勝敗の結果
目が開いた。視界的にはあまりにもはっきりとした覚醒。見えたのは自分の部屋の天井だった。なんで天井?と思うと同時に私はとっさにがばりと起き上がった。その瞬間体に酷い痛みを感じ、やけに重たい頭が枕にぼすんという音を立てて吸い込まれていった。
「うっ」と低い声を出す。恐る恐る頭に手を伸ばすと、何か布のようなものが巻いてある。
「なにこれ」
布団から虫のように這い出て、タンスの1番下を探る。確かこの辺に手鏡があった。
見つけて覗きこむと、そこには包帯でぐるぐるまきにされた頭とパンパンには腫れたほっぺたがあった。あまりの不細工さにそこに写っているのは本当に自分かと頬や頭を触って確認する。鏡に写るソイツは同じ動きをした。やっぱり私だった。
がらりと襖が開き、祖母が声を上げ、私に抱きついてきた。
「おばあちゃん……」
「ああ、目が覚めたのね。貴方は七日も眠っていたのよ」
「どうして」
「どうしてって……覚えてないの?」
ずきりと頭が痛む。ああ、そうだった。あの日。晴太が私の頭を割ったんだ。なんどもなんども。ぞくりと寒気がして私は体を抑える。
祖母はため息をついた。
「全く……。目が覚めなかったらって怖かったんだから」
ああ、私は負けたんだ。晴太に殺されたんだ。
あれが本物の刀だったら。いや、大人が止めなかったら木刀でだって晴太は私の息の根を止めようしたんだ。
私は祖母の腕の中でしくしくと泣いた。
私たちはいつか殺し合う者同士。そんなのわかってた。
わかっていたけど実際にその死地に立つと。
構わないと思っていたけど実際に負けると。
悲しくて、悔しくて。どうしようもなく苦しくて。
悔しいのは負けたからじゃない。裏切られたからだ。やっぱり月見里なんて嫌なやつなんだ。
私の怪我は、案外重症だったらしく、しばらくは布団の上で過ごした。
学校にいかなくていいのは幸福だった。しかし何分つまらない。部屋でできる遊びなんて限られている。らしくもなくあやとりやお手玉なんてしてみたが、数刻もせず飽きてしまう。
早く外に出たかった。
頭の包帯がとれ、外に出でいいというお許しがでたのはひと月後。季節はとうに雨季に入り、毎日じめじめと湿っぽい。雨が降ると傷が痛む。いまいち治りが遅かったのもこのせいだった。
久しぶりに学校につくと心配そうに級友たちに囲まれた。でもどこかよそよそしく、ああ、私が負けたからだ。と思った。日向一派の家の子は、大人たちに何か言われたのか、私を見てひそひそとなにやら耳うちをしあっていた。
あっという間に放課後になり、終業の挨拶が終わった教室から子供たちがだっと廊下に流れ込む。
押されるように廊下の中心までくると、隣の教室から晴太が出てきた。
「あっ」と小さな声が出る。まるで時が止まったような一瞬。
晴太に会ったら、文句の一つでも言ってやろう。そう思っていたのに足はすくんで動かない。心臓がどくんどくん音を立てて、こめかみの部分が波打つから、割られた頭が鈍く痛む。
思わず俯く。もし晴太が謝ってきたらどうしよう。なんて言ってやればいい。でも絶対許してなんかやらない。
「なにしてんだよ晴太。一緒に帰ろう」
響いた声に顔があがる。そこには同級生と肩を組んだ笑顔の晴太がいた。
「ああ、今日はなにして遊ぶ?」
そう言って、晴太は後にも出てきた何人かと連れ立って、下駄箱まで駆け足で去っていた。
「どうして……」
あれだけ誰もから爪弾きにされていた。酷い迫害ともいえるいじめをうけていた晴太が、輪の中心で、私が知らない笑顔で笑っている。
「あいつ……朝子ちゃんにお祭りで勝ったでしょ。それ以来ああなの」
横にいた友達が呟く。
私に勝った晴太は、日向一派の人々に認められた。晴太をいじめていた子供たちは、私を猛追した晴太からの報復を恐れ、いじめをしなくなった。尊敬と恐れは一部の子供達からの憧れへと変わり。晴太は私の知らないところで、人気者になっていたのだ。
腹が立った。
何故かわからない。
許せなかった。
何故かわからないけど。
晴太が私を痛めつけて幸せになったからだろうか。




