空漠とした
長期休暇中の話です。
休み明け、次話から三年生になります!
長期休暇が始まり気が抜けているのかワイワイと騒ぐ連中を見遣る。
帰省する者は半々、といったところか。
昨年はコルガーと二人、騎士様方に稽古をつけて戴いたな。もう一年経ったのか。
「ああ、そうだ。お前達も、明日から騎士団の方々から御指南戴くからな」
「ハッ?!騎士団!?」
あからさまに腰が引けている面々。
「私達が此の国へ来る際、護衛をお引き受け下さった方々だ」
「騎士団の訓練だからスゲェぞ~!」
コルガーの話を聞き、目の色を変えた連中は早速打ち合いを始める。
コルガーは度々、騎士様に稽古をお願いしている様だが、教官から許可を得ているらしい。士官学校も容認とは、それ程までに騎士団も人材不足で悩んでいるという事なのか。
ウィーによると、三学年は貴族が多く、昨年の剣術大会は見世物としての役割しか果たせない様相であったらしい。
コルガーは、卒業後、騎士団に入りたいのだろうか。
……駄目だな、今日は。集中力に欠ける。
手元の封筒に視線を落とす。
妙なのだ。良い報せしかない。天候も良好な状態が続き、ルフェも絶好調な様だ。
「ルフェ、どうした?」
実家からの手紙か?と、尋ねてきたジル。
「ああ。元気なようだ」
「それは良かったな、と、言いたいところだが」
私の顔を見て眉尻を下げたジルは、気遣わし気に続ける。
「卒業まで一度も帰らないのか?」
「まあ、遠いからな」
「そうか…」
そう呟いたジルは、遠い目をしている。
最近、この目をするのだ。何か、思う所があるのだろう。進路の事だろうか。今度他の奴らの話も含めて聞いてみるか。
「…さてと。お前ら、明日に備えて体力温存した方が良いと思うぞ?」
「ハッ!!たしかに!!」
「よし、練習は午後で、これから気晴らし兼ねて城下に行くか!」
ジルの誘いに大喜びする連中を見て、しまったと気付く。
「すまない、直前に言えば良かったか」
「いや、多分直前だと緊張して動けなくなりそうだな」
午後に程良く疲れたら夜興奮して眠れないことはないだろうと、朗笑するジル。
「いや~!城下かぁ!って、休暇中は外出許可証いらねぇの?」
「はあ…?いらねぇだろって、まさか…本当に去年どこにも行ってねぇのか…!?」
「やっぱそうだったのか…!!見かける度ルフェとコルガー、打ち合いしかしてなかったよなっ!?」
「そうそう!!どーりで去年の休み明けべらぼうに強くなってたワケだ!!」
まあ確かに昨年は、稽古と練習以外は特に何もしていない。強いて言うなら、辺境国の料理を作って食べた事ぐらいだろうか。
然し、城下か。この国は様々な国と貿易をしているとの話だから、定期的に物資を送ってくれている城の者達への贈り物でも選ぶか。
とりあえず日持ちする菓子折りと、領主様とルフェは同盟国の書物に興味津々といった内容の手紙があったから、何かあるだろうか?奥様とリューバには装飾品か。執事長殿にも何か…いや…全く思いつかない。
後は、他国の調味料があれば良いな。この休み期間も厨房を借りて何か作ろう。
それから、武具も…いや、無理か。何を購入したのか寮に戻る際確認されるだろう。
今上着に隠し入れている武器は、入学時に特例として検分が免除されたが故に持っている物だが、そうだ、規則には武器の持ち込みは禁止となっている事を今更思い出した。
「お~い、ルゥ?」
「…ああ、すまない」
意外と買いたい物が多いな、と言えば驚く面々。物欲が無さそうなのに等々、言いたい放題である。
「悪いが先に行っていてくれ。此方に立ち寄る」
「おいおい女かァ?!」
女性物の装飾品が並ぶ店を指差せば、この有様である。
まあ…この二年間、性別が悟られる事なく過ごせているという証だと思う事にする。
「くっそ~!ルフェはカッケェもんな~!背ぇ低いけどなっ!」
「そうそう!背は低いけど顔良くて無茶苦茶つえーからな!」
おい、と睨みを利かせるも、まったく馴れたものでゲラゲラと笑い転げているーーーー何だ?先程から。様々な商店が軒を連ね、多くの人が行き交う中、尾行されている様な気配がある。
「さっさと行け。十五分後に合流する」
コルガーに視線を送り、瞬きを二回する。
「十五分も選ぶのかよッ…てぇンだよコルガーッ!」
「いやいや~醜い嫉妬はよさないかい?キミ達ぃ~?」
連中を引き摺るように移動させるコルガー。
屋台に行っていると、ルジに声を掛け小走りで去るジル。
辺りを見回し、飲み屋がありそうな場所へ足早に向かう。
更に路地を進めば、その先に夜の店が立ち並んでいる。上方に在る気配を警戒しながら、ゆっくりと歩を進める。
掛かるだろうか。狙いは私か?ーーーー来た。
瞬時に短剣を取り出し、頭上から飛び掛かって来た刃物を受け止め弾く。
クソッ!!速い…ッ!!
一歩下がった私に、見た事の無い短剣で頸部の左右を突き刺して来る。
クッ…、避けるので精一杯だ…!!今かッ!!
曲者の攻撃を躱しながら投剣を取り出し刺突。不意打ちとなり、出来た隙に反撃を加える。
「ーールゥ!!」
コルガーの声が響き渡る。曲者が踵を返す。
「追えッ!」
警護兵らが追い掛けて行く。
「ッハァ…、ルゥ、」
「コルガー、助かった」
肩で息をするコルガーがへたり込む。
「っ、髪が、」
「…ああ。そろそろ、切ろうかと思っていたところだ」
左耳辺りの毛を切られたようだ。避けられなかった。速かった。一体…何者で、何の、目的だったのか。
「…ルゥ、夜目だが、あの曲者…見たことがある」
「何処で」
「騎士団長様と、初めてお会いした日の、前の晩に。服装が、似ていた」
……騎士団長様と…?……まさか。
「…あの時の、右肩の怪我か」
「…、いや、ワリィ」
今更言うなどと……もう、二年も前だ。嗚呼本当に、此奴は肝心な事を言わない性分だ。
然し、辺境国とはまた……何故に。
深々と息を吐き出し、空を仰ぐ。
雲一つ無く、何処までも澄み渡る青空が広がっている。斯様な日和で、昼間に襲撃とは…如何様な意味を示しているのか…
一先ず、ジル達に何と弁明しようかと、思案しながら武器を仕舞った。
のんびり休みにするつもりが…あれ?汗
ちなみにエディとウィーは領地に帰り、ディートはいろんな御方に呼ばれて忙しいです笑




