◆バカと、バカと、バカ
◆登場人物(話がややこしい為)
リリーナ=ミクシア
キーン=フラッペ
(キーン)=シャゼラ
RE:コード・スイバク
尚、今回の話は過激な描写が多いので(そもそも読みにくいとは思いますが)、苦手な方は此処で留まることを推奨します。
それはそれは綺麗な花火だった。
連鎖するように花を咲かせ、濃淡な色合いになりつつある夜の空に一瞬の輝きを齎す。
私も、フラッペさんも、あまりの感激に思わず閉じる口がなく、只その方角を眺め、輝きを瞳に投影することしか出来なかった。
「爺……、ちゃん。」
フラッペさんから聞いた話だと、クローさんは人員不足の為に、日が落ちかける時間から、翌日の正午まで、タイミスに泊まりがけで数人と点検、巡回を行っているとのこと。
そうなると、分が悪ければクローさんは爆発に巻き込まれている可能性も否定できない。
「フラッペさん。……今は、巻き込まれていない可能性を信じてみましょう。」
連鎖爆発は途切れることなく続いたが、ものの数十秒で収まり、タイミス自体の部品は幾つか欠けて落ちていくのが見えたが、肝心の時計部分はまだ動いているので不幸中の幸いだ。
「それに、フラッペ。紛争地帯から逃げてきたあたしが言うのは何だけど、あの爆発、表面にしか損害はない。」
シャゼラもすかさずカバーしてくれ、フラッペは一旦前を向くことができた。
しかしその心情に反するように、私が施した煉瓦により生成された器は、崩れてきている。
魔法による接着が薄れてきているのだ。
「あの器が崩壊するまで、あともって一分ってとこだよ。剣は抜かなくて大丈夫ですか、フラッペさん。」
「……っ、そうだね。かの有名なバリスタの肩書きを背負って、此処で格好の良いところを魅せないと。」
「あたしも援護します。」
フラッペさんは、肩の埃を叩いてから丁寧に真っ直ぐ剣を鞘から抜き、構える。
シャゼラは、今日フラッペさんから買い与えられた、膝まで及ぶ丈の黒を基調とした赤ラインのドレスを紙袋から取り出し────。
『*哨戒人形よ、ドレスを着こなし共に闘え。』
右手の指を五本、全て鳴らし。
指を弾いた。
「シャゼラ、違う。君は家に戻って身を匿え。それか心配なら、この先をずっと進むとあるギルドに────!」
「フラッペっ……、あたしから離れてぇ……!!」
シャゼラは、過保護なフラッペが庇うように前に出した腕を振り払ってから、数歩下がって膝をついた。
直後シャゼラの背骨に沿った首筋から、粘り気のある光をも取り入れないほどの黒さを持った液体のような”何か”が瞬時に長く放出され、直ぐにそれはノイズのように振り幅多く暴れた。
彼女は目を細め、小さな身体で、その黒い何かが完全に体外に出るまで苦悶の表情で辛うじて我慢していたが、そこまで苦しかったのか、遂には横になり悶絶し始めた。
「シャゼラっ!!……君はもっと身体を大切にしろ!!」
あまりの事柄に、フラッペも思わず構える剣を下ろして彼女の身を案じた。
しかし、それが命取りだということを、かの有名なバリスタは知る由もなかった。
「バカバリスタよォ。俺が煉瓦ん中で何もしねぇと思ったのかァ?ほらァそのボロ剣をさっさと構えろ。」
煉瓦の器に閉じ込められている奴は、隙間から私たちのことを視認できるのか、フラッペさんの行動は監視されていた。
「フラッペさん。」
私は彼の名だけ呼び、首を横に振った。
無謀だということを知らせる合図ではない。
私の意志、即ち動いてはいけないということを察してもらう為のものだったのだが────────。
「決闘か。……一騎打ちがご希望かな。」
フラッペは腰に巻いたエプロンを敢えて靡かせ、再び両手で剣を握り、構えた。
「三人で掛かってきてもいいぜェ。」
「舐められたものだな。名を名乗れ。」
「お前が死んだら名乗ってやる。」
どうやら最終的には自分が殺されるかもしれない結末を棚に上げ、奴は自信そうに器の向こうから言った。
「シャゼラ。キリがついたら診療所まで連れて行く。安静にしていてくれ。レディ────、」
フラッペがそう、一騎打ち開始の合図を示したその刹那。
あのドレスを身に纏った、露出面は縫い目の際立つ砂色をした子供用人形のような存在が、先陣を切って奴の方へと走った。
