46.透明な正義心
審問会②
「僕は最初から反対だったんだ。新しい魔導具を開発したいなら自領でやればいい。成功すれば独占するも良し、礼儀を尽くす者にだけ与えるでも良し。やりようはいくらでもあった。それなのに学院戦なんかのために公にして研究を進めるなんて、信じられないよ」
「お兄様に反対された記憶はございませんが? そこまで仰るならばお父様にお願いして領地の秘匿事項となされば良かったではありませんか。これでは結果だけ見て文句を仰っているように思えます」
——あれ、なんか始まったな……?
生徒たちはそう思いながら兄妹喧嘩らしきものを見ていた。これは審問後の反省会でも無いし、なんならここからが本題というところ。当事者であるはずのアルバラとアリシアは被害者みたいな顔をしているし、審問官であるカルロスはめっきり存在感を無くしている。
壇上には王子がふたりとそれに次ぐ要人が座っていて、鏡の向こうにも民を統べる者たちが揃っていた。
——今のそういう流れだった?
と思っているのは生徒だけではない。全員が何の話をしているのか分からずに置いてけぼりを食らっている。
「べ、ベリアルド!」
このなかでまだ耐性のあるアルフォンスが兄妹まとめて呼びつけると、ふたりは揃って首をそちらに向けた。
「おっと失礼。まあご覧の通りこのシェリエルの不始末です。僕がきっちり事の次第を明らかにして見せましょう」
「いや、いい。お前は下がれ。もういいんだ、疲れているんだろう? なあ?」
「でははじめから。シェリエル、お前はガーランドでの研究に万全を期していたと言えるかい?」
アルフォンスの必死の訴えは普通に無視された。
彼は「こういうの久しぶりだな」とか思いながら微妙に本題に戻ったらしいディディエの排除を諦めた。もうこうなったら何を言っても無駄だと知っているからだ。いつだって自分は尊重されないし、彼が「殿下、殿下」とわざとらしく媚び諂うときは揶揄う時くらい。まあそれも仕方ないのかもしれない。今夜も王太子という立場上、真っ先に部屋から出る事を禁じられて、たまに思い出したかのように補佐官に情報が回ってくるだけだった。ここのところ少しは評価され、仲間に入れてもらえたような気がしていたのに。いや、仲間に入れて貰うという考えはおかしい。自分は王太子で彼らを従える立場だ。でもやっぱり今日も仲間外れにされたみたいだし、頼って貰えなくて寂しかったし、役に立ってない自覚はある。やっと直前にシェリエルから「審問があるので立ち会ってください」と言われて、正直「待ってました!」と言いそうになりながらギリギリまで衣装も悩み抜いて拘ったのに、この壇上での唯一の発言はくだらない兄妹喧嘩の仲裁で、しかも今無視された。やはり役立たずなのだ俺は。それで祭司マティアが嘔吐寸前みたいに顔色を白くしているのを見て「あいつは良いやつそうだな」と思うくらいしか慰めにならないほど傷付いている。隣では兄が艶の黒髪を揺らして大ウケしているし(さっきからずっと顔を少し傾けて肩を揺らしながら静かに笑っている)、気が狂っているのかと思ったがこの人は最初からこういう人だったやはりこの世に信じられる人間なんて居ないのかやってられるかチクショウ。
とかなんとかアルフォンスが心の中だけでぶつくさ言っていた間、ディディエは意外にもそれらしくシェリエルを尋問していた。
ガーランドの管理体制を問えば、袖から出てきたモーゼスが壇上で立ち尽くすカルロスに厚紙で挟まれたファイルを渡し、それをチャールズたちにも配っていく。
鏡の向こうでも紙を捲っているので、同じものが転送されたのだろう。
「ガーランドに集めた患者は病ごとに隔離し、無闇に病を広げないよう対応しております。こまめに手洗いうがい、消毒や着替えを徹底し、治療にあたる者は日に数回検査して感染の有無を確認しておりました。白衣を揃えることで部外者との識別を可視化し、病人や検査を受けに来た民は一目で分かるようになっています」
