救済案?
フリエラさんの案内によって、無事小池さんことレイチェルと合流することに成功。
そのままレイチェルの案内によって、俺とフリエラさんは塔の中へと連れられた。塔の内部は運営側が利用している施設などが多く立ち並んでおり、ほとんど最初のエントランス以外は関係者以外立ち入り禁止区域であるらしい。
俺は関係者でもないのに勝手に立入禁止区域に案内された。
「いやぁ、よく来てくれたね」
レイチェルは嬉しそうにはにかみながら、どんどんと足を進める。
反対に俺の横にいるフリエラさんはかなりご立腹の様子。
「御託は結構よ。今すぐ用件を言いなさい」
「そんなに怒らないでよ。ゼンくんが怖がってる」
「関係ないわね。だいたい、貴方だって、この女の被害者なのだから、何か言いなさいよ」
なんか、飛び火してきた……。
「あの、小池さん?」
「ゲーム内の僕はレイチェルという名前だよ」
「レイチェル、用件を聞かせてほしいんだが……」
「分かってるよ。その前に部屋に案内するから。話し合いはそこですればいいでしょ?」
とある扉の前で立ち止まるレイチェルは横にある機械に手をかざす。機械音が響いた後に扉は開き、中には広い空間が広がっていた。
「ここは?」
「僕の部屋だよ。僕だって一応運営側の人間だし、こうして部屋を与えられているんだ」
ファンタジー要素皆無の部屋。クラウディア・オンラインの街やフィールドの風景とは大きくかけ離れた時代錯誤な空間がそこにはあった。
多数のモニター、何やら分からない装置。扉も施錠式ではなく、何かをスキャンするような形式のものばかり。なんというか、ゲームの雰囲気ぶち壊しだ。
「まあ、そこに掛けてよ」
レイチェルはそう言って、ソファを指差す。
フリエラさんはこめかみを抑えつつ、そのソファへと歩みを進め、俺もそれに続いた。
「さて、二人ともよく来てくれたね」
ようこそ。っとレイチェルは歓迎の意を示すが、フリエラさんは顔を背けた。
「別に来たくて来たわけではないわ。さっさと用件を言いなさい」
「だから怖いって、僕と君の仲なんだから、もう少し楽しくいこうよ」
「貴女と馴れ合うつもりはないわ」
「またまたぁ〜。そんなこと言っちゃって」
「事実なのだけど……」
フリエラさんはバッサリとレイチェルの好意を切り捨てる。それに対して、レイチェルは気にも留めないようにグイグイとフリエラさんに迫っていた。
こうもタイプの違う二人、相性は控えめに言って最悪なのかもしれない。
「それで、レイチェルさん。俺たちに用事があるんですよね? なんですか?」
「ああ、そうだったよ」
フリエラさんとレイチェルでは、まるで話が進まない。俺が代わりにそう切り出すとレイチェルは思い出したかのように微笑んだ。
「君たちに頼み事があるんだよ。頼まれてくれるよね?」
「用件によるわね」
レイチェルの強引な物言いにすかさず言葉を挟むフリエラさん。レイチェルが困惑するかと思いきや、そんなこともなく、余裕の笑みを浮かべている。
「この前と同じ類の頼み事だよ」
レイチェルがそういうとフリエラさんは苦虫を噛み潰したような渋い顔になった。
「そんなことだろうと思っていたわ……。厄介ごとに変わりはないけれど、こればかりは断れないわね。だからこそ、貴女の頼み事はタチが悪い」
「これに関しては僕が悪いわけではないよ」
「それくらい分かってるわ」
フリエラさんとレイチェルの間では会話が成立しているようである。しかし、俺からしたら何の会話なのかさっぱりである。
あからさまに悪い事態に巻き込まれているというだけは理解した。しかし、詳細について教えてもらわなければ、俺は頼みを受けるか決めかねる。
「あの、お二人は何のお話をしているんですか?」
「ああ、ゼンくんは今日が初めてだもんね。安心してくれ、悪い話じゃないよ」
「嘘よ。百、悪い話よ」
双方の主張が食い違っているが、俺はどちらを信じればいいのやら。
「これはちょっとしたビジネスだよ。あっ、勿論ゲーム内でやるだけのあそびみたいなものだから、そんなに身構えなくてもいい。僕の頼みを聞いて、それをやってくれるだけでいいんだ」
「それは分かります」
「物わかりが良くて助かるよ」
レイチェルはタブレット型の端末を取り出して、とあるキャラの写真を俺に見せてきた。
「これは?」
「亜神……っていう、キャラだよ。対人戦で無類の強さを誇ってるらしい」
なるほど、分からん。
そもそもこれを見せてレイチェルは何が言いたいのか。レイチェルの次の言葉を待っていると、フリエラさんが口を開いた。
「つまり、次はこいつってことね」
フリエラの確信めいた発言にレイチェルは頷く。
「そうだよ。フリエラ、ゼン、それから追加で四人。これで行くつもり」
「そう。彼についての情報を送って頂戴」
どうやら、二人の間で情報のやり取りが行われているらしい。なにやら、俺の知らない話がどんどん動いている……って、結局、見知らぬプレイヤーのキャラを見せられただけで説明されてないし!