シャゼラが詠唱して現出させた、彼女の哨戒人形らしい────のだが、奴が煉瓦を突き破って放り投げた幻影の刃先が、旋回して無防備に突進するその人形の頭を軽く刎ねた。
「くそっ……。何で何時もこう、あたしは都合が悪いの!」
「シャゼラ。あなたが身体を張ってくれたおかげで、言い方は悪いけど良い時間稼ぎになった。それに都合は悪くなんてない。取り憑かれた先の女性を殺害するところだった。」
「……リリーナさんは、今していることが無謀だって分かって言ってるんですか。だから私の哨戒人形を出したのに!!」
シャゼラは、ふと昨夜会った際のふてぶてしい調子が出る。
「いいや、違うよシャゼラ。リリーナに言わせておけば、何かと上手くいく。一先ず信用できる人だけを信じろ。それが生きる術だ。」
「でも────」
「でもじゃない。もうあと五年で三十路だろ。自分を守れるのは他でもない、自分しかいない。逃げるなら逃げろ。逃げないなら────────っ!」
「三十路はおせっか……、」
フラッペは、剣を構えながらも長々と、悠長に、三十路と言われ睨むシャゼラを諭そうとするも、一番良いことを言うかもしれないときに壊れたのは、煉瓦の器である。
この程度の魔力強度で接合されていた煉瓦を、この奴が壊せない筈がないと、誰もがそう思っているが、何故か奴は魔力が薄れて自然に器が崩壊するのを待っていた。
そうして壊れきったとき。奴が開口一番に言ったのは到底、信じられないほどに悪意が満ちた言葉である。
「まだ生きる屍よ。……えぇと、お前だよ。爺さんじみた腰巻してるお前。名を名乗ってやる。一騎打ちの前に名を名乗るのは武道として礼儀だからなァ。それに、『俺のことたァ口外禁止だからな。』とか言ったとしてぇ、どうせお前は死ぬから周りに漏らさねェでくれるもんな。」
「随分と、これはまた自信と悪意に満ちた名台詞を生み出してくれたものだね。あぁ、宜しく頼むよ。どうせ死ぬ自分に、君の名を聞かせてくれ。」
「そうっだなァ。なんか後々武勇譚でも書かれたときに美化される言い方が良いわなァ。」
「始まる頃には日が明けるぞ。さっさと言え。」
フラッペの返事は、徐々に冷淡なものへと変わっていくが、裏腹に奴の調子は上がっていき、話終わりの声の余韻が乾いた笑いのように聞こえる。
「”スイバク”とか言ってなァ、俺の機能見たら分かるわなんつってなァ!……どうした?魚の骨でも突っかいたか?」
奴は、自ら”スイバク”と名乗った。
笑顔が隠しきれない、可笑しな笑い方で言うものだから、嘘を吐いているのか。将又、この先上手くいくビジョンしか見えなかったのか。
──────いいや、訂正しよう。奴、スイバクは嘘を言っていない。
ギルドで接待をしていた私だからこそ言えることだが、嘘の依頼完了報告で金をせびる奴ほど、余分な動作が目立つものだ。
しかし、今の奴にはそれがない。
これだけで嘘をついていないことの理由付けには当然ならないが、女の直感とやらがそう示している。
そして、名前を聞いてもう一つ。これからの運命を左右する重大な事柄が発覚した。
此処で奴が名乗った名は、聞き覚えのある熟語だ。
名付け親にもよるのだろうけど、これほど異彩と不謹慎さを持ち合わせている名は滅多にない。
そう─────、『水爆』
水の紋章を描くような青い爆発。
補足で、私の記憶の片隅の戸棚に埃を被って置いてあったのもが引き出された。
私が昔読んだ御伽噺に記されていた、”裏光”の説明だ。
当時は無論、存在する筈のない類いとして理解したようでしてないようなざっとした浅い理解だったが、今なら分かる。
『……が……だから、水や其の近辺の自然物、建築物に纏わる名が付けられてるのだ。』
今、実家にあるかも定かではないその御伽噺が書かれた本の内容は、もはやその情報しか頭には残っていない。
しかし、確信が持ててしまった。
他の人が使い得ない術を使う、スイバクと名乗る奴の正体は、────あのとき一瞬、脳裏に過ぎったもので間違いはない。
何だっけ。御伽噺に書かれていた裏光の表記の仕方。
……あぁ、そうだ。”RE:コード・スイバク”。
「おい、そこの昨日守られてばっかりだった女。お前、まさか気づいたのか?」
スイバクは、私の目の前で剣を構えるフラッペさんなど一瞬の視界にも収めず、只鋭い視線は此方を刺し続ける。
だけど私は、せめてもの面倒事を避けるため、兎に角首を横に振り続けた。
