
でも、神城さんは強い人だ。
自分の人生は自分で道を決めて歩いていく人だ。
お偉方の敷いたレールなんてクソ喰らえ。
勝手に決められた許嫁なんざ、従うはずがない。
しかも、白宮の態度が最悪だ。あれだけの美女が許嫁だっつーのに、自分の立場からしたら当たり前――いや、むしろ俺様の嫁になれるんだから神に感謝しろ、くらいに思っていそうだ。そんな奴をあの神城さんが受け入れるはずがない。白宮家本家だかなんだか知らないが、エリート中のエリートが、自分を否定しまくられて、ヒスっちゃって、ヴィランの親玉のできあがりってわけか。たち悪っ。
それで世界平和を目指してたやつが、終末論者に差し替わるあたり、権力持ってるやつが暴走すると手に負えない。
その責任を感じてるから、神城さんは自分の幸せを追えないんだ。
「⋯⋯つぶすのは簡単だ。でも、それじゃ面白くない、一つゲームをしようじゃないか⋯⋯」
全部話すって言ったのに。そのあたりの経緯だけ話してくれなかったのは、それは自分の問題だと思っているからだ。
よし、わかった。全部、承知。
神城さんを幸せにするのに、神城さんの人生に踏みこむために、こいつは避けて通れねえ問題だ。
なんでラスボス自身が豊橋くんだりまで現れたのか謎だったが、そういうわけね。
自分の意にそぐわない神城さんを一番苦しめたがっている張本人だから。そんでもって、今の神城さんの周りに自分の脅威になる人間がいないとイキりきってるから、余裕をブチかまして御本人登場ってわけだ。
「⋯⋯したら今回は撤退してやる。もしそれができないのなら、お前を殺すだけだ。さあ、選べ、どうする」
痛いほどの静寂。
「⋯⋯え、なんですって?」
「お前⋯⋯、まさかあれだけ頷きながら、聞いてなかったのか?」
「すみません。俺、校長先生の話とか無理なたちで」
「⋯⋯ブラックが倒れている今、お前にしか話してなかったんだぞ」
「俺、今頭ン中、神城さんの話しか受け入れないモードになってんすよ」
「バカにしてるのか」
「バカにしてるつもりではなかったですが、バカなやつだとは思ってますよ」
「俺のことか!?」
「あんたしかいないでしょ」
「お前らはどいつもこいつも⋯⋯」
「グダグダうるせえな。だからフラレるんだよ。お前は人生何周もしてるから、何度でもチャンスがあるなんて思っちまって、本当に大切なものを見失っちまうんだ。いいか、人生は一度きりなんだ。あれだけの美女を手に入れられるかどうかなんて、人生全部、生命全部、かけられるものはすべてかけて、ようやく勝負できるかどうかくらいのもんなんだよ。人生何周分回ってきて、お前はどれだけ真剣に神城さんに向き合った!? 賭けてもいいが、お前の人生何周分まとめても、俺の一度っきりの人生で神城さんにかける想いは負けやしねえ。何が何でもお前をぶっ倒して、そんでもって、神城さんを幸せにすんだよ! 邪魔するんじゃねぇ!!」
神城さん、こいつぶっ倒したら、キスじゃすまねえからな。事後承諾だが、結婚してもらうぜ。
想像しただけで、力が湧き出してくる。レミちゃんとのスウィィィトな新婚生活!!
うおおおおぉぉぉぉーーー、妄想が止まらねえええぇぇぇ。
俺の全身を《黄金の爆炎》が包みこむ。小細工は無用! 始めっから、120%全力だ!!
「いくぜええぇぇ、黒木朔夜ぁぁ!!」
《黄金の爆炎・最大火力》
俺の右腕に巨大な黄金の火柱が生まれる。俺はそれを黒木朔夜目指して、思いっきり叩きつける。
「いっけぇえええぇぇぇぇ!!!」
「ダメだ、やめろっ、青木くん!」
ようやく立ち上がったブラック先輩の声が場内に響き渡る。
「もう遅い。バカはお前だ。アトラスブルー。スキルは1人1つだけ。ただし、俺たちは姿が変わるだけじゃなく、それぞれにスキルをもっている。《呪いの王》」
黒木の全身を闇が覆う。俺の《黄金の爆炎》が黒木の闇に触れたそばから、その闇の中へと取り込まれていく。
「なんだっ、くそっっ」
《黄金の爆炎》を引っ込めようとするがブラックホールのように俺の全身から黄金の光が黒木の闇にどんどん吸い込まれていく。やがて、キュポンっという音とともに、《黄金の爆炎》が完全に闇に取り込まれる。
「くははははっ。赤星のギフトに比べたら大したことないな。この程度の力なら完全封印可能だ。聞いてなかったのか。俺のギフトは相手のギフトに触れた瞬間発動すると」
「そういえば神城さんがそんなことを言ってたような、言ってなかったような」
「何度も言ったよ! 神城司令も私も、黒木には絶対にギフトを使うなって」
やべえ、ブラック先輩に現場を見られているので、いかなる言い訳も通じねえ。
「すんません。神城さんが話してると、その美しさにおぼれちまって。話半分も聞けないんす」
「お前⋯⋯、本当に人の話聞かないのな。お前がギフトを使うように煽ってた自分がアホらしいわ」
敵にもあきれられてる⋯⋯。
「アトラスブラック、本当にこんなやつに神城はかけてたのか?」
「⋯⋯」
まさかの返事なしっ!?
あれ、ついさっき俺をアトラスブルーとして認めてくれるっつってましたよね!? 絶対言ってましたよね!?
「まあ、いい」
よくないんすけど。
「目的は達した。不確定要素だった新アトラスブルーの力は封じた。これでお前たちに万に一つの勝ち目もない」
黒木が右手を挙げるのに合わせて、黒木の頭上に巨大なホログラムが現れる。
そこに見覚えのある建物が映し出されている。
あれは⋯⋯豊橋市役所!?
「お前らがここに誘い込まれた時点で気づいているだろう。アトラスピンク――花村桃は俺のスパイだ。それがどういうことかわかるか? お前らの司令部はこちらの支配下。お前らがここに現れた時点から通信も途絶えているだろう」
確かに司令部とは連絡がとれない。通信妨害をされているだけかと思っていたが。
「やめろ、黒木。やめろっ! やめろぉぉ!!」
動揺するブラック先輩をニヤけた顔で見つめながら、今度は左手を上に向ける。
「ボンッ」
それを合図というように。
豊橋市役所のワンフロアが爆発した。
市役所のビルから火が噴き出し、白煙が舞う。
あれはちょうど俺達のアジトの辺り。
「てめえ!!」
「秘密結社『アトラス』と言ったか? アジトを発見し、制圧完了だ」
「姉さんっっ!! あああぁぁぁ⋯⋯!!」
ブラック先輩の慟哭が劇場に響き渡った。




