30.それぞれのお茶会
「まあまあまあ!」
「これが噂の……ッ!」
王都の貴婦人たちは甲高い声を方々であげる。
はじめてのカフェに、初めての菓子。
斜に構えてアラを探すよりも素直に興奮するのが正解だと皆分かっているのだ。
めいめい好きなテーブルに座り、それぞれに指導員よろしくベリアルドの貴婦人がついていた。だから「この菓子はどうやって食べるのかしら」、「作法が分からないわ」なんて不安に思うこともない。
童心にかえってキャアキャアと喜べば、ベリアルドの貴婦人は嬉しそうに「これはクッキーというもので」とか「ええ、もちろん手で摘んでお召し上がりになってください」とほろほろ目尻を下げるのである。
一方、中央の少し広めのテーブルにはベリアルド一族にグレース親子、アリシアやメヒティルが座ってここだけシェリエルの誕生祝いの席になっていた。
そのなかで顔色を悪くしている少女がひとり……
「あ、アリシア様、わたくしまでご一緒させていただいて……、場違いですよね」
メヒティルはヒソッとアリシアに耳打ちする。彼女は猫を被りながらもオロオロと居心地悪そうにしていた。成人のディアモン生であっても貴婦人のお茶会は特別なのだろう。
「メヒティル様もキースリングではデビューがお済みなのでは?」
「ええ、けれど領内では親同伴のお茶会でしたから。アリシア様はずいぶん慣れていらっしゃるのですね」
「わたくしは、その…… 王宮のお茶会に呼ばれていましたから」
貴族は段階的に少しずつ社交の級を上げて行く。
洗礼で領内。学院で他領の未成年と。成人して正式な社交界にデビューしても、卒業するまでは見習いのようなもの。学院卒業と同時に親と連名ではなく自分宛に招待状が届くようになり、それでやっと一人前なのだ。
それをすっ飛ばして親のオマケではなく自分ひとりで貴婦人とお茶をしているのだから、メヒティルに相当の緊張があっても当然なのである。
そんなメヒティルに、シェリエルはこれも人助け、と悪気無く助け舟を出した。
「メヒティル様、せっかくですから母に診断してもらいます?」
一応、自分が仲介してメヒティルにボディメイクの診断と指導はしたが、ディオールに直接診てもらうのとは精度が違う。
まったくの善意だったが、メヒティルはこれでもかというほど青くなって首を振った。
「しぇ、シェリエル様⁉︎ こんなところでそんな、ディオール様にもご迷惑です!」
「あら、わたくしは構いませんよ。資料だけではやはり不足があるもの。どの程度実物と差があるのか確かめたいわ」
「は、ヒ、いえでも……」
「メヒティル様、メヒティル様。いまのうちに診てもらった方が良いかと。まだ菓子は続きますから」
シェリエルの揶揄うような笑みにメヒティルは「た、たしかに……」と冷や汗を垂らしながら頷く。
さらには、シェリエルが追い討ちをかけるように「サロンが開業してしまえば学院戦で母を捕まえることは難しくなりますよ」と、言うものだから、訓練兵も二度見するくらいの素早い動きで立ち上がり、ビシッと背筋を伸ばして「よろしくお願い致しますッ!」と対戦を申し込んだ。
「んー……」
ディオールは座ったままメヒティルの頭の先から足先まで視線を上下させ、それから立ち上がって別の角度からも観察する。
しばらくすると「右に回って」とか、「今度は左。そのまま向こうに歩いて」とか、「クロワゼ、そのままデリエール」とポージングの指示を出す。
いつものヨーガ服ではないので、ゆっくりとした舞を踊っているようだ。
「しっかり体幹ができていますね。おかしな癖も無いようだし…… あとは肉質だけれど、ちょっと失礼」
ディオールはその場で腕や肩に触れてメヒティルの身体を検分し始める。男性陣はまったく興味がないらしく、「コンラッド卿どうする? そろそろお爺様が戻って来ると思うけど」と、物騒な話を掘り返していた。
