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ヒーローは遅れて登場したい!  作者: 白珠シロ
流転する時の都

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14/16

◇その時計はもう使えない

 人違いだと思いたかったが、生憎この構文を使って金をせびるのは昨日の()()に他ならない。

 加えて裏光を未だ信じている者は、雀の涙ほどしかいない故に。


「ルージュ嬢、何時からあんなに捻くれちゃったのかしらねぇ。」

「家庭環境の変化がそうさせたんだろうな。」

「そうにしても、有名どころの令嬢がこれだとねぇ。」

「令嬢っつっても所詮この街の令嬢だ。もとよりロクでもなかったんだろうよ。」


民衆は、断然明確な突如とした令嬢の異変には当然気付かずこそこそと陰湿に。陰口を叩き、終いには冷淡に囃し立てた。


正直、此奴の正体なんか分かったものではない。

知ってしまったところで、未だかつて存在し得ない、魔法ではない何かを駆使する彼の事情には足一歩さえ踏み入れたくはなかった。

世の常識に混乱を齎すからだ。

しかし、昨日あれほどに無理やり当事者の身体から引き剥がしたのに、あの術はおそらく痛かったはずなのにこうやって、再び人前に現れたのは事実である。

どうせ懲りていないのだ。だとしたらこれから被害が拡がるのは明確だ。

事情を知らない奴が止めることはできない。なら誰が止めるのだ。


ボクは、計り知れない底なしの地に一歩、二歩、終いには数歩と踏み入った。


「おい。またお前か。」

民衆のざわめき声に直ぐ掻き消されてしまったが、奴にだけは聞こえる声量で呼び止めた。

刹那令嬢を乗っ取った奴の眼は、何か衝撃的なものを見る目へ変貌した。

「昨日あれほど騒ぎを起こしたのに、それもこの街でな。お前あれだろ。命知らずなんだろ?」

「なっ、ワタクシは、ランジューを代表する令嬢じゃねぇですか。縁談の持ち込みですわよ。」

奴は、乗っ取った華麗な姿には当然見合わない不格好な敬語を使って誤魔化した。

「あぁそうですか。この街を代表する令嬢が、ふらふらと夜の薄汚い街に出て縁談の持ち込みとか、とんだ尻軽女なんだな。この街も落ちたな、()ージュ嬢。」

「……まぁ、そう言われるのも致し方がないことですわ。長らく屋敷に居ると、感覚が鈍っちまうみてぇでして。」

民衆はこれでも異変すら感じない。

元から令嬢を嫌っていたのかそれとも、統治者の選挙に行かないのと同様に関心がないのか。

とまぁ、そんなことはどうでもいい。流石にボロが出すぎだよ。あと少し、からかって正体を暴かせるのがこれから起こりうる悲劇の防止他ならない。


「これはこれは失礼しました令嬢。しかし、おかしいですね。いつもだったらすれ違いざまに、ボクがその名前(ロージュ)で呼ぶと、貴方は愛らしく『ルージュだよ〜』って返してくださるのに。ボクはそんなルージュ様が好きでしたのに。────分かってるんだよ。ほら、さっさと身体、返せよ変態悪徳謎の存在。」

ここまでやることが出来れば、個人的には妥協点を差し上げたいところであるが、今は少しそんな余裕は持ち合わせていない。

奴は今、僅かな予備動作を行おうとしている。

そしてこの後にすることも、一応把握済みだ。

────剣撃、来るっ……!!