「……つまり俺はどうすればいいんすか」
「簡単な話。この亜神というキャラを操っているプレイヤーを倒せばいいのよ」
簡潔に説明してくれたフリエラさん。
レイチェルもそうそうと相槌を打っている。
「彼を倒して、それで一度戦闘不能になったプレイヤーは再度リスポーンされるまでに三分掛かる。それまでにその亜神というプレイヤーの亡骸にこの装置を使ってほしいんだ」
レイチェルは黒い無線機のようなものを手渡してくる。俺だけでなく、フリエラさんにも手渡していた。それに奥には、複数個同じものが置いてある。
「見ての通り無線機だよ。仲間内で連絡を取り合うのに使える。そこの真っ黒い画面はプレイヤーをスキャンする時に使える。スキャンする機能はおまけみたいなものだね。何か質問は?」
「こんなことをして、どういう意図があるんですか?」
「後学のためというのもあるけど、これは運営にとっても必要なことだからだよ。このゲームを発展、守護するためにはこういうことをしなくちゃだからね。つまり、僕はこのクラウディア・オンラインの未来を考えて仕事を依頼しているんだ」
……要約すると、とある強いプレイヤーを複数人で倒して、情報を得る。後学のためとか言っていたところから察するに能力の高いゲーム利用者のデータを得て、今後のゲームバランス調整とかのアップデートの参考にする。……予想としてはこんな感じか。
「だいたい分かりました。……それで、最後に一つ聞きたいことがあります」
「何が聞きたいの?」
「この頼まれごとをして、俺が得る対価はなんですか?」
ビジネスと言うくらいだ。報酬も当然あるのだと思う。それが何なのかというのはとても気になるところ。
「対価は、ゲーム内で使えるレア装備品、装飾品といったところかな。ステータスが運のみに偏っているゼンくんにとって、能力の底上げという意味で、この話は有益だと思うよ」
確かにレイチェルの言い分は一理ある。ステータスの割り振りが運にしかできない。つまり、単純なキャラの力では攻撃も防御も回避する能力も全てが周囲に劣ってしまう。
装備でキャラの弱点を補う。それがレア装備品であれば、よりステータスを向上させることができる。
なるほど、この人は意外と良い人なのかもしれない。俺のキャラが弱いから、なんとか救済案を出してくれているのだ。
「なるほど。……分かりました。その依頼受けましょう」
「決まりだね!」
俺はレイチェルの提案を承諾することにした。
一つ気がかりであるのは、フリエラさんの嫌々そうな反応だ。恐らく、この亜神というプレイヤーがよっぽど強いのだと感じる。
対人戦はやったことはないが、ステータス以外にプレイヤーの技術も必要となってくる。技術が相当高い相手であることに間違いない。
しかも、六人がかり闘いを挑むような相手だ。俺は強くないが、そういう強者と戦えるというのは、それはそれで逆に良い経験になりそうだ。
そうすると。もしかしたら、フリエラさんは勝負に負けることが嫌なのかもしれない。だから、この依頼を渋っているのではないだろうか。
……この時の俺はそんな短絡的なことを考えていた。実際にフリエラさんが考えていることなど、今の俺に予想が付くはずもなかったのに……。




