月見里晴太
晴太の年齢を変更。朝子の一つ下にしました。
その日は、太陽がやけにギラギラと照りつけて嘘みたいな暑さだった。
私は八っつで、まだ別に村が嫌いでなかった。だって野山で遊ぶのは好きだったし。その頃はまだ従兄は別の家に住んでたし、過干渉気味の祖父母のことも鬱陶しいと思いつつ、それでも家族としては好きだった。
ただ家にいるのが億劫だった。
家には父がいる。父はきっと優しい人だと思う。すれ違えばちゃんと挨拶してくれるし、私が家の手伝いをすれば、賞賛の言葉をくれた。
でも私と目を合わせることは決してなかった。
私は父に抱き上げられたことがない。手を繋いだことがない。
私はきっと。好かれていない。
それを認めるのはすごく嫌だった。何かに負けた気がするから。
夏は好きだった。頭の中を暑いという感情だけが支配する。そうすると、嫌なことなど考える余地がないから。
「朝子ちゃーん!」
そんな脳内に雑音が入り込む。振り返ると、
畦道を小さいののが駆けてきていた。
ああ、厄介なのがきたな。と思い、私は道を急いだ。
「待ってよー」
後ろから響く声なんてお構いなしだ。今日は森の木陰で昼寝をすると決めている。あれに構っているわけにはいかないのだ。
森の入り口まで辿り着くと、呼び声は聞こえなくなった。振り返っても誰もいない。いつもの木の下に座って、目を瞑る。蝉だけがうるさい。時折吹く風は頬を優しくなでてくれた。
「朝子ちゃん」
やけにはっきり響いた声にびくりと体が震える。目を開くとそこには奴が立っていた。
「……昨日も言ったよね。私に話しかけないでって」
「だってつまらないんだもん。一緒に遊んでよ」
良く焼けた肌に、ニカリと白い歯を見せて晴太は笑った。月見里晴太。月見里の家に生まれた月見里の跡取り。私が生涯をかけて恨むための相手。
「いやよ」
「いいじゃん。今日は朝子ちゃんの好きなあそびでいいから。昼寝なら僕もするよ」
隣に座り込み、晴太は口を尖らせた。
「もう知らない」
本当は。晴太と遊ぶ時間は楽しかったのだと思う。思い返しても嫌な気持ちはしないかった。でも、私は晴太とは遊びたくはなかった。一緒にいるところを見つかると、大人たちはひどく怒った。私たちが先代のようになることを恐れていたからというのは、今になって思えばということ。
ふと、寝入った晴太を見つめる。その手足にはアザがある。晴太は汚れた子。私とは違って誰が父親かも分からない。道を歩けば石を投げられた。大人からも、子供からも。誰からでも。
だけど晴太は泣かない。泣いているところを見たことがない。気持ち悪いくらい強い奴だと思っていた。だから横にいると安心した。
私と同じくらい汚れていて、私より嫌われていて、私より頑張っている晴太が。
本当は少し好きだったんだ。
愛とかじゃなくて、尊敬でもなくて。友愛ですらなかったけど。




