仕事は無心で
「大体は依頼書に書いてあったと思うけど、一応口頭でも言うのは決まりだから、仕事の説明をしていくわね」
作業場へ私を案内したナクシはそう切り出した。
作業場は部屋自体は広いが、器具や本などが部屋の大半を占めていて、なんとか歩けるぐらいだ。妖精族であるナクシにとってはこれでも余裕なんだろうけど、私は歩き辛い。
「まず、今回作って貰うのは、薬の中でも割と簡単に作れる回復薬ね。材料と器具はここにあるのを使っていいわよ」
ナクシはそう言いながら、空中に浮かべた指示棒のようなもので材料と器具を順番に指示していく。
器具にしても材料にしてもナクシが扱えるような大きさではないけど、今使ってるような魔法でどうにかして使ってるんだろう。念力みたいなスキルでもあるのかな?あるなら、ぜひ使ってみたい。
「回復薬は一個につき銅貨一枚で、十個作るごとに追加で銅貨五枚ね」
つまり十でちょうど割れる個数を作るのが一番利益があるってことだ。
「失敗したらその分、成功数から引かせてもらうわね。成功数よりも失敗数が多ければ、依頼失敗にするか手持ちの回復薬を渡すかしてもらうわ。どっちにするかは自由だけど、依頼失敗はオススメできないってことは冒険者なら分かってるでしょ?」
ナクシからの質問に、私は頷いて返す。
依頼の失敗は履歴に残るだけじゃなく賠償金やランクの低下なんかがあり、それをするぐらいなら、回復薬をどっかで買ってきて渡す方が良いと思う。
私が頷いたのを見てからナクシは、棚から瓶入りの液体を取り出す。もちろん魔法で。
「知ってるかもしれないけど、これが回復薬よ。鑑定スキルを持ってないと分からないけど、この品質が標準ね」
瓶の中の液体は澄んでいるわけでもなく、また、反対側が微かに見える程度の濁り方をしている。
「じゃあ、これを目指して作ればいいんだね。ちなみに澄んでいるのと濁っているのだったら、どっちの方が品質がいいの?」
「なかなかいい質問ね。薬の種類にもよるけど、少なくとも回復薬は濁ってる方が効果が高いみたいよ。薬草の成分が濃縮されているのが原因らしいけど、詳しくは知らないわ」
個人的には澄んでいる方が高級感はあると思うけど、効果だけならそうなるのか。
「良い品質の回復薬が作れたら、その品質に合わせて報酬も増やすわ。でも、あまり良い品質ばかり作られても困るんだけどね」
それは当たり前だろう。高品質な物が欲しい人もいれば、効果が低くても安く手に入る低品質が欲しい人もいる。これはどこの世界でも同じはずだからね。
「これで説明は終わりだけど質問はある?無いなら回復薬の作り方を教えてから、仕事に入ってもらうけど」
「質問は・・・今のところはないかな。思いついたら聞くけど、とりあえず始めていきたいな。」
「分かったわ。まず私が実際に作るから、その後そっちの器具を使って、私と一緒に作ってみましょうか」
そう言ってナクシは回復薬の作成を始める。使う材料の量や作り方の手順などを説明しながら、慣れた手つきで作っていく。魔法でやってるから手は使ってないけど。
ナクシはあっという間に回復薬を作り上げる。作り方が簡単でナクシの説明も分かり易かったので、私はなんとか一通り覚えることができた。
次はナクシと同時に作る。これが意外とスムーズに行き、見本に似た回復薬が出来上がった。
これはスキルの恩恵が効いてるんだろうね。慣れているはずのナクシと同じぐらいの作成速度だった。
「へえ、初めてでその速度で作れるんだ。リフィアちゃん才能あるんじゃない?」
「ナクシの説明が上手だったからだよ。それに、私に合わせてゆっくり作ってくれてるんでしょ?」
「あれ?分かっちゃった?いつもはこの倍の速度で作ってるのよ」
やっぱりか。じっとこちらを見てくるから、余裕がありそうだなと思っていた。でもまさか、この二倍でできるとは思わなかったけど。
なんにせよ、私はこの速度が精いっぱいだったのでありがたいことだ。
「もう、一人で作れそうね。私は店のほうで仕事してるから、何かあったら言って。休みとかも自由にしていいから、今日一日よろしくお願いするわ」
ナクシはそれだけ言って部屋から出て行った。
さて、私も仕事しますか。
ナクシほどの速度はないけど回復薬をどんどん作っていく。作れるのは大体標準の品質ばかりで、たまに高品質や低品質ができる。
二十個くらい作ったところで、作れる品質の平均が高くなった気がする。たぶん”薬品作成”のレベルが上がったんだろう。
ステータスを確認してみると、思った通り”薬品作成”のレベルが上がっていて、ついでに”生産品質上昇”も上がっていた。
二十個でレベル2ということは、レベル3に上げるのに三十個以上は必要そうだね。
目標はレベル4まで上げることかな?でも、もしかしたら回復薬では上がらない可能性もあるから百個作るのを目標にしておこう。
一個作るのに必要な時間はレベルが上がっても変わらないから、これの倍の速度でできるナクシはどうやってるんだろう。魔法を使ってるから、早く混ぜたりできるのかな。それとも何か他にあるのか。
早くするために手順を変えたら失敗しそうだし、実験なんてできない。私が二人いれば二倍の速度でできるのにな。・・・私が二人に?
