「弟子入りしてくんな」
弟子入りを宣言されました。
理解しました、と言われました。全部逆でした。
困っています。
今日も感謝されてしまいました。
ただし今回は、英雄ではありません。
罠を見に来た見習い罠師、ノノカさんです。
前回、私の廃ダンジョンに来て、失敗した罠機構を勝手に観察し、勝手に感動し、勝手に帰っていった方です。
来ないでください、とは言っていません。
でも、来るとも思っていませんでした。
今日の罠には自信があります。
═══════════════════════════
ダンジョン配信中(登録者:1)
女神様「今日も見ていますよ❤」
═══════════════════════════
入口の魔道水晶が淡く光った瞬間、石床に膝をついていた私は、チョークを止めました。
細い足音。
元気すぎる足音。
罠を踏む前から、すでに罠よりうるさい足音。
「師匠!!」
来ました。
「弟子はとっていません」
「先日の失敗罠、研究しました!!」
「失敗です」
「いえ! 全部理解しました!!」
「今、嫌な予感がしました」
ノノカさんは、鞄から分厚い設計帳を取り出しました。
表紙には、大きくこう書かれています。
【師匠の高等失敗理論】
まず理論名から失敗しています。なんですかこの名前......。
「ここです! この感知糸、わざと三ミリ低く張ってありましたよね!」
「素材の伸びです」
「英雄の油断を誘う高度な心理戦!!」
「素材の伸びです」
「そして、この落下床! 起動が遅れたことで、相手に“踏み抜いたと思わせて踏み抜かせない”新概念の罠に!」
「ただの不具合です」
「すごい!! 不具合まで設計に組み込んでいる!!」
「いえ、組み込んでいません」
まったく会話が、噛み合っていません。
この人、罠より危険です。
ノノカさんは床に両手をつき、私を見上げました。
「師匠! お願いです!弟子にしてください!!」
「弟子はとっていません」
「今日から師匠と呼びます!!」
「呼ばないでください」
「師匠ォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「呼ばないでくださいと言いました」
その瞬間、今日の罠機構が起動しました。
壁の奥から鉄球が転がり、床の誘導溝に沿ってノノカさんの横を通過する――予定でした。
ですが、鉄球は三センチだけ横にズレました。
そして、ノノカさんの足元に置かれていた設計帳だけを、きれいに押して開きました。
開いたページには、赤字でこう書かれていました。
【弟子入り申請書】
「わあ! 師匠の罠が、私の申請書を提出してくれました!!」
「提出していません」
「なんてすごい、罠から弟子入り承認してくれたんですね!!」
「いや偶然です。違います」
「そんな謙遜されるなんてさすが師匠!!」
ノノカさんは、泣きそうなほど感動していました。
「ありがとうございます、師匠!! 一生ついていきます!!」
「本当についてこないでください」
「また来ます!!」
「そこは師匠の言うこと聞いてください」
ノノカさんは申請書を胸に抱き、全力で帰っていきました。
撃退できたかどうかは、判断が難しいです。
ただ、配信ログにはこう出ていました。
【撃退成功 / 英雄満足度:異常 / 弟子入り申請:未処理】
永遠に未処理でお願いします。
シア様は段差に腰かけ、足をぶらぶらさせていました。
「ハルカさん人気ですね〜」
「人気ではありません」
「弟子ができましたね〜」
「できていません」
「気のせいじゃないですか〜?」
「気のせいではありません」
シアラのニヤニヤが、少し薄かった。ハルカは気づかなかった。
私はコートの袖に、小さく追記しました。
【ノノカ:理解方向・全部逆】
【弟子入り:却下】
【申請書:罠が開いた。なぜ】
改善の余地があります。
弟子入りしてくんなっつってんだろ。わたしゃ師匠ではありません!
【今回の登場キャラクター紹介】
・ハルカ:廃ダンジョンの管理をしている人。師匠ではありません。
・シアラ:登録者一名の女神様。今日も見ています。
・ノノカ:罠師見習い。理解力は高いが方向が全部逆。
【今回のズレパターン解説】
誤解型。罠のズレではなく、ノノカの理解が全部逆にズレました。
═══════════════════════════
【今話のダンジョンデータ】
ダンジョンランキング :65530位 → 65527位
配信視聴者数 :6名 → 6名
本日の用途 :弟子入り申請所
コートのメモ(今話) :「弟子入り:却下/師匠呼び:禁止/罠が申請書を開いた」
═══════════════════════════
少しでも楽しんでいただけたら、ブックマーク登録・評価・コメント・レビューで応援いただけると励みになります!




