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ロスト・リビルダー ―忘却の罪―  作者: げこきち
一章 要塞都市の怪物
22/26

疾き風雷(かざなり)

 ――同刻、北塔


「そうか、疾く、死ね」


 その言葉を置き捨てた瞬間、ゼクフィスの姿は風に溶けるように消えた。一瞬で終わらせる、そのはずだった。

 だが、ボジュラ・サマージュルは、ただの衛兵ではなかった。


「速い…」


 ボジュラが呟く。


 ――キィンッ!


 空気が切られる音。ゼクフィスの一閃がボジュラの喉元を捉える。

 しかし、本来なら肉ごと断ち切るはずの刃が、ボジュラの手にある二振りの剣により、火花を散らして防がれる。


「クソが」


「これでも自分は隊長格ですからね」


 ボジュラが双剣を振る。

 ゼクフィスは当たり前のようにそれを躱すが後から来た強大な衝撃波がゼクフィスを襲う。


付与魔呪綴アタッチスペル――『双風そうふう波動はどう』」


「二段階攻撃だぁ?」


 ゼクフィスが面倒臭そうに眉を寄せる。

 ボジュラはゼクフィスが後ろに退いた瞬間を狙い踏み込む。


「逃がしはしない」


 ボジュラの両手に握られた双剣が、太陽の光を照り返し、凶悪なまでの綴力グラフィーを帯びて唸る。

 対するゼクフィスは、分析をしながら、ボジュラの虚をつくために、足を動かす。


「気持ち悪ぃ技使いやがって…」


 ゼクフィスが呟く。直後、ボジュラの双剣が空気を爆ぜさせる。


付与魔呪綴アタッチスペル――『双風そうふう波動はどう』ッ!!」


 正面から迫る剣と巨大な透明の衝撃波。

 ゼクフィスはそれを、あえて躱さなかった。

 剣に綴力グラフィーを纏わせ、真正面から受け止める。


 ――ガァァンッ!


 鼓膜を突き刺すような金属音と共に、ゼクフィスの身体が後方へ吹っ飛んだ。


「やっぱ、キツイか」


 ゼクフィスは眉を寄せ、剣を握る右手の痺れを小さく振って確認する。ただの力だけじゃない。ボジュラの真に厄介な点、それは―


「あのクソみたいな衝撃波…」


 そう、正面から戦えば確実に勝てないであろう理由、それはボジュラの『付与魔呪綴アタッチスペル』である。二本の剣からそれぞれ衝撃波が放たれるので、実質四段攻撃なのだ。


「単純な正面勝負だけなら、スムライバより強いんですよ自分」


 ボジュラが自身の髪を整えながら語る。


「知らねぇよ、そんな―」


 ゼクフィスが話し終えるよりも早く、ボジュラが再び体を揺らして踏み込み、双剣を振る。

 ゼクフィスはそれを見て、即座に思考を切り替えた。


「正面からはやんねぇよ」


 ゼクフィスが一瞬消えたかと思うと、その姿はすでに通りの道から消えていた。

 ボジュラが放った二撃目の衝撃波が虚しく地面を粉砕する中、ゼクフィスは音もなく、家々の屋根の上へと跳躍していた。


 勾配の急な瓦の上を、ゼクフィスは重力を無視するかのように滑り抜けていく。

 太陽の光を照り返す長い緑髪は、風を切ってもなお乱れることはない。


「逃げるのか」


 ボジュラが呟き、地面を叩いて屋根の上へと追いかけてきた。

 重い鎧の装備に見合わぬ瞬発力で屋根に飛び乗るが、着地の衝撃で瓦がひび割れ、砕けた破片が下に舞い落ちる。


 ボジュラは屋根の上でバランスを取るのに苦労しており、自慢の双剣を支えにして立っている。


「無理して来なくていいんだぞ」


 ゼクフィスが挑発的に言う。


「逃がすわけにはいかないので」


「…そうか」


 短く応じると、今度はゼクフィスが瓦を割りながら踏み込む。

 不安定な足場でなおもバランスを取ろうとするボジュラに対し、ゼクフィスは一切の容赦なく間合いを詰めた。


「全く…鬱陶しいですね」


 ボジュラが苛立ちを露わにし、双剣を力任せに振る。


付与魔呪綴アタッチスペル――『双風そうふう波動はどう』ッ!!」


 屋根を粉砕するほどの不可視の衝撃波が、ゼクフィスの正面全方位を埋め尽くした。


 直線の屋根の上、ゼクフィスに衝撃波を躱す術はない。そのままなす術なく吹き飛ばされ―


 衝撃波が消えた正面、ゼクフィスの姿がなかった。


 ボジュラが放った衝撃波は、ゼクフィスが一瞬前までいた空間を虚しく通り抜けた。


「なっ…どこへ!」


 ボジュラが周囲を警戒し、どこから襲撃が来るか、その身体を震わせて必死に視線を巡らせる。

 自分を翻弄しようとする男を捉えようと、全神経を研ぎ澄ませた。


 だが――

 ゼクフィスはすでに屋根の上にはいなかった。


 ――ゼクフィスは、隣接する建物の壁面に、垂直に張り付くように着地していた。


「そこですかッ!」


 ボジュラが気づいた時には、すでに遅い。

 壁を蹴ったゼクフィスが、反動を利用して、斜め上方の空へと疾風のごとき速度でその身を躍らせる。


付与魔呪綴アタッチスペル――『ふうせつらい 風迅ふうじん』!」


 一拍。

 斜め下からボジュラを射抜くような、鋭利な疾風が白昼の街並みを塗りつぶした。

 

