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第十二話 間話 雨の日の渇望,途切れた日常
外は、季節外れの大雨が降り続いていた。
昨日も、その前の休みも雨。
平日も含め、もう一週間近く、彼の住む地域は太陽を見ていない。
彼の愛車は、ガレージの中で大人しく休息を強いられている。
洗車ができない日が続くと、彼の日常は歯車が一つ欠けたような、妙な静けさに包まれる。
どこかに出かける気分にもなれず、彼はソファの上で、特に目的もなくスマートフォンをスクロールしたり、天井を眺めたりして、一日を自堕落に過ごしていた。
ふと意識が、ガレージのある方向へ向く。
(一瞬、愛車の艶やかなボディが、光を浴びたように見えた気がした。)
すぐに、単なる気のせいだと気づく。
しかし、雨音が響く中、その幻視にも近い感覚が、彼の心に洗車への強い渇望を生んでいた。
雨粒はまだしっかりと滑り落ちているはずだ。
だが、その輝きは、彼の『最高の状態』の記憶と比べると、確実に湿っているに違いない。
彼は、洗車という行為が自分の生活で占める大きさと、それが中断されることの僅かな物足りなさを感じていた。
そして、最高の状態に戻る愛車の姿を、ただ静かに心に描いていた。




