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美味い飯には

ブックマークありがとうございます!

本日ワクチン二回目なので、きっとしばらく寝込みます…泣



信じられない。本当に。酷い。酷過ぎる。今日という今日は、言ってやる。


ルジは夕食を無理矢理口の中に詰め込み、粗く噛んで嚥下し、水を一気に飲み干す。



「今日は特に、不味かった」



洗い場にいる女性の料理番へ声を掛けるも、水の音に掻き消されたのか、聞く気がないのか、無視された。


次は、ハッキリと大きな声で告げる。



「飯が!!不味い!!」



皿を洗っていた女性が肩をビクリと震わせて目を丸くしながら振り向く。


厨房の奥から、大柄な男が鬼の形相でやって来る。



「アァン??貴族の坊ちゃんよォ、随分と偉そうじゃねぇか??メシが不味いだとォ??」


「事実だ。今までも不味かったが今日は特に不味かった」


「ンだとォ??」



見下ろすように睨め付けるその男は、おそらく料理長なのだろう。



「りょっ、りょうりちょっ…!この方は…本当にお偉い方ですって…!」



皿洗いの女性が顔を真っ青にさせ、料理長の前掛けの裾を引っ張り訴える。



「イマドキ身分なんたァ関係ねぇんだ。人様が作った飯を不味いとノタマうような奴にや敬意なんぞ払う必要はねぇ」


「…そんなっ……!ダメですこれ以上っ…、あのっ!!料理長の代わりに謝らせてくださいっ!!ご無礼を本当に申し訳ありませんでしたっ!!」



おいヤメロ!!と怒鳴る料理長の制止を振りきり、深々と頭を下げる皿洗いの女性。

それに続き、他の料理番達も同様に腰を折っている。


まったく、何なのか。

溜め息を吐き、料理長を下方から睨み付ける。



「食材に対し敬意を払えないような奴に料理人を名乗る資格はない。厨房を去れ」


「…なッ……!!」



私の言葉に絶句する料理長。

思い当たったのだろうか。私はずっと、疑念を抱いていた。何故態と素材を殺すような調理方法をしているのだろうと。まあ、理由があるにせよ到底許されぬことである。



「ちっ、ちがうんです!!申し訳ありませんッ!!そうするように言われていたんですッ!!」


「おいッ!!お前何を勝手にーー」


「ーーもうあたしは限界なんですッ…!!」



悲鳴のような叫び声が、厨房に反響する。


ルジは涙を流す皿洗いの女性に優しい声色で話し掛ける。



「誰かの、差し金ということですか?」


「はっ、いっ…!!……不味い料理を出せばっ、王宮の厨房に戻してやるとっ……脅されてっ…!!」


「成程…貴女達は、王宮から追い出された、ということですか?」



涙を溜めた目を見開き、何度も首を縦に振る。

料理長や他の料理長は皆、項垂れている。



「そうなんですっ…!!あたしたち平民の料理人は理不尽なコトを言われたり…失敗をなすりつけられたり…挙げ句の果てにはエンザイでこの厨房にサセンさせられて…っ!!」



士官学校の厨房が、左遷、とは。



「平民のおまえたちはシカンの貴族さまと仲良くしてろって言われて…なにがなんだかさっぱり分かりませんっ!!」



ああ、そうか。様々なことが、腑に落ちた。


王宮内は文官貴族寄りであり、下々の者までもお仲間で固めているのだろう。

もし、上級貴族の生徒が平民を侮る態度には下級貴族から舐められぬように、という真意があったのだとすれば、王宮内で権勢を握っているのは文官の下級貴族なのかもしれない。


いや、そうであってほしい。

でなければ上級貴族が平民に対し脅迫や冤罪等の悪行をしている、ということになる。貴族間ならまだしも、絶対的な権力を持つ上級貴族が下々の者に手を出すとは、威信に関わる事態だ。まあ、この国の貴族の矜持がどの程度なのか知らないけれど。