 ――ザヒュウゥウゥゥゥゥゥッ!!


 耳をつんざくような高音が響き渡り、ゼクフィスが斜め上へと突き抜ける。

 凄まじい衝撃と共に、ボジュラが立っていた屋根が瓦礫ごと爆ぜた。


 突き抜ける衝撃。だが、ボジュラは並の騎士ではなかった。


「空中戦に持ち込む気ですかッ!」


 ボジュラは吹き飛ばされながらも、空中で必死に双剣を交差させ、姿勢を制御しようと足掻く。


 しかし、舞い上がる大量の瓦礫と自分自身の位置関係を見て、ボジュラは戦慄した。


「まさか…わざと直線上に誘い込み、自分をこの不安定な瓦礫の真っ只中に引きずり出したのは、自分の機動力を完全に殺すための―」


「罠だ」


 ゼクフィスの狙いは、ボジュラの土俵に見せかけた罠だった。

 気づいた時には、ゼクフィスはすでにボジュラの懐へと潜り込み、竜巻のように高速回転を開始していた。


 キィンッ!キィンッ!キィンッ!!


 回転の遠心力と鋭い刃が合わさり、ゼクフィスの身体そのものが、巨大な刃と化す。

 空中に投げ出され、足場となる瓦礫すらゼクフィスの回転に巻き込まれている今、ボジュラに回避の術はない。


 ギギギギッ! と、火花を散らしながら重鎧に無数の斬撃が浴びせられる。

 ボジュラは絶叫しながら双剣で防ごうとするが、荒れ狂う風の渦がそれを許さない。


「吹っ飛びやがれ」


 回転の極致に達した瞬間、ゼクフィスは全てのエネルギーを上方向へと解放した。

 

 ――ドォォォォォォンッ!!


 強大な質量を伴った巨大な竜巻が吹き上がり、ボジュラの巨体を瓦礫もろとも、空高くへと吹っ飛ばした。

 だが、ボジュラは諦めない。足場の不安定な姿勢から双剣を構え、自慢の衝撃波でゼクフィスが近づくの防ごうとする。そして双剣を振る。


「ッ!」


 自慢の衝撃波を前方へと集中させ、空気を押し潰すような不可視の壁を撃ち放った。


「一芸しか出来ねぇのかよぉ!!」


 迫り来る衝撃波に対し、ゼクフィスは相手を煽りながらも冷静だった。

 ゼクフィスは上昇気流に舞う、屋根の残骸へと足をかける。


付与魔呪綴アタッチスペル――『ふうせつらい 雷刃らいじん』!!」


 ドッ、と空中で衝撃音が響く。

 ゼクフィスは空中を舞う小さな残骸を足場にすると、その勢いで衝撃波の射線から外れるように斜め横へと跳んだ。


 ボジュラの放った衝撃波は、ゼクフィスが先ほどまでいた空間と、ゼクフィスが蹴った残骸を粉々に粉砕して通り過ぎていく。


「なんですか!その軌道は!」


 驚愕に目を見開くボジュラ。

 だが、ゼクフィスの移動はそれだけでは終わらない。


 さらに、ゼクフィスは雷刃らいじんによる爆発的な加速を維持したまま、周囲に浮遊する大小の残骸を次々と踏み台にしていく。


 トッ、トトッ、と、まるで平地を駆けるような軽やかさで、稲妻が空中を迸る。

 ボジュラの視界から、ゼクフィスの姿が完全に消失した。


「遅ぇよ」


 声は、ボジュラの真後ろから聞こえた。

 空中の残骸を最短距離で渡り継ぎ、ボジュラが姿勢を立て直すよりも早くその背後へと回り込んでいたのだ。


 一閃。

 巨大な雷の力を帯びた一振りが、ボジュラの背後、鎧の継ぎ目が露出した無防備な首筋を正確に切り裂いた。


「ああぁぁッ!!」


 ボジュラの口から、断末魔の叫びが漏れる。

 雷光を纏った刃は、ボジュラのプライドごと、その身体を深く深く断ち切った。

 舞い散る血の結晶と、砕け散った重鎧の破片。


 ボジュラは自分がなぜ斬られたのかを理解する間もなく、そのまま力なく、地面へと真っ逆さまに落ちていった。

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