『*蠖シ縺ョ諢剰ュ倥°繧蛾屬繧後m』

ボクは、そんな奴が指を一つ鳴らして、今は持ち合わせていない剣の替え玉を生成し、斬撃を行おうとする直前に、昨日も使った”ボクしか知らない”あの術を、駆使した。

刹那、ボクの足元から現出されてきたのはあの、鈍い音色を響かせる歯車の幻影だ。

因みに、”魔法ではない何か”に動揺するギルド職員に同情はしたが、ボク自身が使えないとは言っていない。


そうして、ボクの術にまんまと掛かり、幻影の歯車に挟まれ、巻き込まれた奴は、再び令嬢の身体から気だけ抜けていくのが視認できた。そしてこれを視認できるのも僕だけ。

そうして僕は、昇っていくその()、まぁ魂のようなものに挑発気味で言ってやった。


「…………やるならもう少し、計画的にやれよ。でないと、バレるだろ?……RE:コード(裏光)SUIBAKU(スイバク)。」

なんかもう、面倒くさくなってきたから、ボクは思い込みによって正体を包み隠すのはやめることにした。


◇─流転


「日を見られるのが正午くらいしかないって。私、調子狂うんですけど。」

「タイムタウンに行きたいって言ったリリーナが悪い。」

「いや、フラッペさんも催促してきたからですよ。急にあの日隣に来て私のご飯つまみだしたと思ったら、タイムタウンの話されて。気持ち悪いし断れなかったですよ。」

シャゼラを迎え入れた次の日のおおよそ正午。

私たちは目的の服屋、あとは適当に回ろうと、取り敢えずは服屋まで足を運んでいた。


「リリーナにも服買ってあげようと思ったのに。意地悪言う子には買ってあげられないな。」

「私はこの白いローブが好きなので大丈夫です。」

フラッペさんはタイムタウンを囲う、見上げるほどに高い壁を眺めるように見つめながら、首の後ろで手を組み浅く溜息をついた。

「リリー…ナさん?……そういえば、ファリなんとかさん、からさっき頂いた手紙のお返事は、もうお考えで?」

「……たぁ、……すっかり忘れていた。」

「手紙の返事は早い方がモテるぞ〜リリーナ。」

言い返すようにフラッペは、挑発というか正論を述べた。

「モテてない人がなんか言ってますよ。ってゆうか、元はと言えばフラッペさんが起き抜け部屋にいるから!」

「ん?これ、自分が糾弾されている理由ってあるかな、シャゼラ。」

「……全く、です。」

シャゼラは、おそらく味方していれば利益になるフラッペさんにつく。


そう、手紙に関しては仕方がない。何故ならば。


◆ ◆ ◆


「ふぅぁ、ん。眩。」

タイムタウンを囲う壁から日が上がってきて、一気にこの街を活気で包む。

私は正午に、この眩い光で起こされた。


「おそよう。」

そう、フラッペさんはさも当たり前かのように女子の部屋に入り浸っていた。

「……んぁ変態だぁ〜」

意識が薄い状態で私は、彼にとろける声質でそう言ったと思う。

何せ、フラッペは若干頬を赤らめていたように思えたから。

「ちょちょちょ、あまりに誤解が過ぎる。言っただろ、此処は元々自分の部屋だ。」

「許可取ってよ。寝起きの力が入らないぃ私を、おそうつもりですかぁ〜!」

今考えても死にたくなる。

私は何故、自分が襲われるくらいに可愛いと自覚していたのだろうか。


「違うんだよリリーナ。この部屋に、大分昔だけど爺ちゃんがくれた月下美人の花弁が彫られている腕輪がある筈なんだよ。……あ、てかそんなことよりリリーナ。泥棒猫(ファリス)から手紙が来たらしいよ。」

