15. 重なる拳、繋がる想い
ガイアレッド――北条新がブラック先輩の前で倒れるのを見届け、俺も立っていることができずに崩れるように倒れた。
足の感覚がない。
《黄金の爆炎》は《蒼の爆炎》と同じ扱いができることがわかった。ただしバフ効果としては体感として3倍くらいの感じ。一般兵がシャア専用ザクに乗ってるようなもんだ。使いこなせるようになるかどうか、まだわからない。
シマウマが近づいてきて、俺の頬をなめる。
それを止めることもできずになされるがままだ。
こら、やめろって。
「青木くん、大丈夫か?」
ブラック先輩が心配そうにこちらをのぞきこむ。相変わらずの黒い仮面と合成音声なのだけど、不思議と温かさを感じる。
「私一人では、あいつを倒すことはできなかった。ありがとう。君は、すごいやつだ。北条新のスピードに追いついた人間をはじめてみた。神城司令が君を認めるわけだ」
俺は話を聞いただけ。それでも、北条新のしたことは許せなかった。目の前で仲間を殺され、そして、その罪をきせられ、虐げられたブラック先輩の想いは、想像もできない。
ただ、その想いの太刀をふるうタイミングに一緒にいられてよかった。力になれて、本当によかった。
俺は全身に鞭打って、拳をブラック先輩の方にのばす。
「先輩、やりましたね」
ブラック先輩はそういうことに慣れていないのか、恐る恐るといった体で、自分の拳を俺の拳に重ねた。
「私は、君をアトラスブルーとして認める」
ブラック先輩にそう言われて、泣きそうになるくらい嬉しかった。
ちょうどそのタイミングで、近くの地面に落ちていた扉がバタリと開いた。
そこからアトラスピンクこと花村桃ちゃんが現れ、……コケた。
「あいったぁー。扉取れちゃってるじゃないですかー。扉抜けたら目の前が空って、バグるんですよねー」
確かにそんなもんかもしれない。
ヘッドギアの通信装置を通じて、ガイアレッドとのバトルを観ていたんだろう。絶妙のタイミングだ。
「バトル、お疲れ様でした。警察やマスコミが集まる前に撤収しましょう。ガイアレッドは私が《才能捕縛》をかけて留置部屋に突っ込んでおきます。お二人は早くアトラス司令室へ。神城司令がお待ちです! そのドアが司令室につながってます」
ちょ、待てよ。これ、司令室戻ったら、神城さんとのキスタイムなんじゃね!?
「よくやった、青木。褒美だ、受け取れ」みたいな、いつもの男らしさムンムンパターンもありだが。
意外と、いざとなったら、「青木、その、恥ずかしいから、目を閉じろ」みたいな恥じらいパターンもあったり、なかったり!?
ヤバい、妄想だけで丼ぶり3杯余裕でいけちゃう。
はいはいはーい、レミちゃん、青木誠が今から会いに行きますよー。
とか考えてたら自然と《蒼の爆炎》が発動して、少し身体を動かせるようになった。便利な身体だ。
振り向くと、アトラスピンクが北条新に電子ロックのような手錠をかけている。あれが《才能捕縛》だ。あれをつけられている間はギフトが使えなくなる。もちろん使用には厳密な規定があるのだが、秘密結社の立場にある以上、規定も何もあったもんじゃない。アンチヒーローで押しきったものの、確かに危うい立場なのは間違いない。国を守る立場のガイアソルジャーのリーダーを指名手配犯が捕縛しているのだ。マスコミとの接触は避けるべきだ。ややこしいことこのうえないな。
「んじゃ、帰りましょうか、ブラック先輩」
「ああ、帰ろう」
宿願を果たせたことで、ブラック先輩の周りに常にはっていた気迫のようなものが和らいだような気がする。
更地になったアフリカエリアの彼方に、本来なら見えるはずのない自然史博物館前の実物大の恐竜像が見えた。
ダイレンジャー時代なら公共物破損も始末書で済んだもんだが、指名手配中にこの状況で警察に取り押さえられたら、恐竜の首に逆さに吊るされるよりまずいことになるのは必然だ。
とっととずらかろう。
地面の上のドアにどう入ったものか、一瞬悩んだものの、考えるのも面倒で、とりあえず飛び込んだ。そして、当然の帰結だが、コケた。
「いってててて、確かにバグるなこりゃ」
俺の背後ではブラック先輩がキレイに着地をしていた。あらやだ、素敵。
しかし、先輩は慌ててドアに飛びつき、ガタガタ揺すりだした。ドアは閉じた途端、ロックされ、もう開くことはなかった。
「ブラック先輩、どうしたんですか?」
「ドアが閉まる直前、笑い声が聞こえた」
「笑い声? ってか、ブラック先輩、ここ!?」
「ああ、司令室では、ないな」
周囲はとんでもなく広い空間だ。そこに無数の椅子が並べられ、なだらかに坂になっている。見上げれば2階席もあり、逆を向けば広い舞台になっている。俺達の目の前に広がっているのは、見慣れたアトラス司令室ではなく、劇場だ。
どこか見覚えのある劇場⋯⋯。
「笑い声は北条新のものだった」
「ハメられたってことですか?」
「おそらく、気を抜くな」
ブラック先輩が《黒き侍》を発動する。
《黒き侍》は悪意に自動反応する。侍は暗い舞台に刀を向けていた。
俺の頭の中には1つの考えがグルグル回っていた。多分ブラック先輩もそうだろう。
もしこれが罠だったのなら……。
言葉にしたくない。
したくないが、間違いのない結論が一つ生まれる。
……アトラスピンク――桃ちゃんが裏切った、ということだ。
頼む、何かの間違いであってくれ。
舞台に明かりが灯る。
「くっっっ」
そこにいたのは、ヒーロー省長官、白宮英雄。
俺達の最大の敵、ラスボスだ。
おいおい、登場早すぎだろっ!




