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腹を満たせる

やっと平熱に下がりました…汗



「聞いても、いいか」


「何だ?」



ディートに声を掛けられたルジは、”セントポーリア王国の食文化”と書かれた本を閉じ、首を回す。



「ルフェは、あの料理長が左遷させられた理由を何と、考えている」



向かいに座るディートは、いつになく真剣な顔だ。



「先週の件を、聞き付けた新任の教官に、あの者達は士官学校に匿われているのだと言われた」



本人達は気付いていないらしいが、と言えば、眉間に皺を寄せるディート。


何とも、判断しかねる表情だな。ディートはどちら側の人間なのか。何れ分かること、なのだろうけれど。もう、彼此と考えを巡らすことが面倒になってきた。



「ディート、お前は、誰の味方だ?」



彼は険しい表情のまま、私に視線を合わせる。



「…それを聞いて、返答を変えるのか」


「いや、変えはしない。が、付け加えはする。お前の利になるような」


「……何故、」



苦渋な表情に変わる。



「お前は私を非情な人間だと思っているのか?」


「…そうではないが、」


「何故か、理由は単純明快だ。ディート、私はお前を友だと思っているからだ」



私が真っ直ぐに見詰めれば、ディートは目を瞠る。

それは、初めて見た表情だった。



「まあ、お前が、私のことを如何様に思っているかは分からないが。もし、友が、道に迷っているのならば教え、踏み外そうとしているのならば諭し、立ち止まっているのならばーー」


ニヤリと、口角を上げ、机の下にあるディートの足を蹴る。


「ーーッ、?!」


「その背中を蹴飛ばしてやる。それが、友というヤツだと、私は思うが?」



蹴られたディートは更に目を見開き、数回瞬きした後、深々と息を吐き出しながら項垂れ、両手で頭を抱えている。


何れも、初めて見る仕草である。かなり、愉快な気分だ。

いや、項垂れたのは二度目か?たしか、剣術大会の後に謝罪してきて……そうか。あの時から、ディートは迷い、立ち止まっている。



「……ルフェ、俺は…お前を、利用するような遣り方は間違っていると…お前を巻き込むようなことはしたくないと、思っていた」



そう、苦し気に吐露する。

利用、か。誰になのかは、剣術大会の日に気づいたのだけれど。



「それでも、俺が、そう思ったところで何も変わらない。ルフェ、お前は…、囮であり、帆風だ。お前の意志に関係なく、巻き添えになる」



小さく息を吐き、顔を上げたディートは、意を決したような顔をしている。



「俺はーー何があろうとも、お前の味方だ」



そう言い切ったディートの瞳には、もう、迷いはなくなっていた。



「…で?私はお前の友か?」



嬉しさを誤魔化すように、意地の悪い笑みを浮かべて見せる。



「ああ、友だ。ーールフェ、お前に出会えて、本当に良かった」



………とんでもない、笑顔だ。


直視できず、私もだと返し、下を向いて呼吸を一つ、小さくした。



「…私も、言えぬ事がある」



顔を上げれば、真剣な瞳が私を見詰めていた。



「お互い様だが、私もお前の味方になる。その上で、聞いてほしい」



ディートが頷く。ルジは周囲の気配を再度確認する。



「おそらく、あの料理長は不作に気付き、何らかの提言をしたのだろう。そして、求心力に影響すると懸念した者らに脅迫や左遷をされた。と、いうのが料理長達や制裁した文官達への建前で、其の実は誰かの指示の下、匿っていると。其れが、最も可笑しい」


「…おかしい?」


「そうだ。何故、他国の領主子息に其れを言う?」


「…確かに、そうだな…」


「食糧難について詳しい国の者である私が気付き、苦言を呈する事を待っていたのかは分からないが、乗ってやろうと思った」


「……お前は…」



いつもの小言を並べる時の顔をしたディートに、得意顔を向けた。



「まあ、騒ぎを聞き付けたあの教官が黒だとはまだ断言できないが、この一週間何事もないという事実が答えなのかもしれないな」



天井を仰ぎ、溜め息を吐く。


本当に、何もないのだ。

料理長達が意気消沈している様子と、後はディートが過保護になり夜図書室に入り浸る私に付いて来るようになった程度しか、特に変わりはない。



「…掌上、ということなのか。それから、牽制か?」



利用されるばかりなど、詰まらない。


再びディートに目を合わせる。



「ディート。私は、好き勝手やることに決めた」



ああ、可笑しくてたまらないな。



「”食い物”を粗末にした奴等を喰ってやる」



頬杖を突き、挑発的な笑みを浮かべれば、ディートは目を丸くした後、破顔した。


……こんなにも、頼もしいとは。

別に、一人で暴れても問題はない。しかし、味方がいるというのはこうも、心強いものなのか。



「ああ、そうだ。…もう一つ、聞こうと思っていたのだが…いいか?」


「…何だ?」



言い難い事なのか、なんとも珍しい表情だ。



「…休暇中、手料理を振る舞ったようだが、……俺も、食べてみたい」



少し、気恥ずかし気なその雰囲気に、拍子抜けしてしまった。

……これまた、意外、だな。



「…誕生月は、いつだ?」


「…え?…先月、だが…」


「そうか。いや、休暇中ジルに前祝いと礼を兼ねて菓子や飯を作ったから、お前にもと思ったが…過ぎていたか」



今の状況で、厨房を借りられるだろうか?



「……それは、皆で食べたのか?」


「え?ああ、彼奴らは食べ盛りだからな」


「…そうか。今は、厳しいが。…いつか、俺の家で作ってくれ」



……耳が、赤くなっている。

そうか、そんなにも、独り占めして食べたいのか…もしや私と同類か?



「…ならば、共に作ろうか。ディート。お前なら手際良くできそうだ」



私と同じく食道楽な気のするディートに頬が緩む。


いつか、が、来るのかは分からない。

それでも、私の手料理を食べたいと、そこまで心を開いてくれたその事実が、嬉しくて堪らない。



料理などした事がないと、不安気に呟くディートに、悪戦苦闘する姿も想像できるなと微笑した。



ルゥさん、アナタそういうところだぞ~と、言ってあげたいですね笑

ちなみにお礼とは、コルガーのオベンキョーの件です!

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