祖母の話
その日は、冬なのに日差しが強くて温かい日だった。
「今年の祭りはあんたに舞を踊ってもらうから」
前置きもなく、祖母は呟くようにいった。
「え?舞って父さんがやってるやつ」
初夏になってから一番早い新月の夜。村祭りが開かれる。村を守る神様に舞を奉納し、今年豊作や疫病と無縁であるようにと願うのだ。舞は日向と月見里が隔年で交代しながら納めている。去年は父が神社の神楽で舞ったはずだ。
「そうよ。もうすぐ大舞の年になるからね」
「大舞?」
「あら、あんたは知らなかった?五十年に一度は大祭り。日向と月見里両方で舞を納めるのよ。大舞の儀って言ってね」
祖母が語った祭りの内容は。にわかに信じられないものだった。
大舞の儀では御神刀を持った日向の代表と月見里の代表がどちらかが倒れるまで斬り合うのだ。そうして屍となった方を贄として神に捧げる。
人が人を殺す。そんなことありえるのだろうか。そんなことができるのだろうか。
「月見里と話し合ってね。あんたたちにやってもらおうってことにしたの。昌みたいのじゃ……普段の舞ならまだしも、大舞は勝っても負けても神様に申し訳ないから」
「私たち?私は誰とやらされるの……?」
「そりゃ、もちろん。月見里のとこの跡取り坊主よ」
「え……晴太?」
呟くと、普段温厚な祖母は口を真一文字に結んでごつんと拳骨を脳天に振り下ろしてきた。
「その名を家で呟くんじゃない」
頭をさする。そこまで、強い力じゃなかったからたんこぶにはなっていなかった。
「まぁ、大舞はもう少しあんたたちが大きくなってからよ。でも練習するに越したことはないからね。今年から大舞に向けて、実際の舞台で練習してもらおうって話よ」
私があからさまに不安気な顔をすると、祖母はにっこりと微笑んで、先ほど拳骨を下ろしたところを今度はそっと撫でた。
「大丈夫。大舞までの儀は、御神刀の代わりに模擬刀を使うから。死んだりはしないわ。第一あんたの方がお姉さんなんだから、あんな小さい月見里のに負けるわけないじゃない。虫を殺すより簡単よ」
そんなところを気にしているのではないのだが、祖母は構わず続ける。
「そうね。でもやっぱり、あんたにも子供をこさえてもらわないとね」
「子供っ?どういうこと……」
「まぁ、そんなことはないと思うんだけど。万が一負けたら、うちには跡継ぎがいなけなっちゃうでしょ?晶にもう一度嫁を取らせるのも面倒くさいし……あんたが産むのが早いわ」
絶句する私に祖母は微笑みを崩さない。
「大丈夫よ。昔はみんな子供産むのなんて早かったんだから。それにもうちょっと先の話しでしょ?」
数日後。私の家に従兄弟が一緒に住むことになった。
祖母が見つけてきた。私の許嫁。
初潮がきたら教えるように。従兄はそう言ってニタニタと笑っていた。




