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ロスト・リビルダー ―忘却の罪―  作者: げこきち
二章 永劫の理想郷
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生きて、抗って、未来へ進む


「さっきの人が死んだのは、ファイが一人でカッコつけて死ぬためじゃない!命を懸けたのは、わたしたちを逃げさせるため!!」


「っ……」


「なんで……っ、なんでそこまで……」


 喉の奥から、血を吐くような声が漏れる。


「なんでお前は……俺を……そこまでして助けようとするんだよ……っ!!」


 問いに、ルナネアが一瞬だけ息を呑んだ。


 ――それまでの鬼のような激怒の表情が、嘘みたいに消える。


 胸ぐらを掴んでいた手がゆっくりと解かれ、震える両手が俺の濡れた頬をそっと包み込む。


「……っ」


 ぽろぽろと涙をこぼすルナネアと目が合う。


「わたしは、ファイに助けられた。……でも、ファイは違う。ファイはまだ、誰にも助けられてない」


「ぇ……」


「恐怖から逃げて……ずっと一人で戦ってきた。誰にも救われないまま、ずっと一人で傷ついてきた」


 包み込まれた頬から、ルナネアの熱い体温が伝わってくる。


「わたしに、向き合うことの大切さを教えてくれたのは……ファイだから」


「……俺、が?」


 思ってもみなかった言葉に、息が止まる。


「ずっと暗闇の中にいたわたしのために……ファイは逃げずに、本当の意味で向き合ってくれた。怒ってくれた。それで、生きることの大切さを、意味を……教えてくれた」


 頬を包むルナネアの指先が、小さく震えている。


 溢れ落ちる涙が血濡れた皮膚を伝い、熱く、痛いほどに染み込んでいく。


「わたしだって……完璧じゃないから。まだ上手に向き合えないし、弱くて、逃げたくなる時だってある……っ」


 鼻声を殺し、ルナネアは涙で歪む瞳で俺をまっすぐ見つめた。


「だけど……今度は、わたしがファイに教える。本当に向き合うって意味を……届けてあげる。ファイが諦めても、わたしは絶対に諦めない!!」


「ルナ……ネア……」


「だから……お願い」


 頬を包む手に、ギュッと力が入る。


「つらい時。過去の罪に押し潰されそうになった時。……思い出して。一人じゃないってこと」


「……ルナ、ネア……」


「一人で背負おうとしないで。わたしがいることを……忘れないで!!」


 溢れ落ちる涙を拭おうともせず、ルナネアは喉を震わせて叫ぶ。


「死んだって、罪は消えない。楽になるのはファイだけで……残されたわたしは、また一人で絶望するだけ!そんなの、許さない!!」


 その言葉がまた、「死んでラクになりたい」という薄汚い免罪符を、容赦なく砕き割る。


「死んだ人に報いることなんて、きっと誰にもできない。……でも!生きることでなら、皆の死を、無駄にしないことならできる!!」


「生きることで……罪を、償う……?」


「そう!!」


 ルナネアは力強くうなずき、涙で濡れた顔で、どこまでも愚直で一途な瞳を俺に向けた。


「罪を抱えたまま、苦しくても……一緒に生きる。生きて、抗って、未来へ進む。……それが、命を繋いでくれた人たちへの、命を失くした人たちへの、唯一の答えだから!!」


 耳元で響く、熱い訴え。


 一人で抱え込んで勝手に完結しようとしていた俺の胸に、ルナネアの温もりと覚悟がどこまでも深く染み込んでいく。


 ルナネアは、俺を逃がしてなんてくれない。


 地獄に引きずり落とされても、髪を振り乱して涙を流しながら、俺の胸ぐらを掴んで「ここにいろ」と叫んでくれる。


 それが、どれほど力強くて、痛くて、愛おしいことか。


 その熱が、俺の醜い言い訳をひとつ残らず焼き尽くしていく。


 ……そうだ。


 俺は、誰も理解してくれないとか、誰も助けてくれないなんて被害者ぶって、勝手に閉じこもっていただけだった。


 本当はいたんだ。

 向き合おうとしてくれた仲間が。言葉を交わそうと手を伸ばしてくれたやつらが、最初からいたはずだったんだ。


 リシェラも、ゼクフィスも。そして、いま俺の目の前でボロボロになって叫んでいるルナネアも。


 あいつらを突き放して、勝手に一人だと決めつけて、向き合う恐怖から逃げていたのは……他でもない、俺自身じゃないか。

 会話を捨てたのは、仲間を捨てたのは、俺の方だったんだ。


 自分の弱さが嫌で、全てを失うのが怖くて、勝手に壁を作って閉じこもって……挙げ句に、悲劇の主人公を気取って死のうとしていた。

 

 ――反吐が出るほどダサい。どこまで自分本位なんだ、俺は。


 だけど、そんな最低な壁を、ルナネアは強引にぶち破ってくれた。

 向き合うことを諦めないでいてくれた。


「……は」


 喉の奥から、情けない声が漏れる。

 視界が急激に歪んだ。

 右眼から、左目から、温かいものがボロボロと溢れ出して泥に落ちる。


 もう、かっこつけるのも、被害者ぶるのもやめだ。


「……ルナネア」


「……うん」


「俺……最低だった」


 掠れた声で、でも今度は逃げずにルナネアの綺麗な目を見つめ返した。


「……ごめん。本当に、ごめん……」


 泥だらけの手で、ルナネアの手をギュッと握り返す。


「もう……逃げない。一人で背負った気になって死ぬなんて……そんなずるいこと、絶対にしない」


 心の中の不快な冷たさが、完全に消え去っていた。


 罪が消えたわけじゃない。過去の失態も、死んだやつらへの責任も全部残ったままだ。

 だけど、もう泥の中に閉じこもって耳を塞ぐ気なんて微塵もなかった。


「お前と一緒に生きる。罪も後悔も全部抱えて……お前と一緒に、生き残ってやる!!」

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