邂逅
洞窟内は思っていたよりも危険ではなかった。
敵モンスターは屋外のフィールドより多く出現するものの、道幅は狭く、複数体に囲まれることもない。正面から来た敵を一体ずつ丁寧に処理をしていけば、何も問題はなかった。
先輩が前衛、俺が後衛で先輩が正面で抑えた敵を俺が撃ち抜く。これを続けたことで俺たちはノーダメージで洞窟内を進行できていた。
ついでに先輩とはパーティを結んでいるので、経験値の方も均等に振り分けられる。俺が多く敵を撃ち抜いているからと言って、成長の度合いに不平等な差はなく、快適な狩りが実現していた。
「よし、ちょっと休憩しようか」
「そうっすね。だいぶ戦ったので、頭が疲れましたよ」
洞窟内入って、一時間。ひたすらに戦闘したので精神的な疲労がかなり蓄積されていた。流石の平岩先輩もこれには少し堪えているようであった。
「五分休憩したら、出発ってことで」
「ですね。変に留まって敵モンスターがアホみたいに沸いてきても困りますし」
洞窟内はいくつか枝分かれした道が存在している。
俺たちは、迷わないように分かれ道が見えたら全て左を通るようにしてきた。
行き止まりにでも当たるかと思っていたが、案外そうでもなく順調に奥深くへと進んでいる状況だ。
「なんか宝箱的なものとかあるかなぁ?」
「トレジャーボックスがある場所って、だいたいボスモンスターが湧いてきますよ」
「そうなの?」
「はい、大抵トレジャーボックスがあるところは、大きく開けた一つの部屋みたいになっています。トレジャーボックスの方へと近づくとボスが出現したりとか、そういう仕組みですね。ボスが沸かないような小部屋系のトレジャーボックスだと、大抵は罠であったりとか、ショボいアイテムとか……」
前に宝箱を見つけたからって、近寄ったら爆発した。
平岩先輩は、その場に居合わせていなかったけど、体力を六割近く削られた。……思い出すだけでトラウマトラップだ。
「ふーん。なんか実感篭ってるね」
「それは気のせいです」
勘がいい先輩は苦手ですよ……。
「さて、田中の失敗談はさておいて」
「あ、失敗談って断定しちゃうんですね……」
「なんか足音聴こえてこない? 複数人が歩いている感じの。多分プレイヤー」
先輩に言われて気付く。確かに誰かがこの洞窟内を歩いているようだ。入り組んでいるため、どのルートを歩いていて、どの辺にいるのかは分からない。だが、確実にいる。洞窟内で音が反響してこちらに聴こえているのだ。
「対人レイドとかだったら困りますね」
「対人レイド?」
「対人戦闘を仕掛けてくる連中ですよ。モンスターと戦うのがこのゲームの一般的な遊び方ですけど、フィールド内では、プレイヤーの持っているアイテムを奪おうとか考えている野蛮なプレイヤーも多いんです」
しかし、こんな洞窟内襲ってくるとは考えにくい。人通りは決して多くないし、第一、中は迷ってしまうほどに複雑な造りになっている。
「どうする?」
平岩先輩はそう聞いてくる。
できればこのまま物音を立てないようにやり過ごしたい。しかし、どこから来るか分からない以上隠れたりはできない。下手に動かないで、もし見つかったりでもしたら、確実に集中攻撃を受けるだろう。
「一か八かで、適当に走り回って逃げますか?」
「それ迷子になるんじゃない?」
……おっしゃる通りです。
「……武器構えて、敵意があるなら迎え撃つ。これしかないですかね」
万が一出会した際に戦闘になる可能性を加味しての選択。もちろん、このまま出会わないでやり過ごせるかもしれない。あくまで備えである。
「分かった。私は歩いてきた道、田中は先の方を警戒ね」
残念ながら、俺たちのいる地点は一本道である。
逃げるにしても、どちらか一方の道に行くしか無い。
「灯りか何かが見えたら教えてください。それから、俺のいる場所まで引いてください。一人では対処しきれないと思いますから」
暫く平岩先輩と周囲を警戒していると、残念なことに俺の見ている通路側から灯りが薄っすらと見えてきてしまった。
「先輩、来ます」
「分かった。そっちに寄るね」
足音はどんどんと近づいて来る。
前衛を平岩先輩に任せてはいるが、毎度後ろから間接攻撃をするというのも、なんだか罪悪感がある。
今回に限っては、平岩先輩が相手を足止めできるか分からないし。
「……接敵します」
複数人の姿が露わになった。
人数は六人。これは勝てそうにない……。しかし、相手方もこちらに気付いたものの、特に攻撃を仕掛けてくるとかはなかった。
「あれ?」
「……敵意はないってことかな?」
「恐らく」
……というか。
「貴方は……」
目の前にいたのはフリエラさんだった……。
「フリエラさん、どうして?」
「今日はこの洞窟内にいるボスを倒そうと思ってたのよ。そっちこそなんでこんなところに来たのかしら?」
平岩先輩が行きたいって言ったからです。まあ、とにかく相手がフリエラさんで本当に良かった。
「リダ。この二人と知り合いなんすか?」
フリエラさんの仲間と思われる男がそう言葉を発する。見るとかなりレベルが高そうだ。装備品などもガチガチのフル装備である。
フリエラさんが剣士。他に狙撃者と魔導師、治癒術師など。ボス攻略のために編成もかなり本気で固めている印象だ。
「後ろの彼とは顔見知りよ。あの女から依頼を受けた被害者同士だもの」
その説明にはレイチェルに対して、悪意しか籠もっていない。とはいえ、その言葉を聞いたフリエラさんの仲間たちが俺に対して慈悲の視線を向けてきた。
……これで戦わずに済んだけど、謎に被害者扱いされたことが素直に喜べない。




