第九話 洗車後の一服と次なる探求
最高の艶を纏った愛車をガレージに収めると、彼は洗車道具の片付けに取り掛かった。
使い終わったタオル、ミット、ウォッシュパッドを一つ一つ丁寧に広げ、洗浄していく。バケツの汚水を流し、グリッドガードの隙間を洗い、すべてを所定の位置に戻していく。この道具の洗浄と片付けは、洗車のどの工程よりも作業感が出てしまう。正直に言ってしんどい工程だ。しかし、「これあってこその洗車だ」と、彼は手を抜かず、黙々とすべての工程を完了させた。
ガレージ内を片付け終わり、清々しい静けさが戻ると、彼は使用済みのクロスやタオルと共にガレージを後にした。
彼がリビングへと向かった時刻は昼前。
彼は一日の最も重要な儀式を終え、ソファに腰を下ろす前に、一杯用のドリップコーヒーのセットをテーブルの上に置く。細く、ゆっくりと熱湯を注ぎ、立ち上る湯気とともに、コーヒーの豊かな香りが広がる。この静かな苦味こそが、彼の洗車後の至福の瞬間だった。
温かいコーヒーを一口飲み、洗車の余韻に浸りながらソファでくつろぐ。今日、彼のいつものルーティーンである洗車によって、以前施した天然ワックスの艶は本来の輝きを取り戻した。その美しい艶、撥水性、そして耐久性に彼は十分に満足していた。
至福のひと時を満喫したところで、ちょうど昼食に良い時間になった。彼は空になったコーヒーカップを片付け、栄養バランスの取れたワンプレートの冷凍食品の弁当を取り出し、手早く食事を済ませる。洗車に集中するために、手間のかかる自炊は滅多にしない。この現代の利便性に、彼は素直に感謝していた。
(しかし、もっと何かできるはずだ。)
彼は現状に満足しつつも、『最高の状態』への飽くなき好奇心が、次の行動を促していた。
彼はポケットからスマートフォンを取り出し、画面をタップした。洗車がコアなブームとなったことで、海外のハイエンド製品も今では国内のECサイトで気軽に購入できるようになっている。彼は、その恩恵に感謝しつつ、日頃から愛用している天然ワックスメーカーの日本公式サイトを開いた。
そのメーカーは、創業90年を超える老舗であり、多くの洗車愛好家にとって憧れのブランドである。しかし、取り扱う製品は高額なものが多く、彼のように日常的に愛用する者は少ない。SNSで検索をしても、自分の出した投稿以外には日本のユーザーがごく少数と公式アカウント、海外のユーザーの投稿が月に数件ある程度だ。
最高の艶を求めるため、彼はネットでそのメーカーのハイエンドな天然ワックスの候補を幾つか絞り込み始めた。
それは、彼の『最高の状態』への次なるステップとなるだろう。




