黒幕の新手
ワクチン後に体調崩しまくってます涙
みなさんも打つ前は必ず体調万全にしてくださいね(わたしは忙しくてカマケテマシタ)
「さあ始めっから座れ座れ~」
矢張り、騎士団長様であったか。昨年の剣術大会以来、久方振りの謁見である。
世界一を誇る同盟国軍の最高峰である第一騎士団を率いる御方とは思えぬ、その口調の緩さに、おそらく騎士団長様と話した事のない同期生達がたじろぎながら着席する。
「ははっ!んな固くなんなって~!なあ?ルフェ」
「…はっ、ご無沙汰しております。第一騎士団長様」
敬礼をすれば、愉し気に笑みを深める騎士団長様。
…開口して直ぐ、私に話を振るとは…また何か意味があるのだろうか?
「いやいや違ぇんだなこれが。今俺は教官長として教壇に立ってんだな~!」
室内の空気が変わり、これから一体何を話されるのだろうかと、固唾を呑む同期生達。
「今年度から新たに組み込んだ課外授業だが、この組は俺が担当する」
………皆、息をしているだろうか?
「何をするか、それは各々異なる。一人一人に課題が出されるが、互いに詮索はナシだ。まあ例えば、市井や貴族への聞き込み、だとかな。其々騎士団員に同行してもらう」
……中々に、具体的な課題内容である。
顔から笑みを消した騎士団長様は、続けて口を開く。
「もし、課外授業により”何か”が起こったとしても、責任は騎士団が取る。ちなみに、同意できぬと申した家の者はココにはいないぞ?皆忠誠心の高い者ばかりだなあ!」
……いや…実際は、この御方に逆らえる者がいなかったという事ではなかろうか…
ニコニコと再び笑みを浮かべる騎士団長様に、室内が何とも言えぬ雰囲気になる。
「んじゃあ前から順に一人ずつ出てこい。課題内容を伝える」
騎士団長様と目の合った最前列の同期生が、声を裏返しながら敬礼し、教壇へ向かう。
たしか伯爵家の同期生が紙を受け取り、凝視している。
「ああ、言い忘れた。皆、内容を確認後、課題についてそれぞれ情報収集しに図書室へ行ってくれ。今日の授業は自習ってことな!次回は団員と面談だから、よおく調べとけよ~」
勢い良く敬礼した同期生が紙を返却し、一礼をして教室を出て行く。
何というか…思い切ったな、とも思うし、実際もう其れ程までに近衛師団員は過多なのだろうとも思う。そして、騎士団員は不足していると。
士官学校を騎士団が完全に掌握したのか、他を排除したのか。まあ…第一騎士団長様が教官長として学校にいらっしゃる時点で、誰も手出しできないのだろう。
前の席の同期生が騎士団長様に紙を渡したのを目視し、席を立つ。彼が一礼をして立ち去るのと同時に教壇へ近付く。
「おお、ルフェか」
騎士団長はニヤニヤと表情を緩め、ルジに紙を見せる。
“三月後の夜会への潜入調査”
たったその一文と、殴り書きで付け足された”この後学校長室へ来るように”との一文。
ルジは真顔のまま紙を騎士団長に返し、一礼して教室を出た。
……夜会の潜入調査、だとは。
しかも、三月後。一体、何の夜会なのだろうか。私である意味は?他国の領主息子という建前の私に、何を調査させるのか。
抑、卒業後は祖国へ戻る私に、騎士団へ囲う為の課題をさせるだろうか……ということは、此れも、何かの囮役なのだろう。
小さく息を吐き、学校長室と表示された部屋の前に立つ。
扉を叩こうと手を握れば、音もなく目の前が開かれる。
「ルジ様、お待ちしておりました。どうぞお入りください」
明らかに学校の者ではない服装の男性が一礼する。
「失礼、いたします」
会釈し、入室する。正面奥にある学校長の椅子は空席だ。
「後程騎士団長が参りますので、どうぞお掛けください」
「畏れ入ります」
案内された長椅子へ腰掛ければ、その男性は慣れた手付きで茶を入れる。
……初めて見る装いの男性は、団員なのだろうか。しかし騎士団の制服ではない。何とも、地味な服なのである。隠密…?だとしても何の為に?
「頂きます」
男性を視界の端に捉えつつ、ごく一般的な香りの立つ紅茶を口にする。
…ああ、美味いな。何もかもが丁度良い。
「ーー悪い悪い、待たせたな~」
ルジは表情を変えずにスッと立ち上がり、敬礼をする。
「あ~違うぞ。今はアレだ、セントポーリア王国の騎士団長だ」
で、貴女は公国の御令嬢だと、にこやかに笑いながら向かいの長椅子に座る騎士団長様。
茶器を手にした男性を横目に再び腰を下ろし、口を開く。
「…畏れながら、其れは、先程の課題内容と関わりのある事でございましょうか」
「お~流石だな!その通りだ。貴女には、私の義妹として夜会に潜入してもらう」
………義妹……?
一瞬、身が固まった。ゆっくり瞬きをし、騎士団長様を見詰める。
「義妹に、ございますか」
「ああ、義妹だ。遠戚の令嬢を本家が養子に取った、という建前でな?」
「…その夜会には、他の生徒は潜入しないのでしょうか」
「お~鋭いなあ?」
騎士団長様はケラケラと愉し気に笑い、紅茶を口にする。
「実のところ、貴女の他にも何人か潜入する。が、万が一に男装がバレたとしても、退学にはならない」
其れが、騎士団が責任を取るという事なのだろう。
「ああ、ちなみに、ドレスや装飾品類はコッチで準備する」
一級品をな、と付け加えた騎士団長様は肩を竦める。
「一級品、で、ございますか…」
「まあ気が引けるのは分かんだけどよ、一級品じゃねぇとコロスって言われてんだよなあ」
……殺すなどと…一体どのような人物であればこの御方に斯様な物言いを……考えるだけで恐ろしい。私が想定している以上に、大掛かりな囮役なのだろうか。
「…承知、いたしました」
「おうおう、んじゃあまた後日詳細を伝えるからよ、とりあえず~アレだ、この国の貴族連中について情報収集しといてくれ」
「はっ!」
敬礼をすれば、今度は合っていたようで、満足気な笑みを向けられる。
さてと、と立ち上がった騎士団長様に私も続く。
「イロイロと悪いが、貴女には期待している」
じゃあなと、退室する騎士団長様。
私と扉付近に控えていた男性が腰を折ってお見送りをする。思わず小さく息を漏らす。
「ご馳走様でした」
男性へ会釈し、学校長室を出る。
ゆっくりと静かに閉まった扉を背に、もう一度溜め息を吐く。
……神経が、鋭くなっている。
何人か、居たのか。来た時は全く気付かなかった。あの男性と、同職の方々なのだろうか。
何処からか確かに感じる其の気配に、襟を正しながら一歩、踏み出した。
さてさて、あの秘宝の出番です!!




