極炎 穿つ
「貴様のその無謀さ、今回ばかりは評価してやろう」
ヴレイヴァが黒マントを狂おしく翻し、一歩前へ踏み出す。
掲げられたその手に宿るの、極大の滅びではなく――原理にして原点、もっともシンプルで純粋な熱量。
「基礎魔呪綴――『火炎』ッッ!!」
解き放たれた一線の炎が、魔獣の腹を貫く大樹の根元へと一直線に突き刺さった。
――ブオォォォォォォォッッ!!!!
爆発的な火柱が上がる。
再構築によって急速生長し、大地の瑞々しい未練と熱を孕んだ巨大な樹木。それが一瞬にして最強の薪と化し、激しい炎を内側から爆発させる。
『アアアアァアアアアアァァァァァァアアア!?!?』
外皮の強靭な装甲など意味をなさない。
体内へ深く穿たれた木々を伝い、灼熱の炎が魔獣の肉を内側から猛烈に焼き焦がしていく。
激痛に狂い、魔獣が巨躯を激しくのたうち回らせる。
刺さった大樹を力任せに折り折り砕き、拘束を強引に引きちぎって暴れ狂おうとする魔獣。
その巨足が、後ろへ後退しようとする。
「逃がすかよ……っ!!まだだ、まだ終わってないッ!!」
血の混ざった唾を吐き捨て、倒木の転がる大地へ肉体を滑り込ませる。
吐き気?頭痛?そんなもの後回しだ。
両手を次々と、周囲に転がる別の切り株へと叩きつける。
「再構築ッ!再構築ッ!!再構築ッ!!!」
――ズガガガガガガガガッッッ!!!!
連続生長。
のたうち回る魔獣の足元から、横腹から――無数の極太の大樹が、雷撃のような速度で次々と槍となって生え上がり、暴れる魔獣の身体へ容赦なく深々と突き刺さっていく。
『ガァァァッ!』
一本、また一本。
生え上がる巨樹が魔獣の四肢を貫き、動きを完全に封じ込め、その巨躯を天へと吊り上げていく。
そして――その全ての大樹の根元には、ヴレイヴァの『火炎』が燃え広がっていた。
「燃えろ……内部から、全部灼き尽くせっ!!」
無数に突き刺さった大樹の導線を伝い、猛烈な業火が魔獣の体内を駆け巡る。内側から赤く発光し始める魔獣の巨躯。
逃げ場を完全に失った悲鳴が、山林の夜空へと虚しく響き渡る。
内部から爆ぜる業火が、大樹の年輪と導管を猛烈な速度で駆け上がっていく。
ミチ……ミチミチミチッ……ゴバァッ!!
『ギギ、ガァアアアッッ!』
外皮に包まれた内臓が灼熱の炎によって一瞬で沸騰し、炭化し、膨張する凄惨な破壊。皮下に閉じ込められた高熱のガスが逃げ場を失い、肉の隙間からどす黒い煙と火の粉が噴き出した。
「見よ、我の炎が生み出す惨劇の宴を!体内から焼き尽くされる気分はどうだ、愚獣」
「ヴレイヴァ、高笑いは後だ!こいつの息の根はまだ止まってないッ!」
これほどの破壊を内側から受けながら、天に吊るされた魔獣の瞳に――狂乱の光が兆す。
激痛の絶叫が、次第に低く、重い咆哮の予兆へと変わっていく。
潰れたはずの頭部、その奥深く。死に瀕した本能が限界を超えた出力を叩き出し、周囲の空間すら歪めるほどの超高純度の光線――あの極光の溜めに入る。
『ゴ……オオオオオオオオオオッッ……!!』
「嘘……こんなに燃やされてるのに、まだあんな威力の光を……」
ルナネアが、絶望に頬を引きつらせる。
魔獣の目を照らす光は、これまで放たれてきたどの極光よりも眩しく、島全体を昼間のように白く染め上げていた。
「させるかよ……ッ!!」
視界が赤く染まるほどの激痛と、喉の奥まで込み上げる酸っぱい吐き気を力任せに飲み下す。脳みそがぐちゃぐちゃに掻き回されるような不快感。視界がグニャりと歪み、立ち眩みで今にも崩れ落ちそうになる。
だが――ここで俺が倒れたら、全員まとめて灰になる。
「奪い取る……絶対にだッ!!」
強烈な吐き気を抑え込み、震える指先を解き放たれんとする極光へ向けて突き出す。
心象風景のページを狂おしい速度でめくり、概念そのものを強奪するあの感覚を全神経で手繰り寄せる。
「基礎魔呪綴――『絶綴掠頁』ッッ!!!!」
――バチィッッ!!
空間が歪んだ。
魔獣の口元で限界まで収束し、いまにも解き放たれようとしていた絶望の極光が――まるで最初から存在しなかったかのように、霧となって空中に霧散していく。
同時に、その莫大な質量が俺の中へと逆流してきた。
「ハ……ッ!?」
脳を直接殴られたような衝撃。口から盛大に血を吐き出し、その場にどさりと膝をつく。
両手で地面を支えるのがやっとだ。視界が点滅し、指一本動かす気力すら残っていない。
「ファイッ!!」
血を吐いて倒れ込んだ俺を見て、ルナネアが悲鳴のような叫び声を上げて駆け寄ってこようとする。
「大丈夫!?ファイ、しっかり――」
「来るな、ルナネア……ッ!!」
「……!?」
『ギ……ガ……ガガガガガガッッッ!!!!』
勝利を確信したはずの静寂を切り裂き、頭上から狂乱の駆動音が響き渡った。
極光を奪われ、内側から燃やし尽くされながらも――魔獣の死に瀕した本能は、まだ諦めていなかった。
――極光を奪われた。溜めを作ればまた奪われる。
――なら、どうする?
――魔獣は、己の命そのものを灼熱の薪として焚べた。
内臓を焼き尽くす炎すらもエネルギーに変換し、今までとはまったく次元の違う新たな光を、理屈も溜めも全てを置き去りにして強引に構築し始めた。
「溜めが、ないっ!!」
ルナネアが目を見開き、愕然と叫ぶ。
理屈なんて通り越している。死に際の狂気が生み出した、生命の全絞り出し。
命と引き換えに放たれるであろうその光は、山一つを跡形もなく消し去るほどの威力を秘め、即打ちの速度で俺たちを見下ろしていた。
「あ、あ……っ」
圧倒的な光の圧に足をすくませ、言葉を失う。
奪った直後の俺の脳は、もう『絶綴掠頁』を連続発動できる状態じゃない。視界は真っ赤に染まり、両腕はピクリとも動かない。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
天を突く咆哮とともに、命をかけた極大の光線が、膝をつく俺たちめがけて一気に放たれた――




