待ちに待った月曜日の朝(平岡大志)
パッパラパーのパっパラパッ♪
パッパラパーのパッパラパッ♪
パッパラパーのパッパラパーのパッパラパっパッパッパッパッパッ~♪
軽快なラッパの音が、容赦なく鳴り響く。
手探りでスマホを探し、アラームを止め、うっすらと目を開け、まぶしい画面を確認した。
……まだ5時か。
もう少し寝られるラッキーと思って目をつぶり、スマホを置く。
――少しして。
ハッと目を開けた。
そうだ、今日は月曜日だ!
アソブを迎えに行く約束をしているんだった!
しかも今日からプールの授業が始まるぜ!
「イェ~~~~~~イ」
大きく万歳して伸びをした後すぐに、かぶっていたタオルケットをどけてベッドから飛び起き、カーテンを全開にして、窓も全開にして、身を乗り出し、まだ真っ暗な東の空に向かって、
「おはようございまあああああああああああああああああああああああああーーーーースッ!!!!!」
ささやき声で全力で叫んだ。
ワンッ、ワンワンッ、ワンッ。
どこかで犬が返事した。
部屋の中に戻り、壁のスイッチを押し電気をつける。
机の上から防水のワイヤレスイヤホンをとり、耳に装着。ベッドの上のスマホをタップして音楽を再生。
軽快な曲を聴くと自然と体が踊りだすぜ!
「フンフンフ~ン♪ イェァ~♪ アハ~ン♪」
鼻歌まじりに、即興のオリジナルダンスで、ノリノリで部屋を出ようとしたら、
ゴンッ!
「いってぇえええッ!!」
引き戸の角に、右足の小指をおもいきりぶつけちまった。
ぶつけたとこを押さえて、片足でぴょんぴょん飛んでたら、「……ナニッ!? 何ごとっ!?」と、居間の座卓の影から、色白のぽっちゃりおじさんが顔を出した。
「あ、母さん」
片方だけイヤホンを外すと、
「なによアンタ、急に大きい声なんか出して。びっくりするじゃないの」
「あ、ごめんなさい。……小指ぶつけた」
「また踊ってたんでしょ? ほんとバカねぇ、せまい所では踊るなって何度も言ってるのに。何で学習しないわけ? 今月でもう何回目よ」
母さんははだけていた薄ピンクのネグリジェの裾を引き下ろし、小さな鏡をのぞき込んで短い髪を整える。
座卓の上には、食べ終わったカップラーメン、食べかけの菓子パン、毛虫みたいなまつげ、開けっぱなしの化粧水、転がったピアスなどがゴチャゴチャとひろげられていて、テレビからは通販番組がながれていた。
「起きてたんだ」
「寝てたわよ! あんたに起こされたんでしょ」
母さんは鏡ばかり見て、透明なジェルを顔じゅうにべったりと塗りたくりながら言う。
「寝るんだったら部屋で寝ろよ」
「うるさいわね。べつにいいでしょ。仕事帰りで疲れてんのよ、こっちは」
「父さんは? もう寝たの?」
「まだ仕事よ。新しい子が入ったから。教えること山ほどあるんだって」
「へぇ」
「あんたは? もう起きるの?」
「うん。あっ、おはようございます!」
「時計見てる? 早すぎない?」
「朝練の前に、ちょっと用事があるんだよ」
「そう、じゃあ気をつけて行きなさいよ」
「はい!」
再びイヤホンを装着して、ノリノリでトイレに行き、ノリノリでしょんべんを済ませ、ノリノリで手を洗って、まだ居間のところで鏡とにらめっこしてる母さんを横目に、ノリノリで流し台のところに行き、ノリノリでコップを取りだし、ノリノリで水を注いで、一気飲み。
「……甘っ!?」
いつも飲んでる水だけどなんか甘く感じた。水うめぇ~!
もう一杯飲んで。
それからノリノリで自室に戻って全身のストレッチをして。
体が温まったら、毎朝の日課の筋トレ開始!
