緊張感ゼロ
「田中〜!」
レイチェル(小池さん)からの依頼を聞いた後、俺は約束通り平岩先輩と合流した。
場所はリスポーン地点、つまり初期位置だ。
フリエラさんと別れて、少し待つと平岩先輩がログインしてきた。相変わらずのエネルギッシュな声色を聞き俺は声のする方へと目を向ける。
「だから、ゲーム内では田中じゃないですって」
「ごめんごめん。で? 何話したの?」
会って早々にそう聞き込んでくる平岩先輩。レイチェルから何を言われたかということだろう。
「なんか、依頼された」
「へ、なにそれ意味わかんない」
そう言いながら、平岩先輩は腹を抱えて震えている。……面白い要素あったか?
でも確かに運営から助けを求められるなんて意味が分からない。そこは同意する。
「んで、そのお願いはどうしたの?」
「一応承諾しましたよ」
「へー、そうなんだ」
それ以上平岩先輩は深く聞いてこなかった。まあ、聞かれたところで俺もよく理解していないし。結果的に良かったものの、もう少し色々探りを入れてくるかと思っていたものだから意外だ。
「あの先輩」
「おっと、今の私はエリザベスさんだよ」
「……長いし呼びにくいっす」
「いいじゃないの〜。それで、なに?」
「今日はどこに行くんすか?」
平岩先輩は少し考えた後に、
「よし、昨日洞窟みたいな場所見つけたじゃん。あそこ行こう!」
そう言った。
……昨日見つけた洞窟?
そういえば、フィールド探索中にそんな場所があったような。俺はあまり記憶にないが、平岩先輩はちゃんと覚えているようだ。
「じゃあ、そこ行きますか」
「うん! じゃあ田中、走って行こうか」
「疲れるから走りませんよ」
「ゲーム内なのに疲れるって、ウケる」
いや、キーボードとか画面ピコピコするゲームじゃないから。ちゃんと感覚あって、走ったら息切れとかするから。
しかし、この人にそんなことを言ったところで、笑い飛ばされて終わりだろう。
「時間はたっぷりあるんですから、ゆっくりやりましょう」
「田中、時間は有限だよ」
「正論ですけど、仕事場じゃないので全然格好良くないですよ」
そのまま俺たちは洞窟のある場所まで移動した。
道中、特に苦労することもなくあっさりと到着。以前も通った道だからとうぜんだろう。しかし、洞窟内には今まではいったことがない。
「これ、マジで入るんすか? お先真っ暗って感じですよ」
奥深くまで続いているのか、先の方は全く見えない。一寸先は闇状態である。
「大丈夫大丈夫、負けてもアイテムと資金がちょろっと消失して、またログイン地点まで後戻りするだけだから」
「全然大丈夫じゃない……というか、俺今かなり資金貯まってるんですけど」
こんなところで負けるのはちょっと嫌である。
「まあ、負けなきゃいいんだよ」
「さらっと言いますね。この中の敵がどのくらいの強さか知りませんよ」
「やばくなったら逃げれば大丈夫だって」
平岩先輩は大丈夫を連呼して、さっさと中に入ろうとしているが、少し楽観的過ぎやしませんかね?
もうちょっと緊張感というものを持って欲しい。
洞窟内というのは、確実に屋外フィールドと違って敵キャラも強い。
道中の敵を狩ってレベルは七から九に上がったものの、ステータスにそこまでの変化はない。この洞窟内で二十レベルとかの強敵と出会したりしたら、確実に負ける自信がある。
「ほらほら、中に入るよ〜」
「ちょっ、押さないでください」
……はぁ、死んだら仕方ないな。