「あぁ、……事情は分かりましたけど。てゆうか、泥棒猫て。隠す気ないじゃん。」

私は文句を言いつつも、ベッドからとにかく出たくなかったので手だけ差し出して、上に手紙を置いてもらえるまで待っていた。

「何してんの。泥棒猫が今いる場所まで分かるわけないんだから、流石にギルドに取り置きしてもらってるよ。自分で取りに行って。」

「……は?」

「ねぇシャゼラー!!なんかリリーナ機嫌悪いんだけどー!!こういうときの女性心理って分かるかー?」

フラッペは畳み掛けるよう、私に明らか聞こえる声量で言ったので、一旦腹部を足の面全て使って蹴った。


◆ ◆ ◆


「にしても、手紙に関しては自分が責められる理由はないな。」

「っほら、まぁギルドで手紙は受け取ったわけだし!それに、『ユーリはまだ寝ているよ。』ってこの一言の手紙に何を返す必要があるんですかねぇ。」

私は会話から逃げるように結果論を述べて愛想を振り撒いた。

「と、まぁそうこうしているうちに服屋に着いたわけだが。リリーナも来るか?」

「見る分には自由なんで。」

「それは子供が言ってたら悲しくなる言葉第六位だな。」

「ほら、早く行きますよ!」

歪んだ歪な形状をした時計のモニュメント像が際立つ服屋を前に、私たちは幸せのテンプレートを堪能していた。


そこから日が暮れるまでは、記憶として思い出したら長いものになるのに、体感としてはほんの数秒に思えた。

私がシャゼラに似合いそうな紅のラインが目立つドレスをフラッペさんに見せたら、

『着たいねぇ。赤ってあんま着ないから。』とか言って。

フラッペさんは普段ドレス着ているのかと訪ねてみれば、

『乙女の嗜みだよ。』とか意味の分からないこと言って皆で腹がちぎれるほど笑ったり。

寄り道として行った道具店では、フラッペさんって案外顔が広いから、昔馴染みがあったらしい店主に、『洒落者になったなアンタぁ。前みたいになんか好きなん持ってきな。』って言われて。