「それで数日は問題無かったと?」
「はい」
「でも部外者の侵入を許した」
「侵入したのは貴族の御令嬢でした。平民である看護師に彼女を止める権限はなく、また、御令嬢が研究室の一員であると思わせるような発言をしたため手伝いの申し出を断ることが出来なかったのです。しかし、その後すぐに報告があれば早期に対処できたでしょう。三日ほど部外者の存在に気付けずにいたことは、医療班の責任者を城に配置したわたくしの責任であると思っています」
生徒たちは「あ、これマリア・バルカンのことだ」とピンと来て、忘れかけていた怒りを思い出す。
端の方で固まっている下級生たちがギュッと目を瞑って俯いていた。少し数を減らしたマリアの信仰者たちだ。
マリアの噂を聞いて一番心を痛めていたのは彼女たちだろう。「きっと間違いよ」とか「なにか誤解があるんだわ、マリアって抜けてるところあるから」とか、慰め合いながら固まっていたが、ディディエが次の話題に移ると途端に肩の力を抜いた。
「医療班の長は神殿で指揮を取る予定だっただろう? わざわざ城に移した理由は?」
「病の特性を調べることと、これまで治療が困難だった病の治療法を研究するためです。治療に猶予が無く、後日という訳には行きませんでした。幸い、すでに皆様にお知らせ出来たように、そのふたつは成功しております」
「ふむ、一定の成果が出せたわけだ。でも慣れない遠征で長が不在とあれば不測の事態は予想できたよね? なぜ代理の長を立てなかった?」
「通信での連絡や馬の行き来もありましたし、元は小隊として数名で僻地に遠征しているのです。治療に影響は無いと判断しました」
みんなディディエのことが好きだったが、ここまでネチネチやるところを見ると少しだけ嫌な気持ちになる。
それでもシェリエルが言い淀む事なく滑らかに答えるので、ドキドキしながら聞き応えのあるふたりの攻防を観戦していた。
「シェリエルは治療の成果を最優先したわけだね。授業後や休日にそれらの研究を行うことは出来なかったのかな。そうすれば教師に責任が及ぶこともなく、例の御令嬢も授業の関係者を騙ることはなかった」
「先ほど申しました通り、学院戦まで日がありません。何よりガーランドは病の種類が多く、重篤化した患者も多く見られたので、平日に纏まった時間を取って事にあたる必要があったのです。そして、ガーランドへ干渉するには元老院の承認も必要でした。ガーランドはいま領主が不在ですので」
「なるほどなるほど。たしかに個人の趣味の研究では元老院の許可は降りないだろうね。ということは、すべて元老院の許可を得ての事だったと……?」
会話が途切れた時、元老院の面々はドッ、と大きく心臓を鳴らして汗を吹き出した。
いや、おかしいだろう。ここに来て元老院に責任転嫁する気か、と。
「承認を得るということはその責任を上に譲渡もしくは分散するということです。神殿での報告不足や看護師の不手際はすべてわたくしの責任でありますし、わたくしの提案により損害が出ればアルバラ先生にもその責を負って貰わなければなりません。けれど幸い、今回はすべて元老院の許可をいただいておりますので」
「誰かの許可を取るって面倒だけど、こういう時に役に立つんだ。みんなよく覚えておくように」
ディディエは急に教師の顔になって講堂に集まる生徒たちに語りかけた。それからパッと壇上の大鏡に向き直し「ま、だからこそ現場での責任の所在を明確にしたいんですよね? 大丈夫ですよ、その辺は理解していますから」と友好的な笑みを向ける。
誰かがゴクリと唾を飲み込んだ。
シェリエルがこの学院を舞台に選んだのは教育だの生徒の権利だの崇高な理由では無い。会議室の中だけならば宰相や元老院だけで決を取れたが、王国全土の貴族子女が集まるこの場では全員が納得する沙汰でなければ後で反乱が起きかねない。