「当初の予定通り、祭司マティアに預かって貰うとして…… 後日ハインリを連れて様子を見に行くようにするよ」
「ああ、爵位継承の手続か。あ、フェルミン様はそれで良いですか? 早ければ来週には爵位を継ぐ事になりますが」
「ッ、んッ……」
突然、話の中心に引き込まれてしまったフェルミンは菓子を頬張ったまま「ヒック……」と、小さなしゃっくりを返す。
急に一家離散を告げられ、父は廃人になってどこかへ連れていかれるし、母は泣いていたかと思うと凛々しく貴婦人たちと話しはじめるし、サロンは夢みたいに美しく、目の前には夢でも見たことがないくらいのとんでもない菓子が並んでいる。
もう大人の社交に混ざっているだとか、家門がどうだとかは頭から抜け落ちて、魅惑の糖度に頭をふわふわさせていた。
これに、ディディエはフェルミンを同階位の貴族ではなく、生徒のように思ってゆるゆる笑った。
「ふふ、美味しい?」
「は、はいッ!」
「そ、良かったね。侯爵になって真面目に頑張ってればいつでもこの菓子が食べられるようになるよ」
「頑張りますッ!」
「アハハ、かわいー、これだから未成年って最高」
「お兄様! 適当なことを仰らないでください! ……フェルミン様、このサロンはグレース様とイザベラお姉様のお店なので、どれだけお仕事をサボっても好きなだけ食べられますよ。ご安心くださいね」
「シェリエル、本当のことなら言って良いというわけではないのよ? フェルに変なことを教えないでちょうだい」
「わ、わたしはただ、無理強いは良くないなと思っただけです。爵位を継がなければ菓子が食べられないなんて、脅しではありませんか」
シェリエルはこれを前世の倫理観で言った。
子どもに飴をチラつかせて仕事をさせるのは良くない、という“記憶”だ。
けれど周りはハァ……、と息を吐いて「菓子のために侯爵領を継ぐバカがどこにいるのか」などと呆れ気味に首を振る。
さっき元気よく返事をしたフェルミンは気まずそうにもそもそ菓子を食べていた。
そこに訓練兵モードに入ったメヒティルが「わたくしは菓子が食べられるならば父を蹴落とす所存であります!」と手を上げ、ディオールに無言でそれを降ろされている。
「まあ、本当に継ぐ気がおありならば、アロンに…… アロン、ちょっと良いかしら」
給仕をしていたアロンがシェリエルの斜め後ろにスッと寄る。隣にはモーゼスがピカピカの笑顔でアロンと同じように背筋を伸ばしていた。
フェルミンは慌てて菓子を飲み込み口元を拭く。
「アロン……ゲルニカ伯でいらっしゃいますね」
「彼も未成年で爵位を継ぎましたから、階位は違っても参考になるかと思います」
「よ、よろしいのですか。その、ベリアルドは派閥には無所属であると……」
「ええ、お姉様の弟君ですから、領地の問題ではなく個人的なお話として受け取っていただければと思います」
「私でよければ何なりと」
アロンが軽く腰を曲げて上品に笑うと、フェルミンは目をキラキラさせてたちまちモーゼスになった。
父コンラッドの周りには油分の多いギラギラの大人ばかりだったので、アロンの静けさがとんでもなくカッコイイお兄さんに見えてしまったのだ。
もちろん、それはフェルミンの幻覚などではない。このアロンは黙って立っているだけで良い男なのだから。
均整のとれた微笑みには優しさと穏やかさがあるが、どこか影を感じさせて安易に人を踏み込ませない。己を律する強さと、内に秘めた濃密な闇が、成長と共に色気に変わりはじめている。
くすんだブルーの髪が冬の朝に広がる冷たい鋼空を思わせて。思わずほぅ、と息を吐いて温度を確かめたくなるような、そんな男であった。
そのアロンが懐を開くように笑いかければ、未就学児のフェルミンが頬を赤らめて憧れを抱くのも仕方のないことだろう。
若くてカッコイイお兄さんに階位も領地も関係ない。姉も信頼しているとなれば、懐くのにはこの一瞬で充分だった。