「リリーナ……、一つ確認だ。たった今崩れ失せた煉瓦の内側にある死体は、君が殺ったのか。」
私は、スイバクとのやり取りの流れでつい首を横に振っていたが、後々気づいて 「いいえ。」 とだけ答えた。
「でも、倒れていた人を魔法で奴のもとに押し込んだのは君だな。」
私は 「はい。」 とだけ答えた。
「時にリリーナ。……押し込んだ群衆の中には、少なくともまだ数人か、息のある人もいたんじゃないか?」
フラッペさんのあまり太くはない声が、今だけ格段に太く、鋭く聞こえる。
「……おそらく。」
「─────そうなんだ。君は。」
この言葉は、紛れもなく私を突き放したのと同時に、私自身も群衆の殺害に加担してしまったのと同義なのではないかという、強い後悔が胸を焼く。
もう、後退りが出来ないこの状況で、私は動けず、今スイバクが攻撃してきたら、おそらく死ぬ立ち位置にいた。
しかし、私を突き放したフラッペも、私の目の前から動こうとしない。
守れる人は守ろうという、信念が伝わってきた。
「おい、女。どうなんだって聞いてんだよ!!」
刹那奴は、奴自身の目の前にある死体を、感情に任せて思い切り、蹴り落とした。
隣で身を寄せていたシャゼラの目が、これでもかとばかりに充血している。
紛争地帯からの亡命者故、こういった惨いものを何度も何度も、何度も見てきたのだろう。
「基本的に、俺の存在を周りにバラされると、こっちに不利益があるんで嫌いなんだよ。……だから、その女此方に持ってこい。其奴だけ殺す。」
「人が死ぬのは、自然の摂理だから悪くは思わない。たとえ亡くなる人も、そのとき、死ぬことを怖く思わず、幸せだったと回想できるなら、自分らからしても思い残すことはない。だが、これからの人生に期待を膨らませている人々が、突如急に死ぬと告げられたらどうだ。恐怖に支配されたその姿を見るのも痛々しい。それをお前は、無心でやってるんだよ。なにが”殺す”だ。まずは、お前が身をもってその怖さを体験してから言ってくれ。」
「なら手本でもなんでも見せてみろよォ!!」
当たり前だが、そんな諭し方でスイバクが納得する筈もなく、再び指を折って現出させた剣をフラッペさんの方へ投げつけてきた。
それも、数十本に及ぶ本数で、彼一人では捌き切れるか分からない。
『*煉瓦の器よ。縦並びに現出せよ……っ!』
だから私は、概ねの人間が辛うじて捌き切れる二方向以外、全て器で封鎖した。
ドミノのように、スイバクとフラッペの間が数十枚の器で隔たれたが、正直、一度に使う魔力の容量をとうに超えていて、胸が締め付けられるような痛みを催した。
そして、畳み掛けるように再び悲劇は起こった。
一つの剣だけ、異様な旋回力を持ち、突如として軌道を変更し此方に向かってきたのだ。
フラッペさんも、私が手を伸ばしても届かない距離で、他の数十本を捌いている。
剣が此方に飛んでくるにせよ、私のことを視えていないのならそれは有り得ないことだ。
しかし相手が裏光だと考えると、恐怖というか、不思議とその特性にも納得してしまう自分を殺したかった。
一方身体は、その意志に反してふと震え始める。
剣先は、先端に強く真白な光を帯びて、一度瞬きすると次には、前の半分の距離まで縮む。カメラフレームのように。
そして愈々、私の額までミリ数の距離まで接近した剣を、当然この一秒にも満たない速度で私が反応できる筈もなく、目の前に死が見えた時だった。
耳に残る甲高い金属が擦れ合う音と同時に、フラッペさんの剣と、スイバクの幻影の剣が私の膝の至近距離に落ちて、跳ね返った剣先が少し私の膝を切った。
「何が起こっ────────て、」
刹那、フラッペが現在剣を持っていないという事実を把握する間もなく、私の目の前にある、私自身が創造させた煉瓦の器を破壊させながら、物凄い轟音で此方へ向かってくる何かを音で捉えた。
この轟音は、瞬く間に勢いを増し、まるで私の今の鼓動と比喩出来そうなものだった。
意外と、今この瞬間に死を確信すると声のひとつすら出ないものなのだ。なんて思いにふけかけたそのときに、後先考えない私なんかの為に彼は。
「おい、バカ、─────リリーナ!!」
辛うじて右片方だけ、伸ばした腕で庇ってくれたのだ。
しかし、可笑しい。
