10. 天狗の鼻は折られるのが世の常
「古今東西、悪の栄えた試しなーし!! この豊橋の地に、俺達ダイレンジャーがいる限り、平和を脅かすヴィランは絶対に許さん!! くらえ、《蒼の爆炎》!!!」
「ぐわああああーーー」と言いながら、俺はヴィランの着ぐるみごと倒された。
訳がわからんだろうから説明しよう。
あの豊橋市公会堂での大立ち回り以降、俺達は絶賛お尋ね者だ。
俺は顔を出せないので、豊橋市動植物園、通称「のんほいパーク」でヒーローショーに参加。まさかの旧ブルーレンジャー本人がヴィラン役で、ブルーレンジャー役のバイトにぶっ飛ばされてる最中だ。
説明してても訳わからん。
はっきし言って、すっげえストレス。
でも、俺が指名手配になっても脚本が書き換えられてないのんびりさが豊橋のいいところだよな、って思う。正直ちょっと救われてる。
控室に戻ってからも、みんなが帰ってからじゃなきゃ着ぐるみを脱げないので、ブラブラしてたらブルーレンジャー役のバイトにポンポン着ぐるみをはたかれた。
「きみ、なかなか倒されっぷりいいね。これからもよろしく頼むよ。いずれヒーローになる俺の踏み台になってくれよな。なーんてね、ハッハッハ」
ブチ切れて《黄金の爆炎》でブチのめすところだった。
とはいえ、あれから1ヶ月、俺は《黄金の爆炎》を出せないでいる。
ベンチに座り、ふがいなさをかみしめる。
*
一月前。
豊橋市公会堂で警察に包囲された俺達は、そのまま警察達とも大乱闘、とはいかずに、とっとと退散した。
「宣戦布告は火野をぶっとばしただけで十分だ。警察を蹴散らすわけにもいかん。撤収する」
と言って、神城さんは公会堂の扉を押し開けた。
俺の記憶だと、そこは大ホール前の広間になっていたはずなのだが。その扉の先は見たこともない会議室になっていた。
サムライブラックと新人くんがくぐったあと、閉められた扉はもう開けようとしても開かなかった。
「ここは、どこなんすか?」
「豊橋市役所のワンフロアだ。このフロアだけ閉鎖して、市役所側からは入れないようになっている」
今度は豊橋市役所ときたもんだ。公会堂のすぐ裏手。とはいえ、公会堂と市役所との間には100mくらいの距離はあるし、それに会議室の窓から見える景色は地上20階くらいの高さはある。
「瞬間移動?」
「まあ、みたいなもんだ。扉と扉を繋げる。こいつのギフトだ」
神城さんの奥に、ガンバルマンピンクが座っている。
「ども、ガンバルマンピンクこと花村桃でっす」
正直、迂闊だった。
ガンバルマンピンクとはもちろん初対面ではない。あのレッド採用試験で会っている。しかし、あのときはガンバルマンピンクは全身型ヒーロースーツを着用していたため、ヘッドギアにて顔を隠していたのだ。
神城さんほどではないが、素顔がカワイイ。
神城さんが見た目だけはド直球正統派アイドルだとしたら、桃ちゃんは地下アイドルみたいな素朴な可愛さだ。
俺はここに一生幽閉されても、カケラの不満なく生きていける自信がある。
「花村のギフト、《どこでもド……》じゃなかった。《天国への扉》だ。ドアの形をしているところ同士なら、どこでも繋ぐことができる。この会議室へは花村のギフトでなければ、たどり着くことはできない。安心して少し休め」
「ちょっと待ってください、神城さん。結局、サムライブラックも、ガンバルマンピンクも、このアカデミー上がりの新人も、全員神城さんの仲間ってことですか?」
「そうだ」
「そんでもって、火野さんは?」
「あいつはただのかませ犬だ」
「ってことは、あのレッド選抜試験は、まさか俺のため……」
そうだ。事情を知らなかったのはどうやら俺と火野さんだけ。火野さんがかませ犬ってことは、当然俺の神城さんへの愛を確かめるための試練!
「あれは敵への宣戦布告だ。お前がキショいことをいうから、鳥肌たったわ」
「は? んなわけないでしょう。レミちゃんったら本当に素直じゃないんだから」
「おい、サムライブラック、こいつヤッちゃっていいぞ」
「は?」
サムライブラックが俺の前に出てくる。その全身から無数の刃が出てきて、俺の周囲を取り囲む。
「神城司令の言うことは絶対」
なんの感情もこもっていない、ダース・ベイダーみたいな無機質な機械音声が流れる。ヒーローマスクに音声変換機能がついているんだろう。
「レミちゃん、ってか、こいつサムライブラックって、あれだろ。ヒーローの禁忌である仲間殺しで、一度ヒーロー免許取り消しになった奴だろ。信用できるのかよ」
「あ、ちょっと、それは禁句ですよー」
ガンバルマンピンクの桃ちゃんが急に青ざめた表情に変わる。
神城さんはそんなことには全く動じない。
「信用できるかどうか。自分の目で確かめろ。しばらくはお前とサムライブラックでバディを組んで動いてもらうからな」
サムライブラックは全身を侍の甲冑のようなヒーロースーツで覆われている。その背後から数多の刀が現出している。刀を無数に生み出す《生成系ギフト》かと思っていたら、その刀が集まっていき、大きな刀を握る侍が亡霊のように現れた。
なんてこった、《召喚系ギフト》だったのか!?
《召喚系ギフト》はかなりのレアギフトだ。初めて見た。
「そいつがサムライブラックのギフト《黒き侍》だ。強いぞ、気ぃ抜いてっと死ぬぞ」
珍しく神城司令の声がマジだ。
確かに目の前の剣豪の放つ殺気が凄まじい。
《黒き侍》の刃がにじり寄ってくる。俺は反射的に《蒼の爆炎》を身にまとう。
こいつはやべえ。向かい合った時の圧が火野さんの比じゃない。
「やんのか、てめえ。さっき見ただろうが、俺はめったくそ強えぞ。かかってこいや」
1分後。
俺は《黒き侍》にボコボコにされて、地面に横たわっていた。そんな俺に神城さんは優しい声をかけるどころか、思いっきり蹴りをいれてきた。しかも、つま先で、だ。
「調子にのって、すんませんした、ブラック先輩」
土下座にポジションチェンジした俺の頭を神城さんが靴の裏で思いっきりグリグリしてくる。
新しい才能が芽生えてしまいそうだ。
「青木よ、お前ごときが本来一緒にいられる空間じゃねえんだよ。ほんとにわかってんのか、くらぁ」
おかしい。
さっきまで英雄的なポジションにいたと思っていたんだが。神城さんといると、自然と下僕ポジションに戻っちまう。
「いいか、サムライブラックもガンバルマンピンクも、今はここにいないがあのレッドレンジャー赤星猛も、もともとは国防の最前線で私が率いていた日本最強のレンジャー、アトラスレンジャーの一員だ」
アトラスレンジャー、それはヒーローをしているものなら誰もが憧れるヒーローの頂点。
「7年前、私があいつに負けて、アトラスレンジャーが解散するまで、の話だがな」




