第二十六話 寄り道 艶特化との再会
新しい年が明け、彼はようやくまとまった休みを手に入れた。
ガレージの整理棚には、先日の北欧ワックスの隣に、もう一つの缶が並んでいる。
彼のコレクションの中でも、特に「艶」に特化して愛用してきた、別メーカーの固形ワックスだ。
今回の北欧ワックスとの出会いによって、彼は自分の持つワックスたちが、「新しい基準点」に対してどのような価値を持つのか、試さずにはいられなくなっていた。
それらを比較し、検証することこそ、北欧ワックスという新しい哲学を理解するための道だと、直感していた。
「よし、まずは君からだ」
彼は黒いワックス缶を手に取る。
缶の蓋を開けると、ガレージにフレッシュで甘いフルーツのような香りが広がった。
北欧ワックスの優雅なアロマとはまったく異なる、陽気で開放的な香りだ。
缶の中のワックスは明るいオレンジ色に輝き、手に取るだけで元気をもらえそうな雰囲気がある。
彼は年明けの儀式として、まず愛車のルーティン洗車を済ませた。
北欧ワックスと同様に、ボンネットのワックス層のみをリセットし、艶特化ワックスを施工する準備を整える。
これで、ボンネットは艶特化ワックス、実験的に施工したフェンダーは北欧ワックス、その他のボディ全体は高耐久ワックスという、三種の光沢を同時に比較できる状態となった。
専用のアプリケーターにワックスを取り、ボンネットに塗り込み始める。
柔らかいワックスは伸びやすく、量を調整しながら塗ることで、施工は非常にスムーズだった。
塗り広げる時の抵抗感のなさも、この製品の魅力の一つである。
乾燥を待つ間、彼は仕上がりを想像する。
この艶特化ワックスは、撥水や耐久性を追求したタイプではない。
その代わり、圧倒的な「魅せる艶」を主目的としている。
所定の乾燥時間を置いた後、彼はマイクロファイバークロスで軽く拭き上げた。
曇りが消えたその下には、強烈な艶が現れた。
拭き取りはストレスなく、クロスは滑るようにボディの上を動いていく。
仕上がりが見やすいようにガレージの照明を調節すると、そこにはまるで飴細工のように、塗装面を透明なベールで包み込む、クリアで柔らかい艶が生まれていた。
彼は改めてその仕上がりを見つめ、柔らかな質感を堪能する。
「流石は艶特化」
施工性の良さ。
質感。
簡易コーティング剤によるメンテナンス性。
すべてにおいて高いレベルでまとまっているこのワックスに、彼は満足していた。
彼がそれぞれ感じた違いは、確かにあった。
飴細工のように光を強く反射する艶特化ワックス。
凪いだ湖面のように、光を一度受け止め、奥行きを感じさせる北欧ワックス。
それぞれに個性があり、どちらも素晴らしい仕上がりを見せてくれる。
しかし、なぜか彼は、この艶特化ワックスを日常的に使わなくなっていた。
ボンネット以外のボディ全体には高耐久ワックスが塗られ、彼はその間、他のワックスを使うことはなかった。
この「使わなくなった理由」への疑問は、他のワックスを試していくことで見えてくるかもしれない。
そう彼は思った。
しかし今はまだ、その答えを探すよりも、仕上がった艶を堪能することに集中した。
三種のワックスで仕上げられた車体の光は、それぞれ異なる表情を放っている。
彼は静かに微笑んだ。
「さて、この艶をしばらく楽しんだら、次は撥水特化を試そうか」
尽きることのない好奇心が、彼の中でまた静かに膨らんでいった。




