フリエラとレイチェル
小池さんに言われた通り、大きな塔の前にやってきた。
一見すると、ただの古い建物に見えるが、その反面、人の出入りが激しいように思える。
さて、手を振っている人を探すのだが……何せ人が異様に多い。遠くまで見渡すには少し高台に登ったほうがいいだろう。
しかし、どこにそんな場所があるのかイマイチしらない。今日でログイン二日目。まだまだ新米プレイヤーである。
人通りの多さに困惑しながら、塔の付近をうろうろしていると、
「貴方、挙動不審だけれど……どうかしたの?」
「へ?」
凛とした黒髪ロングの美人なキャラに声を掛けられた。しかも挙動不審であると指摘された。赤の他人に対して、こうやってズケズケ物を言えるのも、ゲームの良いところであり悪いところだと思う。
堂々とした態度でこちらを見つめてくる。こんな初心者丸出しの俺に話しかけてくる彼女は何者だろうか?
よく見ると、着けている装備品も見たことのないようなレアなものばかりである。レベルも相当高そうだし、歩みに迷いがなく、場慣れしている感が物凄くあった。
「何か困っているのなら、手伝うけれど……」
そしてこの発言。見るからに初心者の俺を手助けしようとしている上級者プレイヤーのそれである。……いや、この人もログイン二日目のはずだけどさ。
しかし、きっとサービス開始からのプレイ時間が俺とは違うのだろう。俺は仕事があったりするので、平日の昼間とかはプレイできない。生活リズムは人それぞれだ。
十時間プレイ時間が違うだけでも、かなりの差ができる。それがゲームというものだ。
「えっと、塔に呼ばれて。手を振っている人を探しているんですけど、人が多くて見つからなくて……」
「手を振っている人……随分と変わった人を探しているのね」
まあ、変わっているというか運営の人なんだけど。
「つまり、人探しをしているのね」
「そういうことです」
「少しだけだけど、手伝うわ」
どうやら人探しを手伝ってくれるらしい。優しいなぁ。
そういえば、小池さんがこのゲームにいるのだとしたら、何かしらのキャラであるはず。キャラの名前を聞いておけば、こんなにくろうしなくてすんだのではないだろうか。
「手を振っている以外に特徴はあるかしら?」
手を振っているしか情報を与えられていないんだよなぁ……。なんか性格も適当そうだったし。……いや待てよ。特徴ならあるじゃないか。
「確か一人称が僕だった気がします……」
「そ、それは特徴なのかしら……」
「一応女性だと思うので、特徴としては十分だと思うんですが」
「ああ、男性ではないのね」
女性キャラで僕っ子キャラであれば、かなり絞られるはず。このゲームでの性別はリアルの性別と同じになる。ネカマやネナベでプレイすることはできないのだ。
電話越しに聞いた声から、小池さんは女性。小池さんが直接言っていたわけではないが、恐らくそうであろう。つまり、現実世界で女性である人はこのゲーム内でも女性キャラ。
ゲーム内での男女割合もきっちり男性過多になっているクラウディア・オンライン。女性プレイヤーはかなり目立つのだ。
現に目の前にいる黒髪クールビューティーな先輩プレイヤーっぽい女性もチラチラ周りから視線を受けている。ついでに俺にも嫉妬の入り混じった鋭い視線が突き刺さっている。
そんなことなど気にも留めていない目の前の女性は僕、僕……っと呟きながら、暫く考えるような仕草を取る。そして、何か思いついたような顔をつきになる。
「私の知り合いに僕が一人称の人がいた気がするわ。もしかしたら、一人称が僕という人同士、そういう繋がりがあるかも知れないわ」
「そうなんですか」
随分と個性的な知り合いをお持ちのようだ。しかし僕っ子繋がりって……そういうのがあるというのは初耳である。
「ちょうど私もその人に呼ばれていたの」
「そうなんですか……」
「因みに貴方はその僕が一人称の女性と会ったことはあるのかしら?」
……電話だけである。
「リアルでもゲームでも会ったことはないですね。電話で話したくらいで」
俺がそう言うと、彼女の顔つきが鋭いものへと変化した。まるで俺のことを値踏みするようなそんな目つきだ。
「……ひょっとして、その女性は運営の人だったりする?」
……間違いない。この感じは、目の前の彼女はゲーム内にいる小池さんを知っている。しかも、あの人が運営の人であるということを把握している。そして、彼女の知っている僕っ子プレイヤーは小池さんが操っているキャラだ。
「……はい。もしかして、お姉さんの知り合いって」
「まさにその運営の女性よ」
「へ、へー」
そんなことってあるんだ……。世界って狭いな。
「それから」
女性は少し不機嫌になったのか、顔色を一層キツくする。
「私、お姉さんって名前ではないのだけど」
「えっ……あ、はい」
……貴女の名前を俺は知らないんですけど。
しかし、何故急に当たりが強くなったのか。俺は何もしてないはずだ。更にいえば、俺が小池さんに用があると知った辺りから態度が豹変した気がする。
……これは何かあるな。
「私はフリエラ。職業は剣士よ」
「自分はゼンです。職業は弓使いです」
「弓使い?」
「ええ、そうですが……」
なんだろう、またフリエラさんの機嫌が悪くなった気がする。弓使いって、なんか地雷だったか?
フリエラさんは俺のことを更に覗き込み、やがてポツリと呟く。
「そう、貴方がね」
何かに対し納得したような、そんな雰囲気を漂わせながらフリエラさんは俺から顔を離した。
「えっと」
「ゼン……と言ったかしら」
「はい」
「恐らく貴方に対するあの女の用件は私に対してのものと同じものだと思うわ。全く、厄介なことを押し付けてくれたものね」
厄介なもの?
俺はまだイマイチ理解できていない。俺が分からないと言った顔をしていたのを感じたのか、フリエラさんは首を横に振り、
「まだ貴方は知らなくていいわ」
と一蹴した。
すごい気になるんだが……。
それから、俺はフリエラさんと一緒に小池さん探しを再開する。
小池さんのプレイヤーネームは『レイチェル』というものらしく、フリエラさんは小池さんにゲーム内で声を掛けられ、それから今日呼び出されたらしい。
昨日の今日でそんな横暴な運営側の人間がいるなんて、このゲームは大丈夫なのかと不安になってくる。
そんな話を聞きつつ、フリエラさんと歩いていると前方の方に手を振っている小柄な女性キャラを発見した。
「あれですか?」
「そうよ。あれがレイチェル。貴方と私が呼び出された元凶ね」
「元凶って……」
フリエラさんの反応から、彼女は小池さんについて何か知っている。そして小池さんの用件が碌でもないことも知っているような口振り。その点から考えると、これは相当厄介な事態に巻き込まれた予感がする。
運営から会いたいなんて言われた時点で、厄介ごとではないかと考えておくべきであった。しかし、そんなことを今考えても、時既に遅し。小池さん改めてレイチェルは俺たち二人の方へと駆け寄ってきていた。
俺は普通にプレイしたかっただけなのに……。
「「はぁ……」」
俺とフリエラさんは二人揃って、大きなため息を吐いた。