ガタッと立ち上がってアロンとモーゼスに向かい合い、「よろしくお願いします」と声を張る。
「どうぞ、アロンとお呼びください。これは弟のモーゼスです、フェルミン様のひとつ上となりますが、私と同じく中位ですのでモーゼス、と」
「あ、アロン、モーゼス……」
フェルミンは口のなかで確かめるように名を呼んでみる。友人にはなれないのか、と少し寂しく思ったが、仕方のないことだというのもよく理解していた。
母と姉はガーランドから独立し、ベリアルドの後ろ盾を得て事業をはじめたのだ。家門を違えたとはいえ、息子の自分も政略的には重要な位置に置かれている。
が、自分より少し背の低いモーゼスがキラキラの目で「仲良くしてくださいッ!」と笑うので、なんだかどうでも良くなってしまった。
「こちらこそ、仲良くしてくれたら嬉しいです!」
「エヘヘ」
「へへへ」
このピカピカコンビを「うわぁ……」と横目で見ているのは……
悪擦れした成人男児二人と何も考えていないセルジオである。
陽の気にあてられた成人男児はさておき、セルジオもなんとなく眩しく思って薄目になっていた。
その薄目のまま、現領主である自分がまったく必要とされていないことがおかしいな、と思って一応という具合に口を挟んでみる。
「あのぉ…… 僕の助言とかは…… 実は僕も領主やってるんですけど」
「あ。お父様、は…… 助言できることがあるのですか?」
「、? 無いですね」
シェリエルはそうよね、と思った通りの答えに満足し、まだニコニコ交換会をやっているフェルミンに、こちらも一応というくらいで声をかけた。
「父でも領主が出来ているのできっと大丈夫ですよ」
「は、はい!」
「ひどい…… 僕はこれでも頑張っています!」
「そうですか」
「シェリエルが冷たいのですが…… 反抗期でしょうか?」
娘に素気なくされたセルジオはディディエとユリウスに慰めを求めるが、ふたりはいつもの事と相手にもしない。
フェルミンはシェリエルたちの会話を「?」と笑顔で流して、また目の前のお兄さんたちに一生懸命になっていた。良く分からない怖い大人より、カッコよくて優しいお兄さんである。
「アロン、とモーゼスも一緒にお茶を…… いけませんか?」
「私どもは給仕がありますので」
「良いわよ、アロン。シャマルたちも動いてくれているし、フェルミン様とお会いする機会もそうそうないでしょうから」
「そうそう、お前たちあっちで遊んで来な? ほら庭で球蹴りでもしてれば良い」
ディディエがシッシ、とハエを払うように手を振ると、モーゼスはムッと唇を尖らせて「ディディエ様、私はもうそんな子どもではありません……」と抗議する。
「えー、そうなの? じゃあ怖い話でもしようかな〜? こないださぁ、夜ヨハンの研究室に——」
「わ、わわわ! わぁーー!」
「ひゃぁ! わああああ!」
モーゼスは血やオバケなどが怖くて仕方ないのでワーワー言ってディディエの言葉を掻き消し、フェルミンも同じく怖い話が苦手なので、(ヨハンが誰だとか研究室が何だとか分かっていないが)怖がるモーゼスに怖くなってワーワー言う。
目上の者の言葉を遮るのはやってはいけない無礼であったが、ディディエが最悪なので誰も怒りはしなかった。
そうやって騒がしくなったテーブルからカタ、と席を立ったのはイザベラだった。
「じゃあ、フェル、あちらに席を移りましょうか。嫌な顔を見ながらだとせっかくの菓子が不味くなるもの」
「僕を見ながら言ったね? なに、誰のお陰でお前らが——」
「あら、シェリエルとユリウス様、それにアロンやモーゼスが手を尽くしてくれたからですわ。ディディエ様がなさったことと言えば…… 嫌だわ、口にするのも悍ましい」
「はぁあぁ?」
「イザベラ、おやめなさい! ディディエ様が補佐官を貸してくださったからこそ、わたくしはこうして新しい生活を始めることができたのですよ」
一番の当事者でありながら事の半分も知らないグレースは顔を真っ赤にして無礼な娘を窘めた。