そしたらこの人、会計代の金貨が敷き詰められている木箱を取り出して店主に怒られて。

『自分はお金が好きなんですよ。』って言って店主に引っぱ叩かれたときは、シャゼラと俯いてまた腹がちぎれるほどに笑って。


「あ〜ぁ、楽しかった!」

「楽しかった、……ですね…!」

「うん。二人が楽しかったなら楽しかったよ、自分も。」

フラッペさんは、頬と頭を交互に撫りながら、それでも満更でもない笑みを浮かべて言った。

私たちの歩くこの街唯一の貿易路かつ随一の大通りの街灯は、今日の暖かく幸せな出来事を語るのには最適な、暖色のライトアップが為された。

さらには時間的に人通りも多い為、私は久しぶりにこの平和な街に溶け込めている気がして、とても気分が良かった。

不安、不幸、悪夢は嫌というほどに続いた。だから今度は、拒絶するほどに沢山幸せが舞ってくるだろうと、そんな淡い期待さえも抱いていた。


────。

────────。

────────────。

────────────────っしかし、


どうも、私の人生における幸福と不幸の比率は可笑しかったようで、不意にも冷めた顔で笑ってしまった。


「どこもかしこも学の足りねぇ能無しばっかでよ。お宅んとこは信じてくれっか?────裏光を倒したんだよ。」

夜の薄暗い明るみの中、人混みに紛れてそう悪態をついていたのは、紛れもない。

昨日の早朝に出会った彼奴(・・)であった。

昨日に続いて、人に取り憑くのは()回目なのだろう。


今度は、上品な黒の割れ袖を身に纏う、顔を隠すように長い藍髪が横に靡いている若い女性であった。


「フラッペさん────っ。」

「リリーナ。余計な詮索はするな。自分が家から剣を持ってくるまでの間だけでいい。シャゼラと隠れろ。……ただし、逃げるな。」

フラッペさんは、ふと私の唇に指を置いてそう告げた後、人混みに溶け込むよう走っていった。

彼の言っていた意図は把握できた。

昨日の朝、皆軽傷とはいえ民衆数名が怪我を負ったのだ。

このまま放置などしていられまい。

しかしこのまま横へ抜けて隠れようにも、帰宅する人々の帰路は一方の方向へ極端に流れている。

仮に私たちがこのまま横へ抜ければ、それは周りから見て”異端”も同然だ。

そして昨日、奴にはあれほど顔を知られてしまったのだ。

一度見つかりでもすれば、何が起こるかなど分かったものではない。


「リリーナ、さん……?」

シャゼラは、急な私たちの焦りに不穏感を抱き、身を委ねられる存在に危機が迫っているのではないかと眉間に皺を寄せ、瞳の輝きは淡くなった。



そして、一方方向に流れ歩く民衆の誰かしらが落とした砂時計が、落ちて、────────割れた。



それに気を取られた、奴はふと私たちの侘しく人混みに流されていく姿を視界に入れてしまう。

ギョロっと。

他に形容できる言葉はなかった。

「もぅ、……いいわ。」

声は聞こえなかったが奴はそう、口を動かした。


確実に終わったことを脳は悟って、変な恐怖と気持ちの悪い感覚を催させる。

ほんの数分前までの幸せの余韻など、既に脳裏にすらない。これからもずっと、この買い物の記憶は思い出したくない恐怖の記憶として脳の片隅を占領し、刻まれることだろう。


何処へ隠れていようかと結論を出す前に、鬼ごっこで時間内に隠れることが叶わなかった参加者が、開始早々見つけられてしまうように、奴は此方をずっと伺っている。

もはやここまで来ると、別の人物であって欲しいと願うばかりだった。そう、偶々裏光を倒したかもしれない気の強い冒険女子なのかもしれない。


────────いいや。無理だな。

あれは……、弱い私を殺そうとしている眼だ。


「シャゼラ、ギルドのある逆の道に逃げて。」

私は声が小さいから、一度ではシャゼラに伝わらなかった。

だから今度は、身振りも混じえて、大声で言った。

「シャゼラ!ギルドから離れて!」

しかしこれは、盲点だった。

シャゼラは意図を理解して、ギルド及び私から離れていったが、二度も同じことを言えば、無論奴にも察さられるのは把握していた筈なのに、何故この先が読めなかったのだろう。

止まっていようにも、人混みに流され孰れシャゼラの姿さえなくなってしまった。


そうして、取り憑いた奴は特に何かを言うこともなく華麗な女の身体で、今は持ち合わせていない剣の替え、幻影を指を二つ逆さに折って現出させた。

刹那、民衆も事の危険さに気が付き、一人が奴に怯え叫び声をあげると、それに連鎖するよう周りの人々も悲鳴をあげて、ギルド周辺は忽ちパニックに陥った。


「チッ、これだから人混みは嫌いなんだよなぁ!!大通りにしか隣接してねぇギルドなんざァロクに話すら聞いてくれねぇことぁ分かったわ!この際、皆くたばれよ。それで報酬な。俺にとったら、俺を糾弾する奴らが敵だ!……な?いいよな?」

タイムタウンのギルド職員は、肩を竦めて数人で身を寄せ合い、体を震わせながら首を縦にだけ振る。


「これもどうせ形だけなんだろ。」


しかしそれにも納得がいかない奴は、少し身を屈める予備動作を行った後に、現出させた剣を横薙ぎに振り切り、民衆を一蹴した。

しかも、今度は切り傷や掠り傷で済むような斬撃ではない。

私の頭上には、一本の右腕だけが飛んできた。


目を凝らして奴の方を見ると、その周辺でぐったり倒れ込んでいる人々の血液が流れて混ざっている。

ざっと。二十人ほど。


私はまた、何も出来なかった。

この街の、この場所では私のみ知り得ている悲劇を、回避することは叶わなかった。

だから、せめてこれ以上被害が出る前に────。

此処で亡くなることを願ってすらいない、未来ある筈だった幅広い年代の人々がせめて成仏できるように────。

こんな身勝手な私自身の、心の持ちようを良くする為に────。


「昨日のランジュー騒動の首謀者だー!!今すぐ荷物を置いて逃げなさい!!」

私は滅多に出せない、声なのか雑音なのかも分からない声量で催促した。

しかし、昨日の騒動についての記事が載っている新聞を片手に持った一人の中年の男は、私のその発言をインチキのように捉えて、こんな重い事態の中新聞を開き記事を見せびらかした。