「成程。それで、貴族は平民と”仲良く”することに抵抗があるのか?」



ウィーとエディソン、コルガーとディート、そしてジル達がいる座席を振り返り、皆の視線を受けながら問う。



「…多少なりとも、あるかもね?まあ、僕としては、仲良くなったが故に弱みとして文官の人等に使われてしまった平民の人達も見てきたから、何とも言えないんだけどね」



そう嘆息したウィーに、ゾッとしたような顔をする連中。

背後にいる厨房の人達の息を呑む気配を察する。


腐っているのだ。この国は。身分社会から階級社会に変革したというのに、士官学校でさえこの有様なのだ。



「何が”仲良く”、だ。私はお前達と仲良し小好しで過ごしている訳ではない」



ジル達を見詰めながら吐き捨てるように言えば、彼らは身を硬直させた。



「我々は同胞だ。共に戦う仲間だ。其れは、貴方もだ。料理長、」



ゆっくりと体の向きを厨房の方へ戻し、まだ俯いている大男へ話を続ける。



「私は、飢餓で理性の消え失せた領民を多く目にしてきた。食糧を奪い合い、盗み、時には危め、それでも満たされぬ者達は、何を願うか。其れは。どうせ死ぬのであれば、最期は腹を満たして死にたいと、そう願って死ぬだ。ーー料理長、貴方は、知ってしまったのではないですか?」



脈絡のない此の話に、ビクリと身体が反応した料理長。


やはり、当たりだったか。

食堂で使われている食材は不揃いなのだ。それは、供給が不安定という証にもなりうる。まあ、多少の工夫はされているが、素材も然る事ながらとにかく味が悪い。手を抜いているのだと、素人に毛の生えた程度の私でも分かる。



「しかし、貴方はこのままでよろしいのですか?私は、限られた食材で美味い飯を作ることができますが、まさか貴方は、できないのですか?」



煽るように言えば、バッと勢い良く顔を上げた料理長が口を開き、しかし何も発せず噤んだ。

知ってしまった彼は、おそらく正面切って何かを言ってしまったのだろう。見て見ぬ振りをしなければ逆に咎められてしまうような、何かを。



料理長は再び下を向き、拳を握り締める。


ルジは席へ戻り、空の洋盃に水を注ぎ、体内へ一気に流し込む。



「ルゥ、お前ってほんと、食意地張ってンよなあ~?」


「煩い。私を誰だと思っている」


「そりゃあ、食いしん坊っちゃん、だろ」


「「……ッ!!」」



連中が、噴き出しそうになって苦しんでいる。



「いやいや、冗談じゃねぇからな!?みんな陰でそう呼んでたんだッてぇ…!!」


「私の国は皆、味に煩いのだ。お前達は分かるだろう?」



食台の下でコルガーの足を踏み付け、笑いを堪えているのか顔を歪ませている連中を見やる。

休暇中に私の手料理を食べた面々は、分かっている筈だ。食意地ではなく、食に対し並々ならぬ情熱を持っていると、そう表現してほしいものだ。


小さく息を吐き、周囲を見渡す。

私と目が合い、直ぐ様逸らす者達が数人。こちらに視線を向けてはいないが、食事の手が止まっている者達は多々いる。


さて。私の奇行を耳にし、左遷させた者や脅迫している者は、如何様な行動を起こすだろうか?

僅かにほくそ笑んでいると、ウィーとディートが何とも言えぬ顔を向けてくる。エディソンは腕を組み考え込んでいる。



「…ルフェの手料理、美味かったよな」



ルジを挟んでフルウィス達と反対側に座っているジルが呟いた。



「食材を余すところなく調理していたのは、粗末にせず、美味しく頂くという意味合いだったんだな」



感心したように話すジルに頷き、その通りだと返す。


まだ笑い損ねていた連中も、たしかにスッゲェ美味かったと呟き、その言葉に重ねてほくそ笑んだ。



学食って、学校によって当たり外れありますよね~!

あと、厨房のおばちゃんと仲良くなる奴っていますよね!私はそういうタイプでした笑

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