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伝染呪  作者: にょん
11/28

月見里晴太

晴太の年齢を変更。朝子の一つ下にしました。


 その日は、太陽がやけにギラギラと照りつけて嘘みたいな暑さだった。

 私は八っつで、まだ別に村が嫌いでなかった。だって野山で遊ぶのは好きだったし。その頃はまだ従兄は別の家に住んでたし、過干渉気味の祖父母のことも鬱陶しいと思いつつ、それでも家族としては好きだった。

 ただ家にいるのが億劫だった。

 家には父がいる。父はきっと優しい人だと思う。すれ違えばちゃんと挨拶してくれるし、私が家の手伝いをすれば、賞賛の言葉をくれた。

 でも私と目を合わせることは決してなかった。

 私は父に抱き上げられたことがない。手を繋いだことがない。

 私はきっと。好かれていない。

 それを認めるのはすごく嫌だった。何かに負けた気がするから。

 夏は好きだった。頭の中を暑いという感情だけが支配する。そうすると、嫌なことなど考える余地がないから。

「朝子ちゃーん!」

 そんな脳内に雑音が入り込む。振り返ると、

畦道を小さいののが駆けてきていた。

 ああ、厄介なのがきたな。と思い、私は道を急いだ。

「待ってよー」

 後ろから響く声なんてお構いなしだ。今日は森の木陰で昼寝をすると決めている。あれに構っているわけにはいかないのだ。

 森の入り口まで辿り着くと、呼び声は聞こえなくなった。振り返っても誰もいない。いつもの木の下に座って、目を瞑る。蝉だけがうるさい。時折吹く風は頬を優しくなでてくれた。

「朝子ちゃん」

 やけにはっきり響いた声にびくりと体が震える。目を開くとそこには奴が立っていた。

「……昨日も言ったよね。私に話しかけないでって」

「だってつまらないんだもん。一緒に遊んでよ」

 良く焼けた肌に、ニカリと白い歯を見せて晴太は笑った。月見里晴太。月見里の家に生まれた月見里の跡取り。私が生涯をかけて恨むための相手。

「いやよ」

「いいじゃん。今日は朝子ちゃんの好きなあそびでいいから。昼寝なら僕もするよ」

 隣に座り込み、晴太は口を尖らせた。

「もう知らない」

 本当は。晴太と遊ぶ時間は楽しかったのだと思う。思い返しても嫌な気持ちはしないかった。でも、私は晴太とは遊びたくはなかった。一緒にいるところを見つかると、大人たちはひどく怒った。私たちが先代のようになることを恐れていたからというのは、今になって思えばということ。

 ふと、寝入った晴太を見つめる。その手足にはアザがある。晴太は汚れた子。私とは違って誰が父親かも分からない。道を歩けば石を投げられた。大人からも、子供からも。誰からでも。

 だけど晴太は泣かない。泣いているところを見たことがない。気持ち悪いくらい強い奴だと思っていた。だから横にいると安心した。

 私と同じくらい汚れていて、私より嫌われていて、私より頑張っている晴太が。

 本当は少し好きだったんだ。

 愛とかじゃなくて、尊敬でもなくて。友愛ですらなかったけど。

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