「くっ……こんなときに、こんなときに彼女を擁護するのはやめろ!身内だが何だか知らないが、今のその女性は自らの意志を持っていないんだよ!!」

こういう事態時とくに腹が立つのは、身勝手な正義感を見せつける、動ける無能だ。

あまり言いたくないが、私が助けに入ったとしても新聞を持ったその男が助かる可能性は微々たるものに等しい。

だからと言って、何も手出しできない無能は、もっと嫌いだ。

────────そう、私のことである。

口しか動かせない無能(わたし)が、とやかく避難を催促するのは無論烏滸(おこ)がましいのは百の承知だ。

おそらくこの事態が収束した後に、私が糾弾されるのは言うまでもないだろう。

でも、極論このままフラッペさんが戻ってくるまで耐えられるとは到底思えない。被害の拡大を凌ぐことは叶わないだろう。

考える前に動けば、後はなんとかなると。

今だけはそう思った方が楽になれた。


『*煉瓦の器よ、現出せよ!────加えて器よ牙となり、対象を破壊せ────っ……。』


そんなこと、出来ないよ。


元凶が取り憑いていると言っても、元は普通の人間なのだ。

私はファリスさんとは違って、肉体と、取り憑いた奴の意志を引き剥がすことが出来ない。

だから奴が避けずに体を貫通させれば、もはやそれは私が元の女性自身を手に掛けたことになる。

でも、やらなく────────っ、


「殺せ!」

「あんたの言うことが本当なら、この女一人の犠牲はやむを得ないことだ!」

「心配しないで魔法を使え!」

私が葛藤している最中民衆は、ふと絶対駄目な方の集団心理に陥ってしまった。

心底聞く耳すら持ちたくない。

こんな奴らに代わって此処で犠牲になった人々があまりに不憫でならない。


「都合のいいお前らは黙って逃げろよ!……これ以上、犠牲を出しても良いのか。」

私の発言は、”怒り”によって生まれたものではない。

”現状”を受け止められないことによる弊害である。


取り敢えず、民衆は皆避難した。

取り憑いた奴も、無駄に殺しはしたくないのかもしれない。

だから作戦変更だ。

私は使える魔法が、”数日あれば習得できる簡易魔法”、そして”周囲の素材で器を形成する魔法”、”周囲の素材で牙を形成して放つ魔法”の三種類しかない。

さっき使おうとしていたのは、そのうちの後者二つである。

民衆がいなくなったことにより、手段が一つ開いた。

そう、器を形成して、押し込む。

それにより行動を制圧する試みだ。


『*煉瓦の器よ、現出せよ!』

指を三つ、鳴らしてから指を弾いて私は詠唱した。


直後魔法による下からの圧力で貿易路として敷かれていた煉瓦が一つ一つ浮いて、横を向いた器を形成していき、私はそれを奴の方へ思い切り、魔力を込めて押し込んだ。

骨折り損、という言葉がある。

あれほど葛藤した末の手段による結果としては、まさにその通りではあったが、煉瓦の器と一緒に押された屍がクッションになって、皮肉にも女性の体及び奴の意志は無事だった。

不幸中の幸い……とも言い難い状況ではあるが、亡くなった人々には感謝してもしきれない念に加え、申し訳なさが胸を打ちそうだった。


奴は、もはや壁として機能する器の向こうで身動きを取ろうと必死にもがいているのが聞いて分かる。

そして、そんな間にフラッペさんも無事自前の剣を腰のベルトに、エプロンと一緒に差して戻ってきた。

シャゼラも、実はギルドの真反対にある歴代統治者の銅像に身を潜めてこちらを覗いていたようだった。


「状況が落ち着くかは分からないけど、余裕ができたら話す。それか、始終を見てたシャゼラに聞いて。」

「了解。……それにしても、気味が悪いね。()()()()()()()()()()()()。」

「触手……?」

私は一度、フラッペさんのその言葉に聞き返したが、すぐに私自身も気づき、青ざめることとなる。


何故気づけなかった。────夜の闇に同化する触手が、遠くへ伸びていくのに。


「……遠く、遠く。……違っ、あっ。タイミスだよ。」

「タイミス?」

「リリーナさん、内容が薄いです。」

「あの触手、タイミスに伸びていくんだ。」

「……今の時間だと、爺ちゃんが点検と巡回中だ。」

「でも、なんで時計塔に伸びていくって思ったのですか……?」

「分かんない。分かんないけど、何となく。主犯格が狙うのは、その地域における主要機関だから。」


「俺のことに気づいた敏感さを持ち合わせてんのに、察しが悪いとはァ、つくづく可哀想に作られた女だ。」

器の向こうから、一旦もがくのをやめた奴の声が良く響く。


『*繧ケ繧、繝舌け(スイバク)。』

私たちが、奴がもごもご話しているのに気がついた時には既に、手遅れだった。


奴から伸ばされた触手は、根元から水色に発光をし始め、タイミスまで数秒で光が灯りきった。

そう。それはダイナマイトが爆発する直前の導火線が辿り着くように。


綺麗だった。


そして、暗い中何かが強く赤く発行し、夜の藍色が広がる空の一部分が、曇り始めた思った刹那。

────────タイミスの時計塔から耳を破くほどの轟音が、鳴り響いた。

本話もお読み頂き、誠にありがとうございます。

尚、この物語に登場する地域、物品などは現実に存在するものと類似していることがありますが、ご了承ください。


☆を一つ増やしてくださるだけでも、私にとってかけがえのないモチベーションになりますので、是非してくださると嬉しい所存です。


加えて、改善点等ありましたら教えてくださると、私の執筆能力も向上しますのでよろしくお願いします。


◆それではまたお会いしましょう!


【ヒーローは遅れて登場したい!】

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