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ロスト・リビルダー ―忘却の罪―  作者: げこきち
二章 永劫の理想郷
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極炎 穿つ

「貴様のその無謀さ、今回ばかりは評価してやろう」


 ヴレイヴァが黒マントを狂おしく翻し、一歩前へ踏み出す。

 掲げられたその手に宿るの、極大の滅びではなく――原理にして原点、もっともシンプルで純粋な熱量。


「基礎魔呪綴《ベーススペル》――『火炎《ファイアー》』ッッ!!」


 解き放たれた一線の炎が、魔獣の腹を貫く大樹の根元へと一直線に突き刺さった。


 ――ブオォォォォォォォッッ!!!!


 爆発的な火柱が上がる。


 再構築《リビルド》によって急速生長し、大地の瑞々しい未練と熱を孕んだ巨大な樹木。それが一瞬にして最強の薪と化し、激しい炎を内側から爆発させる。


『アアアアァアアアアアァァァァァァアアア!?!?』


 外皮の強靭な装甲など意味をなさない。

 体内へ深く穿たれた木々を伝い、灼熱の炎が魔獣の肉を内側から猛烈に焼き焦がしていく。


 激痛に狂い、魔獣が巨躯を激しくのたうち回らせる。

 刺さった大樹を力任せに折り折り砕き、拘束を強引に引きちぎって暴れ狂おうとする魔獣。 


 その巨足が、後ろへ後退しようとする。


「逃がすかよ……っ!!まだだ、まだ終わってないッ!!」


 血の混ざった唾を吐き捨て、倒木の転がる大地へ肉体を滑り込ませる。


 吐き気?頭痛?そんなもの後回しだ。


 両手を次々と、周囲に転がる別の切り株へと叩きつける。


「再構築《リビルド》ッ!再構築《リビルド》ッ!!再構築《リビルド》ッ!!!」


 ――ズガガガガガガガガッッッ!!!!


 連続生長。

 のたうち回る魔獣の足元から、横腹から――無数の極太の大樹が、雷撃のような速度で次々と槍となって生え上がり、暴れる魔獣の身体へ容赦なく深々と突き刺さっていく。


『ガァァァッ!』


 一本、また一本。

 生え上がる巨樹が魔獣の四肢を貫き、動きを完全に封じ込め、その巨躯を天へと吊り上げていく。


 そして――その全ての大樹の根元には、ヴレイヴァの『火炎《ファイアー》』が燃え広がっていた。


「燃えろ……内部から、全部灼き尽くせっ!!」


 無数に突き刺さった大樹の導線を伝い、猛烈な業火が魔獣の体内を駆け巡る。内側から赤く発光し始める魔獣の巨躯。

 逃げ場を完全に失った悲鳴が、山林の夜空へと虚しく響き渡る。


 内部から爆ぜる業火が、大樹の年輪と導管を猛烈な速度で駆け上がっていく。


 ミチ……ミチミチミチッ……ゴバァッ!!


『ギギ、ガァアアアッッ!』


 外皮に包まれた内臓が灼熱の炎によって一瞬で沸騰し、炭化し、膨張する凄惨な破壊。皮下に閉じ込められた高熱のガスが逃げ場を失い、肉の隙間からどす黒い煙と火の粉が噴き出した。


「見よ、我の炎が生み出す惨劇の宴を!体内から焼き尽くされる気分はどうだ、愚獣」


「ヴレイヴァ、高笑いは後だ!こいつの息の根はまだ止まってないッ!」


 これほどの破壊を内側から受けながら、天に吊るされた魔獣の瞳に――狂乱の光が兆す。


 激痛の絶叫が、次第に低く、重い咆哮の予兆へと変わっていく。


 潰れたはずの頭部、その奥深く。死に瀕した本能が限界を超えた出力を叩き出し、周囲の空間すら歪めるほどの超高純度の光線――あの極光の溜めに入る。


『ゴ……オオオオオオオオオオッッ……!!』


「嘘……こんなに燃やされてるのに、まだあんな威力の光を……」


 ルナネアが、絶望に頬を引きつらせる。

 魔獣の目を照らす光は、これまで放たれてきたどの極光よりも眩しく、島全体を昼間のように白く染め上げていた。


「させるかよ……ッ!!」


 視界が赤く染まるほどの激痛と、喉の奥まで込み上げる酸っぱい吐き気を力任せに飲み下す。脳みそがぐちゃぐちゃに掻き回されるような不快感。視界がグニャりと歪み、立ち眩みで今にも崩れ落ちそうになる。


 だが――ここで俺が倒れたら、全員まとめて灰になる。


「奪い取る……絶対にだッ!!」


 強烈な吐き気を抑え込み、震える指先を解き放たれんとする極光へ向けて突き出す。

 心象風景のページを狂おしい速度でめくり、概念そのものを強奪するあの感覚を全神経で手繰り寄せる。


「基礎魔呪綴《ベーススペル》――『絶綴掠頁《ディスペレージ》』ッッ!!!!」


 ――バチィッッ!!


 空間が歪んだ。

 魔獣の口元で限界まで収束し、いまにも解き放たれようとしていた絶望の極光が――まるで最初から存在しなかったかのように、霧となって空中に霧散していく。


 同時に、その莫大な質量が俺の中へと逆流してきた。


「ハ……ッ!?」


 脳を直接殴られたような衝撃。口から盛大に血を吐き出し、その場にどさりと膝をつく。

 両手で地面を支えるのがやっとだ。視界が点滅し、指一本動かす気力すら残っていない。


「ファイッ!!」


 血を吐いて倒れ込んだ俺を見て、ルナネアが悲鳴のような叫び声を上げて駆け寄ってこようとする。


「大丈夫!?ファイ、しっかり――」


「来るな、ルナネア……ッ!!」


「……!?」


『ギ……ガ……ガガガガガガッッッ!!!!』


 勝利を確信したはずの静寂を切り裂き、頭上から狂乱の駆動音が響き渡った。

 極光を奪われ、内側から燃やし尽くされながらも――魔獣の死に瀕した本能は、まだ諦めていなかった。



 ――極光を奪われた。溜めを作ればまた奪われる。


 ――なら、どうする?


 ――魔獣は、己の命そのものを灼熱の薪として焚べた。



 内臓を焼き尽くす炎すらもエネルギーに変換し、今までとはまったく次元の違う新たな光を、理屈も溜めも全てを置き去りにして強引に構築し始めた。


「溜めが、ないっ!!」


 ルナネアが目を見開き、愕然と叫ぶ。


 理屈なんて通り越している。死に際の狂気が生み出した、生命の全絞り出し。


 命と引き換えに放たれるであろうその光は、山一つを跡形もなく消し去るほどの威力を秘め、即打ちの速度で俺たちを見下ろしていた。


「あ、あ……っ」


 圧倒的な光の圧に足をすくませ、言葉を失う。

 奪った直後の俺の脳は、もう『絶綴掠頁《ディスペレージ》』を連続発動できる状態じゃない。視界は真っ赤に染まり、両腕はピクリとも動かない。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』


 天を突く咆哮とともに、命をかけた極大の光線が、膝をつく俺たちめがけて一気に放たれた――

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