しかし、周りは「うーん、たしかに」とイザベラに同調する。
歯をギリギリさせるディディエと満足そうに彼を一瞥するイザベラがフイ、と揃って顔を背けると、もう誰も口を挟むことなく席の移動がはじまった。
「シェリエルさぁ、来年の成人祝いは劇場を貸し切る? それならもうそろそろ手配しないといけないけど」
「普通に観劇に連れて行っていただければ充分です。観客と舞台とで生み出される温度や空気というのも演劇のひとつでしょう?」
「それもそうだね」
兄妹の何気ない会話にアリシアたちは不思議そうに目を丸めた。まだ未成年のシェリエルがなぜそんなことを知っているのか、と。
シェリエルはそんな周囲の引っ掛かりに気付かず、「アリシアはもうすぐ劇場解禁になるのですよね、羨ましいです」と先に成人するアリシアにワクワクとした眼差しを向ける。
「ええ、でもロランスに劇場はないから、王都まで来るか学院が始まるまでお預けね」
「……? 劇場を持つ領地もあるのですか?」
「キースリングには小さな劇場がいくつかありますよ。芸術に明るい領地ですから、画家や楽師も多いのです」
「わぁ、それは初めて聞きました。あ、でも! ジョン様もキースリングですから、やはり芸術に秀でた領地なのでしょうね」
「じぇ、ジョン様? それはもしや、あの物語の作者様です⁉︎」
「あ、……」
失言に気づいたシェリエルは慌てて口を噤んだがもう遅い。
とくにアリシアとメヒティルの食いつきはすごかった。
「自領の方だったのですか! 感激です! 夜会には参加されているのでしょうか」
「キースリングならば保守派ではありませんか! わたくしも夜会に参加できるようになればお会いできるかしら!」
「わ、えと…… それは……」
クロエたちは存在自体を隠して暮らしているので、夜会どころか社交界にも出ていない。このふたりが直接会うことはきっと無いだろう。
どう答えていいか困り果てるシェリエルに母が救いの手を差し伸べた。
「観劇も読書も良いのですけれど、わたくしはやっぱり学院戦が一番の楽しみだわ。そういえば今年は開催できるのかしらね?」
「え?」
学生たちはパッとディオールを見て目をパチパチさせた。
学院戦にやる気を出しているのはシェリエルだけだが、それでも大きなお祭りなのでアリシアとメヒティルも楽しみにしている。
「あら、聞いていないの? いま疫病の関係で中止するかもしれないと噂になっているわよ。ねぇ、ディディエ?」
「あ、ええ…… 母上、まだ決定ではないので……」
「お兄様! どうして言ってくれなかったのですか!」
「ほらぁ…… シェリエル楽しみにしてたから、気を揉ませたくなかったんだよ。また面倒なこと始めそうだし」
「面倒なことを始めるのはお兄様ではありませんか。え、本当に中止になるかもしれないのですか?」
「五分といったところかな。まだ運送業もお清め隊も完璧とは言えないだろ? ガーランドだって町単位で発症が確認されているらしいし。ですよね、グレース様」
「はい…… 幸い、軽い症状で完治できているところがほとんどですけれど、なぜか広まるのが早いのです…… 今までにない病で、民も不安に……」
グレースはさきほど縁を切った領民たちを思ってなのか、苦しそうに眉間に皺を寄せる。
「なるほど。寝込むほどでなければ人が保菌したまま動きますから、それででしょう」
「原因がお分かりに?」
「いえ、詳しくは調べてみないと分かりませんが、理屈的にはそうなるだろうなと。皮膚病などもそういった傾向があるようですから」
グレースは専門家みたいなことを言うシェリエルに目を瞬いて、誰も何も言わないのでそれに倣って突っ込むのは控えた。
「困ったわぁ…… 次の学院戦ではベリアルドの民が国で一番美しいと知らしめるつもりでいたのよ? ねえ、シェリエル。どうにかなさい?」
「は…… はい……?」