現に今、学生や領主たちはシェリエルに同情し応援するような眼差しを向けている。
これは良くないとカルロスに視線が集まるが、カルロスはグッと唇をしまい込んで微動だにしなかった。
下手なことを言えば、自分に矛先が向く可能性があると分かっているのだろう。
「治療の研究をしたこと、ガーランドで病人を集めたこと、それを授業で扱ったこと、それらが必要なことだったと証明できるかい?」
「はい。ガーランドの現状についてまとめたものです。患者数、病種、併発の組み合わせ、治療法、回復した患者数とその経過、そして薬のレシピも含むそれぞれの治療法です」
またもトコトコとモーゼスが壇上を歩き回り、別のファイルを配っていく。都度報告を受けていた元老院もすべての情報が一覧された資料に目を剥いた。
各項目で数字の移り変わりが分かりやすく整理され、重要なところは図になっていて直感的に理解できる。
そこには自然治癒に任せた場合の仮の数字も並んでいて、シェリエルの治療がどれだけの人を救ったのかがハッキリと示されている。
これだけの報告であればどんなに歓喜したことか。
プロキオンにより簡単に説明を受けた生徒たちは「なんてこと!」「それほどの研究だったのですか!」と素直に歓声をあげ喜んだ。
「まあシェリエルならこのくらいは当然だね。じゃあ今回、病を貴族街に持ち込んだことによる影響予測は出ているかな?」
「はい、資料の五枚目をご覧ください」
資料を受け取った者たちが該当箇所を探す間、プロキオンは数字を抜粋し「十日で約二割。ひと月で約半数と予測されています」と説明する。しかし彼はあえてある注釈を伝えなかった。
「十日……?」
「いや、こんな…… いくら最厄期と言ってもこれは早過ぎる」
「ここ最近、王都の社交は活発になっています。また、病の仕組みが知れ渡ることで恐怖心を煽ることにもなりましょう。中途半端な知識は良くない想像を掻き立て、あっという間に広がりますから」
「貴族が半数に減ったあと、平民の数も急激に減るのは……」
「その頃には貴族も自分たちを守るため平民への支援を止めざるを得なくなるからです。治癒にあたる神官も減り、最終的には記録にあるように人口を大きく減らすことになるかと」
最初の感染者からここまで、感染拡大は抑えられている。が、最終的にはこれまでと同じくらいの数字に追い付くだろうというのがシェリエルたちの予測だ。
すなわち、「一度でも拡散を許すとすべてが無駄になる」そう言っているのである。
これには鏡の向こうからも疑問や野次が飛んでくる。
「ではなぜ君は治療の研究を?」
「これはアルバラ研究室が手を引いた場合の予想です。我々の信用が失われた今、新たな治療法も採用されずに従来通りの対応になるでしょうから」
「そんなもの脅迫ではないか!」
「出来もしないことで予測を立てても仕方がないかと思いまして」
「なんとふてぶてしい」
「おい、ベリアルドの姿がないぞ、セルジオ様はどうした」
ギャンギャンとうるさい鏡を制すように、宰相チャールズがスッと手をあげた。
「これはあなた方が“手を引いた場合”の数字と言いました。ということは、貴女ならこの惨事を回避できると?」
「はい、少なくともこれほど短期間で王都が機能しなくなる事態は避けられるでしょう」
「説明を」
「資料六枚目をご覧ください。今夜学院での感染者数と病状、経過予測です。ガーランドの報告と並べていただければ分かりやすいでしょうか。そして、学院を完全封鎖するまでの報告書となっています。これは学院という統制の取りやすい環境下であるからこそ出来た事ですが、これに近いことを王国全体で実現できれば、ここから最厄期の終わりまで…… 最後の資料にある数字まで下げることが可能です。治療法も一任していただくことになりますが」