そういえばナクシは回復薬を使っている最中は、一つの器具しか操っていない。けど、ミルクを持ってきた時みたいに同時に二つ以上動かすことができる。
つまり、普段は回復薬の作成の時も複数の器具を操っているのだとしたら、私の倍以上の効率で作れることになる。
まあ、理屈が分かったところで私には真似出来そうにないね。そんなことができるスキルは持ってないし、別に今のままでも特に困ってるわけじゃない。そもそも楽したいと思ったから考えていただけだからね。
とりあえず、ノルマ目指して無心でやりますか。
・・・うん、お腹すいた。
窓から外を見てみると太陽が真上辺りまで来ている。そろそろお昼の時間だ。
仕事に集中してたらお腹が空いたと感じないというけど、そんなもの私には当てはまらないみたい。この空腹感は早いとこ解消しないと、仕事が手につかないよ。
お昼を食べに外に出ようと思い部屋の扉の取っ手を掴もうとした時、独りでに扉が開いた。
「リフィアちゃん。そろそろお昼食べない?って、どうやらその気だったみたいね」
どうやらナクシが扉を開けたようだ。
ナクシの後ろにはサンドイッチが乗ったお皿が浮いている。
「頑張ってるみたいだったから、サンドイッチ作ってあげたけど、どう?食べる?」
まさかのご飯付きの仕事でした。こんないい仕事、他の人が取らないのが不思議だよ。たぶん私の尻尾は揺れているんだろうな。
返事のため口を開く・・・前に、お腹が鳴ってしまった。私は頭を掻きながら苦笑するしかない。
「体の方が先に返事しちゃったよ。そういうわけで頂きます」
「ふふっ、この部屋は暗いし店の方で食べましょうか」
確かにこの部屋は午前中は日の光が入るが、午後からはほとんど入らない。それに比べて商品を並べている店の方は、三方向に窓が付いているので朝来た時も昼過ぎの今でも明るい。
ちなみにこの家の近くには家がない。いや、家自体はあるが、普通の家がないといった方が正しいか。この家は木造のログハウスのようだけど、周りの家は壁の中に穴を掘って作られている。
この街では洞穴が一般的な家だし、この街の名物とも言えるのかな。
「そういえば、なんでこの家は普通の家なの?」
ふと、思いついたことを聞いてみる。家を作るにしても洞穴の方が安く作れそうだし、薬を扱うなら多少涼しいほうが材料とかの保管が効きそうだと思うから。
「ああ、よく聞かれるわねその質問。それの答えは簡単よ。私は木の家の方が好きなの。それに、あんな日当たりの悪い場所なんかには住めないわ」
「うん。それは良く分かる。・・・私も暗いところは好きじゃないからね」
この世界に転生して来た時のことを思い出す。
真っ暗闇の中で私一人の息遣いしか聞こえない。さらに刻一刻と体が弱っていくのを感じていた。あまり意識してこなかったけど、私にとっては暗闇が一番怖いかもしれない。
この街まで来るのに何日も使ったけど、まだ明るいうちから寝床を確保して寝ていた。街の外だから当然だけど、完全に眠り込むことは無かったと思う。宿でも少しの物音で起きてしまう事があったぐらいだし。
「それよりもお昼食べましょうか。さすがに私もお腹空いてきたからね」
私の異変に気付いたのか分からないけど、明るい声でナクシは話を変えてくれた。
・・・ご飯を食べるときに気分が落ち込んでちゃ、せっかくの食べ物に失礼だね。
すぐに私は気持ちを切り替えて、頭の中をお昼ご飯のことで埋め尽くす。そしてまたお腹が鳴ってしまった。私とナクシは顔を見合わせて、少しの間笑い合ってから少し早めのお昼を楽しんだ。




