亡命者の誓い
ジル視点です。(ドキドキ)
ちなみに…六章の伏線です(忘れそう…)
『ジルヴィウス様。例の者の正体が判明しました。養女が子息に成り済ましているとの情報です』
それは、最悪な報せだった。
この国に逃げ延び、平民として士官学校へ入学し、仲間に恵まれ、もうこのまま”ジル”として生きていこうかと…そう呑気に思っていた矢先の出来事だった。
彼の国の弱みになりうるからと、高嶺の花であるルフェ様…元い彼女に接触してほしいと言われ、以前から度々彼女を見掛けていた場所で、俺は初めて彼女と対面した。
『集中されているところ、すみません』
夜間、解放されている図書室。
彼女が時間の許す限り読書をしていると気付いたのは、共に本科へ進んだ仲間達の勉強を手伝う為に本を借りに来た時だ。
『…何用か』
『…あの、…同期生のジルと申します。…その……っ、昨日の食堂の件、感動、しました!』
彼女の鋭い視線に、考えていた台詞は全て吹き飛び、自分でも何が言いたいのか分からない話を口にしていた。
『感動、か』
『はいっ、その、…自分も、予科生だったもので…』
『そうか。ならば、喧嘩を買うのも程々にしたらどうだ?』
ニヤリと、笑みを浮かべた彼女に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
『……ご存知、でしたか…』
『ああ、中々の気骨と思っていた。が、貴族相手にあれは藪蛇だ』
そう楽し気に笑う彼女に、今思えばあの時既に、陥落していたのだ。
「お~い、ジル。みんな心配してンぞ~?」
木剣を支えに俯いていた顔を上げる。
「…コルガー、」
「おっ、顔色はだいぶマシになったな!」
隣に腰掛けたこの男は、彼女の幼馴染であり、恐らく用心棒のような役目を担っているのだろうと教えられた。
砕けた仲になるまでは、彼女に視線を向ける度に睨み付けられていたことが最早懐かしく感じる。
それ程に、心を許してしまっているのだ。
「……コルガー、俺は、…お前達には、」
「おっと~?やめろやめろ、ンな顔すんなって!」
そう言ってコルガーはニヤニヤと笑う。
「何となく、分かってるからな?それだけで十分だ」
「……、」
「まっ、ルゥが勘付いてるかどうかは分からねぇけどな~?」
何に…気付いているのだろうか。もういっその事、全て、話してしまいたい。
「ルゥはよ、気を許した相手にはとんと鈍くなンだよ。それがどーゆー意味か分かるか?」
コルガーは冷ややかな笑みを作り、言葉を続ける。
「裏切られてもいいっつーことだ」
それは。衝撃的な、意味だった。
訳分かんねぇだろ?と、ケラケラ笑うコルガーを、口を開けたまま只々、見つめる。
「だからいいンだよ、ジル。それに俺の”姫様”は柔じゃねぇ」
「ッ!!」
俺が、知っていた事に、気付いていたというのか。
「おい舐めんなよ?元々は憧れの対象で、気付いてからは敬愛のマナザシで見てたろ?」
だから尚更いいンだよと、楽し気に笑うその表情は、あの時の彼女と、似ていた。
本当に…二人して、桁外れの人物だ。
何が弱みだ。そんなモノ、この二人には取るに足りないのだ。
「おっと、噂をすれば何とやら?」
「ーーコルガー、ジル」
その声に、身体がビクリと反応してしまう。
「どうだったよ事情聴取!」
「私はただ矢を振り払い踏付けただけだ」
うんざりしているルジに、コルガーはつまんねぇのと返す。
ジルは再び顔を青くし、下を向く。
「…ジル、大事無いか?」
「あ、ああ…」
大丈夫ではなさそうだなと、憂い顔で言うルジ。
……駄目だ、顔を上げて、すまないありがとうと、言わなければ……そう思えば思う程、身体が固まって動かない。
「ジル、責任は持つと身を滅ぼすぞ」
彼女がしゃがみ、俺の顔を覗き込む。
「持つなら、そうだな。ーー誇りを持て。お前の誇りは、何だ?」
「………ほこり……」
弱々しく呟き、何となしに手元を見る。掴んでいた木剣を握り締める。
「何だ、もう持っていたか」
ハッとして仰ぐ。
ニヤリと口角を上げて笑う彼女と、目が合う。
『剣を持つ者は皆身分関係なく、その精神と誇りを胸に抱き、日々鍛錬をしている』
そうだ、彼女は…誇りも、そして覚悟も持ち、この国へやって来たのだ。
「……っ、ルフェは…なんでそんなに格好良いんだ…」
もう一度項垂れる。コルガーが笑い転げる。彼女は笑い過ぎだと言いながら立ち上がる。
ーーー二年前のあの日、俺は逃がされた。
『ジルヴィウス、生きろ。そして、必ず、復権させるのだ』
自分は生かされ、成し遂げるべき定めなのだと、そう思わなければ生きられなかった。
しかし、今は違う。
自らの意思で、この地に立っているのだと、誰の所為でもないとーー俺は、彼女のように誇りを持ち、生きていきたいと強く、強く心に誓った。
コルガーは嫉妬半分って感じでジルの事をよ~く見てたんだろうなと笑