ペラペラと紙の音が重なって、息を飲み込んだ音が続いた。
「まさか……」
「これは楽観的過ぎるだろう」
「不可能ではありません。大変な資金と労力が必要ですが、各領地が協力すれば王国全体の死者数も抑えられます」
シェリエルは言い切った。
その数は記録にある死者数の一割を切る。
すなわち、「ほとんど最厄期による死者を出さない」という強気なものだ。
数だけ見れば少なくない被害だが、最厄期でなくとも疫病は発生するし、疫病がなくても人は死ぬ。そういう意味ではほぼ通常時に近い死者数と言えるだろう。
しばらく場を静観していたディディエがここで賢者アウグストに意見を仰ぐ。
「アウグスト様いかがでしょう」
「我々賢者の塔もこの予測に異論はない。此度の発見はそれほどのものなのだ。我らはこれ以上の対策を講じることはできない。故に、この施策が潰えれば従来通りの被害が出ると考えて良いだろう」
賢者が言うならば反論の余地はない。
もちろん、これらの情報を集め纏めさせたのはディディエである。事前に賢者の塔に確認してもらっているし、これらすべて“仕込み”であった。
なので、それを知るアルバラとアリシアは罪悪感でヒヤヒヤと汗をかいて罪人みたいな暗い顔をしているのである。
「ふむふむ。ではシェリエルのやったことに問題はなかった訳だ。しっかり利益になっている。どうだろう、誰か異議のある者は?」
「……」
誰も反論できるわけがない。当然のごとく講堂内は沈黙によって同意の意を示す。
「ではシェリエルに過失があったか。後になって“あの時ああしていれば”と言うのは簡単だけど…… 誰か意見は?」
「……」
これも沈黙。
かと思われたが、退屈したらしいユリウスが軽く手を挙げる。チャールズが発言を促す視線を送ると、ユリウスは微笑を浮かべてこう言った。
「素人質問で恐縮だが——」
「素人は黙ってろ」
「……」
やはりこの場には沈黙がふさわしい。
ユリウスに期待した大人たちは少し眉を下げただけだった。
この場でなくとも人を批判することは難しい。相手に余程の過失が無い限り、専門家への批判は大抵が自分の無知から来るものなのだ。
だから政治屋は正義ではなく利害で判断するし、利己的な本音を隠すために正義を用いるのである。
と、まあ、こうしてディディエの煽りによって完全に言論は封じられてしまった。賢い者はこの場で失態を晒すわけにはいかないので絶対に口を開かない。
「皆様ッ! 騙されてはいけませんわ!」
甲高い少女の声がひとつ、ホールの前列から響く。
なんと、ここには賢くない者——学院の生徒が幾千と集まっているのだ。となれば、「どうして黙っているのよ!」とヤキモキして声をあげる生徒がいてもおかしくない。
いや、彼女はまだ賢い方だった。多くは素直に「なるほど〜」とディディエの話を真に受けているのだから。
「君は、マデリン君だね。そこからでいい、拡声は使えるね?」
「ッ、これは逆誘導尋問です! ベリアルドが手を組んで責任を有耶無耶にしようとしているのではありませんか!」
その通りである。
しかし、正義だけで飯は食えないと良く分かっている元老院や領主は口を閉じ、生徒たちは「何言ってるんだ!」と野次を飛ばす。
ディディエはその喧騒を全身に浴びて満足そうに目を閉じた。
「ではシェリエルの罪は一体なんだろう」
「そ、それは…… その。ッそうです! 功績を欲張り、無理に研究をッ」
「はい。功績を欲したわけではありませんが、強引に推し進めたのは確かです」
「そ、それで、管理が杜撰になっていたのでしょう! その責任は取るべきです!」
「はい、もちろん責任は取るつもりです」
「待ちたまえ! いまシェリエル嬢に抜けられては困る!」
バカな生徒が正義心を出したと焦った大人たちは方々からマデリンに反論する。
しかしマデリンも負けてはいない。
