↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
存在ゼロの俺は、世界を喰らう怪物たちを逆に喰らうことにした ~家族に忘れられた最弱の俺が、捕食で成り上がって思い出してもらうまで~  作者: 燈野いさり
第1章 世界に忘れられた日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/60

第50話 受け取らない家

 十二月、俺は「配達」を始めた。


 地下書庫で書いた記録を、遺族に届ける。


 ヰナが住所を調べて、俺が持っていく。


 ――結果から言うと、ほとんど、受け取ってもらえなかった。


   ◇


 最初の家は、昭和五十八年の被害者の家だった。


 インターホンを押すと、六十代くらいの女性が出てきた。


「――どちら様?」


「あの、こういうものです」


 俺は、灯守の職員証を見せた。公的な効力は一切ないやつだ。


「四十年前に、こちらのお宅で」


「うちは、そういうの、間に合ってます」


 ドアが、閉まった。


   ◇


 二軒目。


「――お兄さんのこと、なんですけど」


「兄?」


 その人は、心底、不思議そうな顔をした。


「うち、一人っ子ですけど」


 ――そうだった。


 喰われた人間は、家族の記憶からも消える。


 この人には、兄がいなかったことになっている。


「……失礼しました」


   ◇


 三軒目。四軒目。五軒目。


 同じだった。


 誰も、その人を覚えていない。


 覚えていない相手のことを、見知らぬ高校生が「こういう人でした」と書いた紙を持ってくる。


 ――怪しいに決まっている。


「――灰島さん」


 六軒目の帰り道、ヰナが言った。


「今日は、ここまでにしましょう」


「まだ回れる」


「顔が、ひどいです」


「……そうか」


 俺は、公園のベンチに座った。


 十二月の夕方は、寒かった。


   ◇


「……無意味かもな」


 俺は、そう言った。


「灰島さん」


「わかってたんだよ、最初から」


 俺は、鞄の中の書類を見た。


「返す相手がいないって、俺が一番わかってた。……なのに、書いた」


 俺は、笑った。


「あれ、たぶん、俺のためだったんだ」


「――どういう意味ですか」


「三年間、誰にも思い出してもらえなかったのが、しんどかったから」


 俺は、膝に肘をついた。


「同じ目に遭った奴が、他にも二百三十六人いるって知って。……そいつらを、誰かが覚えてないと、俺が耐えられなかっただけだ」


   ◇


 ヰナは、しばらく黙っていた。


 それから、俺の隣に座った。


「――それの、何が悪いのですか」


「え?」


「自分のために書いた。……それの、何が悪いのですか」


 彼女は、前を向いていた。


「私が、あなたの記録をつけているのも、私のためです」


「――は?」


「あなたが消えた時に、私が耐えられないからです」


 彼女は、あっさり言った。


「他人のためだけにやっている人間を、私は信用しません。……途中でやめるからです」


 彼女は、俺を見た。


「自分のためにやっている人間は、やめません」


   ◇


 俺は、その言葉を、しばらく考えていた。


「……ヰナ」


「はい」


「あんた、たまに、めちゃくちゃなこと言うな」


「事実を述べています」


「事実か、それ」


「はい」


 彼女は、真顔で頷いた。


 俺は、笑った。


 笑ってから、立ち上がった。


「――もう一軒、行く」


「顔がひどいです」


「知ってる」


 俺は、鞄を持ち上げた。


「七軒目だ」


   ◇


 七軒目は、平成元年の被害者の家だった。


 被害者の名前は、二宮タカシ。十六歳。


 ――二宮。


 俺は、その名字を見て、少し引っかかった。


 インターホンを押した。


 出てきたのは、五十代くらいの女性だった。


「はい?」


「あの、突然すみません。……こちら、二宮さんのお宅ですか」


「そうですけど」


「――三十七年前に、こちらで」


 言いかけて、俺は、止まった。


 その人の後ろの廊下に、写真が飾ってあった。


 家族写真だ。


 父親と、母親と、息子が一人。


 ――息子の顔を、俺は知っている。


 二宮ケイタ。俺の中学の同級生で、先月、一年分の受験勉強を返した相手だ。


   ◇


「――あの」


 俺は、聞いた。


「息子さん、ケイタくんですよね」


「ええ。……あら、ケイタのお友達?」


「はい」


 俺は、頷いた。


 それから、言葉に詰まった。


 ――この人は、三十七年前に、兄を喰われている。


 二宮タカシ。この人の、兄。


 覚えていない。


「あの、変なことを聞くんですけど」


 俺は、鞄から紙を出した。


「――『タカシ』って名前に、心当たりありますか」


   ◇


 その人の動きが、止まった。


 三秒。


 五秒。


「……たかし」


 彼女は、その名前を、口の中で転がした。


「たかし。……なんで」


 彼女の手が、ドアの縁を掴んだ。


「なんで、その名前」


「――ご存じですか」


「知らないわ。知らないけど」


 彼女は、そこで、顔を歪めた。


「――なんで、泣いてるんだろ、わたし」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。