二話
「むむ……なんか疑問? かな?」
翌日の昼休憩。空き部屋。俺は飯を食いながら、横目に映る彼女に疑問を抱いていた。おい、内心を言葉が追い越すのをやめろ。
「いや、なんでお前いんの?」
「えー、だって友達になったし!」
「俺としてはなってないんだがな」
「がーん、たかさきショック〜。えいえい、この」
「やめろ、突いてくんのやめろ」
なぜか昨日に引き続いて、そこには鷹崎がいた。結構邪険に扱っているはずなのに、今日も彼女はここにいたのだ。ドア開いたら居て、やあ、なんて言うから若干俺の方がビビったもん。
くそう……ここは俺の居場所なはずなのに。二ヶ月間守り抜いてきた俺の居場所なはずなのに。
「ここ、すごく落ち着くし……」
日の当たる窓際に陣取る彼女は、ひとしきりふざけた後に寂しそうな表情をした。そんなに落ち着くもんかね。ほぼ初対面の男がいて。
ただ、そう言っているのを否定するのも違うと思って、俺はため息をついてから観念するように呟く。
「……わかったよ。別に昼飯食うときは一緒でいい。別に俺はそう思わないが、一方的に友達だと思ってくれたっていい」
「! やったー!」
喜ぶ彼女に釘を刺すように、コンビニで貰った箸を向けて、
「ただし、面倒事とかはごめんだからな! 友達なんていう関係性にかこつけて、お前の問題を俺がどうにかする、みたいなのはやんないからな」
「……」
俺が友達を欲しない理由はここにある。友達という存在がいるとなぜか、やれノート写させてだのやれ勉強教えてだのと面倒ごとが舞い込んでくる。らしい。わからない。いたことないし。
自分の問題は自分で解決できるのに、俺がそんな存在を必要とするはずがないのだ。いや、いたことないから分からないけど。
「……嘘つき」
「あ?」
「なんでもない!」
鷹崎は無言ののち何かを言った後、誤魔化すように取り繕って、話を切り替える。ふん、これで少しはここに来るのを控えるだろう。
「ちなみに〜、その、『あ?』って聞き返し方、やめた方がいいよ。たかさきちゃんからの好感度下がっちゃうよ!」
「別に俺は気にしないし……」
むしろ下がって来なくなってくれた方が気が楽だ。
「でもでも、これから先、人と関わるときとかそんな態度だと怒られるよ」
「いま怒られてる真っ最中だしな」
そこら辺はまあ、歳に応じて丸くなっていくだろう。生憎今の俺は性格も言葉遣いも悪い。だって表向きに好かれようと取り繕っても結局能力でバカにされるんだから意味ないし。
「もう、減らず口ばっかり……」
呆れたように宣う彼女の手元を見やる。サンドイッチとサラダが置かれている。昨日に引き続き随分質素な食事だ。ダイエットかとも思ったが、高校生は成長期だ。
「……これ食え」
「え?」
俺は空気が読めないふりをして、袋からガサゴソと、サラダチキンのバーを取り出して彼女に手渡した。
「その昼食じゃ、タンパク質が足りてねえ。ちゃんと食わねえと育たねえぞ」
飯の情報が分かるという能力の副産物として、無駄に食の栄養に関する知識はある。俺らはまだ高校生で、必要な栄養を摂ることが重要だというふうに学んだ。
「……なんか、羊くんって」
「あ……は?」
先ほどの注意を思い出し、返答を変えたのも束の間。
「オカンみたいだね」
「ころすぞ」
それ以上に物騒な物言いで、速攻で追い出してやろうかと思った。結局鷹崎はケタケタ笑うだけで、出ていくことはなかった。
×
翌日、俺はいつものように空き部屋に向かう。どうせ、ドアを開けたらまたあいつがいるのだろう。と、見当をつけ、気だるげに戸を開ける。
「……あれ」
そこに、彼女の姿はなかった。来てないのか。
……何を考えているんだ俺は。別に来なくなった事はいいことじゃないか。なんでちょっと寂しいふうな感想を抱いてんだよ。
まあうだうだ考えていても仕方ないので、俺は着席して飯を食い始める。
こんなに静かだったんだなと思いながら、おにぎりを貪った。一人だと味に集中できるくらいに、静かだ。
だからといって別段どうということもない。
それがどこか、魚の骨が喉に引っかかったくらいに、気になるだけで。
そうしてしばらく食べていると、騒がしい足音と共にドアが開け放たれる。
「ごめん! 待った?」
「……別に待ってないが」
十数分遅れで、鷹崎は姿を現した。いや、ほっとしたとかはないよ。別に。いない方が静かで良かったし。
「……制服、汚れてっぞ」
「え? あー、えっと、慌てて転んじゃって……」
「ふーん」
俺はそんなふうに言い訳する鷹崎のことを気にも留めなかった。
そうして昨日と同じようにチキンを渡して、その日はそれでしまいだった。