「んふふ、よろしくね」
「ありがとうございます……」
シェリエルはン?と思いながらも、反射的にお礼を言っていた。
それが例え全領地にマウントを取りたい母の我儘でも、それは父——領主の了承を意味する。ということは、領地の事業でも人材でも好きに使って良いわけで。
学院戦はシェリエルも楽しみにしていたので、なんだこれ…… と首を傾げながらできる事を考えていた。
「では、せっかくですからガーランドから手を付けますか。ロランスは大丈夫そうですか?」
「聞いておくわ、わたくしまではまだ降りて来ていないの」
「そうですよね…… 各地の情報は元老院から貰いましょうか。賢者様もサロンにお招きする約束をしているので、そのときに相談しましょう」
「シェリエルったらまた国の最重要機関を補佐官みたいに使って……」
「国に協力するのは良いことです。それが巡り巡って学院戦の開催とお母様の喜びにつながるというだけで……」
「うふふ、良い娘を持ったわ。学院って若返る気がするのよね。また美しくなってしまうわね。オホホホホ」
ディオールは娘が何をしようが大した問題でもないというように高笑いを響かせる。
「お母様は学生時代も学院戦を楽しみにしていたのですか?」
「もちろんよ、学院戦はセルジオ様が合法的に輝きを放つ大切な行事じゃない。それはもう素敵だったわ」
「ええ、ええ、そうですとも。毎年ディオールのために頑張りました」
「うふふ、セルジオ様が他領の生徒を蟻のように潰して回る姿を眺めながらいただくお茶が最高に美味だったのですよ……」
うっとりするディオールとセルジオはふたりの世界に入り、それを見ながらグレースは青白い顔で少しだけ指先を震わせていた。
嫌な記憶でもあるのだろうか、とグレースに「学院でもこうだったのですか?」と聞いてみる。
「そ、そうですね…… おふたりはあの頃から仲睦まじくていらして…… 止められる方は誰も……」
「止める……?」
「あ、あぁ、でもロランスのキャロライン様。アリシア様の母君ですね。キャロライン様が唯一ディオール様をお諌めになって…… はぁ、ちょっと寒気が」
「そんなに酷かったのですか」
「ごめんなさいね、できることなら忘れたい記憶ですの」
アリシアは同情に眉を下げ切って、誰にも聞こえない声で「お母様はすごいのね……」と呟いた。
「グレース様は母と学院時代に接点はなかったのですか?」
「そうですね、わたくしは端の方で地味にしておりましたから、ディオール様やキャロライン様とはあまり……」
「そういえば、王妃様も同じくらいの年代ですよね?」
これまで先生のお母さんということで話題を避けていたが、さっき肖像画を見たばかりなのでなんとなく気になった。
「いいえ? 王妃様は…… ええとオフィーリア様だったかしら?」
「王妃様ともあまり面識が?」
「そうですね…… わたくしは自領の者とばかり過ごしていたので。お茶会でご挨拶くらいはしたことがあったかと思うのですけど」
「お母様はオフィーリア様とお話ししたことがありますか?」
「ん? そうねぇ、どうだったかしら? ディアモンのお茶会では同席したのではない?」
「ああ、そうですよね。ではグレース様もお茶会では……」
グレースに向き直った視界の端で、ユリウスが寂しそうに笑っているのが見えた。
なんとも言えない切なくも穏やかな笑みはシェリエルの心臓を瞬時に締め付ける。
やはりお母様のことは話題に出すべきではなかったのかもしれない。
そう思って、「母の火の粉から逃れるのに苦労なされたでしょう……」と話題を逸らした。
グレースはクスクス笑って「この年になってご縁をいただけるとは思いませんでした」と嬉しそうにする。
ディオールも「火の粉とはなんです」と目をキッとさせながら、口元は緩く笑っていた。
かつては交わらなかった対極のふたりが、二十年の時を経て笑い合えることを喜んでいるように見えた。