「けれど、皆様方は責任の所在を明らかにするためにこの審問会を開いたのではないのですか! 罪の無い“誰か”にすべてを押しつけて、表面上解決したように取り繕うおつもりでしょうか!」
どこまでも正論であった。
まさにそうするしか無いと思っていたし、誰に責任を取らせようかと悩んでいたところだったので。
「責任って、なぁ……」
「……誰のせいかって言ったら、マリアじゃないのか?」
「そうだよな。バルカンが勝手にやったことだろ?」
「友人が、僕の友人が疫病に…… 僕は有耶無耶に終わらせて欲しくない!」
「マリアはどうしたんだ、審問会なら彼女も呼ぶべきだろう!」
「そうだそうだ!」
どこかで発されたマリアへのヘイトコールは一気に広がってどんどん熱を増していく。
大人たちはこれに目を剥いた。貴族子女がこのような場で好き勝手発言するなど信じられなかったのだ。これもすべてディディエが地道に野次の飛ばし方を教えた成果であり、ディディエの授業を受けたことがない生徒たちも場の空気に流されてそれに倣っている。
なにせ、この夜は緊張続きで不満ははち切れそうなほど溜まっている。
不安を抱えて自室で待機していた時からずっと、「マリアのせいで」と憎く思って、けれどこの審問会では彼女の名前が出ることもなかった。
その代わり、苦労して結果も出したシェリエルばかりが責められ、大人は彼女を褒めることも罰することも出来ずにゴネゴネとやっている。
——こんな夜中に呼び出しておいて何をやっているんだ。
——元老院ならちゃんとしろ。
——悪いのはマリアなのに。
——裁きを受けるべきはアイツなのに。
しばらく心地よさそうに喧騒に耳を傾けていたディディエがパチ、と目を開くと。
「では、事の発端であるマリア・バルカンの尋問に移ろう」
と言った。
生徒たちは大講堂を揺らすほど歓声をあげ、ある者はいつかの命の日を思い出す。王宮前の広場であったあの熱狂を思わせる昂ぶりであったのだ。
「お兄様、“尋問”って言っちゃってますけど」
「あ、ごめん。つい」
拡声を使わない小声の会話は誰にも聞こえていないのか、ドンドンと床を踏み鳴らす音だけが響いている。
カルロスは完全に役目を奪われて「え?」と呆けたまま突っ立っている。
……たしかにその娘からも話を聞くべきだとは思っていたが。いまこの流れでか?
と、相変わらず展開に付いて行けていない。
そこに、予定されていたかのように舞台袖からマリアが姿を現した。
泣き腫らした赤い目元で、しわしわのドレスで髪もボサボサにして、病人のようにやつれて見える。
マリアと仲の良かった女の子たちは悲鳴をあげてギュッと胸の前で祈るように手を握る。
「マリア・バルカン。彼女がガーランドから病を持ち込んだ生徒です」
「……彼女は未成年だろう?」
「シェリエルとアリシアも未成年ですが?」
「それは……」
「アハハッ、まさか元老院ともあろう御方が少女の哀れな姿に同情したのですか? 中位の娘なんか普段視界にも入れていないのに? シェリエルから功績を取り上げその責を被せようとしたのに?」
「いや、そんなことは。ただ、害意を、と」
「やるならとことんやりましょうよ。誰が悪いのかハッキリさせたいんでしょう? 大人も子どもも、男も女も、ベリアルドの呪いも関係ない。すべてを詳らかにしてこそ、次に繋がるのです」
「しかし彼女は病を…… 感染の危険が!」
「ご安心を、結界を張って外には漏れないようにしていますから」
この間も講堂内は歓声とも怒号とも言えない叫びで埋め尽くされている。厳粛な審問会など幻想であった。ここは貴族学院であり、すでにこの舞台はディディエによって劇場へと変えられている。
誰がどんな同情心を持とうとも、この流れは変えられない。
同情を知らないベリアルドがマリアを舞台に上げたのだから。
それも、無垢で透き通った生徒の正義心を利用して。





