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伝染呪  作者: にょん
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ここから第二部スタート。「気絶している」朝子の神視点で話は進みます。

 壇上に様々な人々が登ってくる。気絶している私を、大人たちはそっと白い布が巻かれた板に乗せた。ただ、淡々と、それを持ち上げて、私を運んでいく。

 明も、黒い布に身を包んだ男たちに囲まれるようにして壇上を降りてくる。

 その顔は、絵でも張り付いているかのように、のっぺりと動かなかった。

 しばらく山道を進み、社へと辿り着く。

 男の一人が力一杯扉を開けると、蝋燭に火をつけた。ふわっとした橙の光と、紫の影が部屋を包み込む。

 部屋の真ん中には祭壇があり、大人たちは手早く一緒に運んできた供え物の果物やら魚やらを飾っていた。そして最後に私を載せる。になにか二、三伝えると、男たちは出ていった。

 しばらく明は扉を間近で見つめていた。戸が閉まり、社から足音が遠ざかる。そこで明は扉から離れ、私に近づいてきた。

 巫女はここで生贄を前に夜通し神楽を踊る。しかし明は一つため息をつくとその場に座り込んだ。

 その時、がたりと扉が揺れた。

 明はびくりと震えると、すぐさま立ち上がり神楽を、踊りはじめる。この女もサボるのだなと感じると、笑いそうになった。

 その戸が開いた時。明は「あっ」と声を出し、舞のために踏み出した足を止めた。

 そこに立っていたのは折原だった。

「明。迎えにきた」

 床下にでも隠れていたのか、その頭には蜘蛛の巣がかかって、顔も薄汚れていた。それでもその表情はぱぁっ華やいでいる。

「お兄ちゃん……」

「朝子ちゃんじゃなくてお前が勝ったんだな」

 折原は気絶したままの私を見つめると、ぐったりとしたままの私を抱き起し、背負いこんだ。

「なにをしてるの?」

「なにしてるって、逃げるんだよ。ここから……お前を助けるために朝子ちゃんには随分と協力してもらったんだ。今なら誰も周りにいない。ほらいくぞ」

 折原は私を背負ったまま、明の手も掴み、外へと出ようとする。

 しかし、明はその手を振り払った。

「私は帰らない」

「は?何言って……こんな村お前だって出ていきたいはずだ。体のことだって…………気にすることはないんだよ」

 折原は私を祭壇に戻すと、明に向き直った。そして、そっと彼女の肩を掴み、宥めるように小さく揺さぶった。

「帰ろう。明」

「無理よ」

 明は両の手で折原の頬を掴むと、そっとそれを自分の唇に押し当てた。

 折原は振り払うように彼女を退け、後退りを拍子に尻餅をついた。彼女はその隙を逃さず、折原の下半身に馬のりなると、装束を脱ぎ一糸纏わぬ姿を見せた。

「明、何を……服を着ろ……!」

 顔を背けようとする折原の顔を明はしっかりと掴んだ。それは、彼の顔に爪が食い込むほど強く。男の折原が振り払えないほどの力で。

「いいの。よく見て」

 蝋燭の炎に包まれ、薄ぼんやりとその体は照らされている。その体にあったのは美しい女性の躰ではない。火傷や青や赤、茶色のあざ。無数のミミズバレ。擦り傷に切り傷があった。

 折原が言葉を失い、顔をこわばらせていると、明は優しく微笑んだ。

「言ったでしょ。貴方があの晩。あなた殴りつけた豊吉さんはいい人だって……あとは、悍ましいことを平気でするの。叩くぐらいなら気持ち良いぐらいよ。鞭で叩いたり、焼けた火かき棒を押し付けたり……面白がって刃物で全部の傷をなぞってくる奴もいたわ。下はもっと酷いんだから……私の体は汚いの。純潔の話なんかじゃない。たくさんの男なの支配欲、加虐心の掃き溜めなのよ。これでも私を東京に連れて行ってくれる?汚くないと言いきれる?無理でしょ?」

 折原はしばらく沈黙すると、ぽつりと呟くようにいった。

「……言える。言えるさ」

 明は下唇を噛み締める。ポロポロと涙を流し、折原を殴る。自分がされてきたのと同じように、ただ静かに。そして折原はそれを受け入れていた。

 しばらくののち、折原はそっと明を抱きしめた。

「言えるよ。明。お前は汚くなんかない。だから帰ろう」

「離して……!お兄ちゃんに汚いのがうつってしまう……」

「お前は汚くない。綺麗だよ。昔からずっと」

 二人は見つめ合うと、どちらともなくその唇を重ねた。初めはつばみあいだったそれは次第に激しく、深くなったいき、ついには崩れ落ちた。折原は明の傷の一つ一つを見つけるたび、綺麗だと言ってから丁寧に舐める。その度に明は高い声をあげて鳴いていた。

 たかが血のつながらない妹のためだけに、こんな田舎までくるわけない。自覚があったかなかったかはわからないが、最初から折原も明のことを強く想っていたのだろう。

 気持ちが決壊してしまえば、そこにいるのはただの男と女だった。

 気持ち悪い。そう思った。

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