フラッペさんは私の足元へ滑り込み、当然彼の頭は私の足元にあるの対し、彼の腕は私の額に地面と平行に当たって、すぐ落ちた。
これが何を示すのか。
「─────え、っフラッペさん、私なんかの為に何で……!!」
彼の腕は、煉瓦の器を貫通してきた剣先に抉られ、右腕のおおよそ肘から下が繋がっていなかった。
その剣先は、フラッペさんの腕を切断してからも勢いを止めず、彼の経由して若干軌道を変え、私の頬を掠った。
しかし掠った痛みなど、断面剥き出しの出血の止まらないフラッペさんを目の前にしたら考えもしない。
「フラッペ!……辛い人ごっこはもういいから……っ─────ああぁっ!!『*哨戒人形よ、立て!走って、壊して、闘え!!』っゴブ……。」
地元での悲劇を幾多も目の当たりにきてきたシャゼラは、これ以上自身を追い詰めない為にも、態々人に感情移入しないよう努力してきたはずだったのに、昨夜私たちで彼女を口説いたばかりに。
「……シャゼラ。ぉ前は何もするな……、魔力切れの君が、これ以上身体を酷使すると……、心臓が血液を送り出さなくなるぞ……。」
「自分のいる状況を差し置いて、何言ってるんですか。いいですか、フラッペさん。今出来る最大限の応急処置をするのでこれ以上動かないでください。……バカじゃないなら、分かって。」
「……自分は、どうしても人が死ぬのを見ていたくない。さっきは、咄嗟に君を軽蔑するような発言、すまなかった。気分が切迫していた。でも……」
フラッペさんは、今すぐにでも動き出さないと周りが死ぬという重い責任感を感じて、落ちている彼の、刃が潰れた剣を握って動き出そうとするも、私が足でそれを止めた。
「バカじゃないなら、分かって。」
即ち、此処で死んでほしくない。
そんなこと、素直でない私が、尚更この状況で言えるわけもなかった。
私は言った後、なるべく手っ取り早く自身のローブに付いている、ギルド職員の飾緒とローブの裾をちぎって彼の腕の切断面に強く結び付けた。
「動いていいか、リリーナ。」
「事態が収束したら、絶対怒るから。」
「女の子に怒られるなら、実に本望だ。……まずは、スイバクの動きを静止させてから爺ちゃんたちの救助に向かいたい。」
「計画に文句はないですけど……、スイバクの性質を知った上で言ってるんですか。」
「勿論知らない。……只、取り憑いた先の女の子は殺させない。とか言いたいんだろ。」
フラッペは剣の柄を右脇に挟んでゆっくりと立ち上がるも、貧血で足元がおぼつかない。
「────あたしの故郷では、一歩踏み出す度には何処かで爆発音がして、二歩踏み出す度に死体を踏まなければならないくらいに、過酷だった。”人が死なない世界”。夢だったんだよ。二十数年も死体だらけの街で過ごしてりゃ、こんな性格になるのも赦してほしい。……兎に角、行き詰まっているなら、あたしの哨戒人形を利用して。」
そんなとき、さっきまで自分のことで精一杯だったシャゼラは、吐血をした際に口元を覆った真赤な小さい右手を折って言った。
と言ってもつい先程指を鳴らしたばかりで、これ以上鳴らなかったのか、自ら指を骨折させていた。
これは、よく冒険者が魔物に追い詰められた際、これ以上鳴らす指がなく魔法を発動できない最悪時の奥の手だ。
常人では、指を鳴らさない限りは魔法の構造上反応が起こらない故の、宿命である。
「シャゼラ、だが自分たちは生憎、その人形の取説を読んでいないから使い方が全くだ。」
「習うより慣れろ。魔力に関しては心配しないで。その人形をもう一回あたしに取り込めば、勝手に其奴が吸収してくれる。」
そして、さっき指を折った分の詠唱により、哨戒人形は再びノイズのような形状に変形し、彼女の身体に取り込まれた。
スイバクとは一触即発の、この上なく緊迫とした雰囲気な筈なのに私たちは、互いの足りない点を補い合い、怒り、励まし、再び立ち上がり、夜の静寂さがかえって不気味さを増す、今日という失敗の赦されない日。
此処に、互いに生きることを誓い合った。
本話もお読み頂き、誠にありがとうございます。
尚、この物語に登場する地域、物品などは現実に存在するものと類似していることがありますが、ご了承ください。
加えて、改善点等ありましたら教えてくださると、私の執筆能力も向上しますのでよろしくお願いします。
◆それではまたお会いしましょう!
【ヒーローは遅れて登場したい!】