まずは腕立て伏せ百二十回。
その次に腹筋百二十回。
ダンベルも使って腕や肩の筋肉を痛めつけて。
スクワットで太ももとふくらはぎも痛めつけて。
懸垂。
シャドーボクシング。
キックの練習。
逆立ち。
反復横跳び。
大の字ジャンプ。
ハァ、ハァ……。
汗びっしょりだ。
朝のトレーニングはこれくらいでいいか。次は朝食だ~♪
台所へ行くと居間にはもう母さんの姿はなかった。
食パンにピーナツバターとブルーベリージャムをたっぷり塗ってサンドイッチにしてガブリ。(うまうま)バナナもパクリ。(うんめ)キウイもあったので皮ごとガブリ。(すっぱぁ~)牛乳もゴクゴク。
「っぷはぁ~。サイクゥゥー!」
それからノリノリで服をいで、かごに投げ入れ、トイレのそばにあるバスタブの中に入り、カーテンを閉め、シャワーで汗を流しながら最近バズってるメンマダンスをして、前面10秒浴びたら、くるりと反対を向いて、背面も10秒浴びたら水を止め、カーテンを開きバスタブから出て、ノリノリで体を拭いて、そのバスタオルを腰に巻いて、洗面台の前で「ん゛んーッ! ん゛んーッ!」とポージングをキメて。
鏡に近づき鼻毛がでてないかの確認。
腕を上げてワキの匂いも確認。
(ン~イイ匂い)
適当にドライヤーをかけて、適当にワックスをとって、両手の平でべっちょべちょに伸ばして、髪にベットリベトベトなでつけて、前髪を適当にシュッ、シュッと逆立てたら。
(よし、イケメン)
最後に歯磨きをして、口をゆすいで、ニコッと歯を見せ。
(はい、イケメン)
部屋に戻って、バスタオルを外し、ビニール袋からとりだした新品のスクール水着に着替えて、靴下を履いて、野救の帽子をかぶって、リュックを背負ったら、姿見の前に立って最終確認。
初めてはいた学校指定のスクール水着。
濃い紺色してるだけの、キャラクターも文字も模様もない、ブリーフタイプの水着だ。
シンプルすぎて面白味はないけど、これはこれで、なんか有名な昔のアニメの鉄腕アトームぽくてかっこいいかも。
キャラの真似して、右の拳を突き上げてポーズをとってみた。
キマってるぅ!
「よし、これで準備完了」
スマホの画面を確認すると、まだ6時前、ポケットがないので、リュックに入れ、電気を消して部屋を出た。
両親の部屋の前で足を止め、引き戸からそっと中を覗く。
ドンキーホーテーのキャラのぬいぐるみを抱きかかえた母さんが、鼻息立てて気持ちよさそうに眠っている。
おやすみなさい。
玄関へ行き、靴を履いて外に出たら、中に向かって「いってきまああああああああああああああああああああすっ!!」とささやき声で叫んでゆっくりドアを閉めた。
ガチャン。
外はまだうす暗く、街灯がついていた。
道路の真ん中でクラウチングスタートの姿勢を取ったら
「いちについてー。よーい、ドン!」
アソブの家まで全力ダッシュだ。
このまえの夜、アソブに
『もう大丈夫だから。学校にも行くから。おまえは帰れ』
そう言われた。
でもオレはアソブをひとりにするのが心配だったので、別れ際にメッセージアプリの連絡先を交換して、先生の車の中でも、家についてからも寝落ちする直前までメッセージでやり取りをして【学校に行くときはオレが迎えに行くから一緒に行こうぜ】と約束をした。
次の日は土曜日だったので、朝起きてすぐに【おはよう】と送り、それから30分おきに【まだ寝てるのか?】【生きてるか?】【朝ごはん食べたか?】【今から部活】【今は球拾いしてる】【今休憩中】【お昼食べたか?】【何食べた?】【今何してる?】【今日は何回シコッた?】など、たわいもないメッセージを送り続けて生存確認をしていた。
返事がすぐに返ってこないときは、既読がつくまで連続でうんちのスタンプを送ったり、何度も通話をかけた。
その結果、ブロックされた。
だから、今はアソブとは連絡がつかないけど、迎えに行くって約束はしてあるから、きっと準備をして待っていてくれているはずだ。




