平原の魔獣たち
デスグラウンド平原にはいろんな魔獣が出た。
地図を見ながら、アナンターヴァイパーが出たと思われる森の中を目指し進む。デスグラウンド平原は広いが平原のため迷いにくい。というか目印が少ないからけっこう進むのが手間だ。
イエロートパーズ王国を背後に、北北西の森。その森の中腹にある穴倉でアナンターヴァイパーを発見した……という情報だけが頼り。
依頼とは別に、ギルドからの頼みもあった。
依頼書と一緒に渡された冊子があり、その中にはデスグラウンド平原に出現する魔獣の詳細が記されていた。どうもデスグラウンド平原の魔獣全てを網羅しているわけじゃないらしく、冊子に書かれていない魔獣の詳細を書いてほしいとのことだ。
俺は冊子を読みながら、町で買ったサンドイッチを齧る。
「お、さっきのオオカミ、ブラックウルフって言うらしいぞ。討伐レートはC+~で、五十匹以上の群れになるとBレートになるみたいだ。個体じゃなくて群れの数でレートが変わるらしい」
「へぇ~、変わってるわね。あむ」
カグヤもサンドイッチを食べる。
森に向かって歩くが、特に警戒はしていない。どんな魔獣も現れたら倒すと決めたから、隠れて進むつもりが全くない俺とカグヤ。
シラヌイが前を歩き、平原の段差を越えて林の中へ。
『グルルルル……』
「ん、どうしたシラヌイ───っ!? カグヤ!!」
「へ?」
次の瞬間、木の上から何か落ちてきた。
俺とシラヌイはその場から離れるが、サンドイッチを齧っていたカグヤはそのままだ。
そして、その何かはカグヤを直撃する。
「ごっぼっ!? ばば、ばびぼれ!?」
「な、なんだこれ……? み、水か?」
それは、透き通る水色の球体だった。
直径三メートルくらい。球体の中央に丸い球が浮いている。
カグヤを包む球体は空中で波打っている。カグヤは暴れるがすぐにピタッと止まる……息ができてない。それだけじゃない、この水……何かおかしい。
『ごっぼぁ……びゃ、びゃばび……』
「カグヤ!! くそ、こいつ……」
俺は冊子を取り出しページをめくる。すると見つけた、水色の球体型魔獣の詳細だ。
Aレート魔獣『ヒュージマナスライム』だ。
木の上で獲物を待ち伏せて覆いかぶさるように丸呑み、ゆっくりと消化する。水色の液体はゼリー状で、中央の球体が弱点か。
「カグヤ!! その水色の玉が弱点……無理か。って、おいおい、溶けてるぞ」
カグヤは喉を押さえている。そして……服が少しずつ溶けていた。
鉄のベルトやオリハルコン製のレガースは溶けていない。でも服は溶けている……なるほどな、こいつにも溶かせないものがあるのか。
『わんわんっ!!』
「ああ、とりあえずカグヤを助けるか」
『ご、っぼぉ……』
そろそろ息も限界だろう。
俺は全身を赤い炎で燃やし、右手を前に突き出し左手を後ろへ向ける。そして左手から思いきり炎を噴射し、ヒュージマナスライムに向かって突っ込んだ。
右手からヒュージマナスライムに突っ込み、カグヤを掴み、そのまま反対側へ飛び出す。
ヒュージマナスライムを貫通する形でカグヤを救出……カグヤを地面に落とした。
「う、げぇぇぇっぼ!! おっぇぇぇぇぇーーーっ!!」
カグヤは口から青いゼリーをゲーゲー吐き出す。どうやらけっこうな量を飲んでしまったようだ。
ゲーゲーしてるカグヤを放置し、俺はスライムにトドメを差す。
「第二地獄炎、『ディープフリーズ』」
右足から放たれた蒼い炎がヒュージマナスライムを包み込む。すると……水分の塊みたいなスライムは一瞬で氷結。地面に落ちるとバギンッと砕け散り、スライムの核がコロコロと転がってきた。
それを掴んでポンポンと弄ぶ。
「これも素材みたいだな。傷もないし、高く売れるっぽいぞ」
「ぜー……ぜー……し、死ぬかとおもったぁ」
「ふふん。感謝しろよ」
「っく……アンタに借りを……───って」
俺の方に振り向いたカグヤとばっちり目が合い……カグヤは硬直。
自分の状態に気付くと顔を赤くし蹲った。
「みみみ、見んなぁぁぁっ!! あっち向けこのバカぁぁぁっ!!」
「は? なんで?」
「ふふ、服!! 服と下着出しなさいっ!!」
「ああ、服な。もったいない、溶けちまった。ちょっと待ってろ、お前の下着ってどれだ?」
「カバンごとよこしなさいこのバカッ!!」
「はいはい。裸くらいいいじゃん……変なやつ」
「黙れこのバカ!!」
カグヤは、ヒュージマナスライムに取り込まれたおかげで服が溶けて素っ裸だった。俺は別に気にしないけど……あ、そういえば、女って裸を見られるの嫌なんだっけ。
着替えを終えたカグヤの顔は赤い。
「下半身の装備だけで上半身は素っ裸って、かなり面白いスタイルだよな」
「殺す」
カグヤの本気の蹴りをギリで躱し、俺たちは林を脱出した。
◇◇◇◇◇◇
その後も、魔獣と遭遇しては戦闘した。
まず、林の出口付近でブタに乗った緑色の巨人が出た。
「なんだこいつ!? ブタに乗った……ゴブリン?」
「オークライダーゴブリンよ!! オークに乗ったホブゴブリン!!」
ゴブリンを消し炭にして林から出ると、気持ち悪いムキムキのハゲタカに襲われた。
「なんだこれ!?」
「フェザーハゲワシ!! A+レートの魔獣!!」
「詳しいな、カグヤ」
「冒険者ですからっ!!」
ムキムキのハゲワシことフェザーハゲワシをカグヤは蹴り殺した。
そのまま森に向かって進み、小さな泉を見つけたので休憩……。
『ブシャァァァァァーーーッ!!』
『ガルルルルッ!!』
「シラヌイっ!! おいカグヤ、こいつは!?」
「えっと……わかんない」
泉で水を飲もうとしたシラヌイを喰おうとワニが襲い掛かり、シラヌイと戦闘になった。
シラヌイは身体を炎で包み、ワニを陸に誘って頭に喰らいつき、強靭な牙と顎の力で硬い鱗を噛み千切った……すっげぇ、シラヌイも強くなってる。
せっかくなのでワニ肉を解体して焼いて食べる……正直、今まで食べた肉の中で最高に美味かった。
休憩終わり。森に向かって進む。
今度は、全長二十メートルはありそうな四足歩行の亀が、のっしのっしと俺たちの前を横切った。
「で、でけぇ……」
「えーっと……アダマントタートルね。こいつの甲羅はミスリルよりも硬く、アダマントタイトって呼ばれてるらしいわ。装備系職人にとって最高の素材の一つだって」
カグヤが冊子片手にそう言う。
こいつも敵かと見上げていると、巨大亀はチラリとこちらを見た。
でも、見られてわかった。この亀……めっちゃ穏やかな感じ。
俺たちに興味ないのか、そのまま去って行った。
「なんか優しそうな亀だったな」
「そう? 亀肉に興味あったけどねー」
「やめとけ。さっきのワニ肉で我慢しろよ」
「はいはい」
『わんわん』
森までもう少し。
アダマントタートルがいたせいなのか、周囲に魔獣はいなかった。
森までもう少し。俺とカグヤとシラヌイは競争するように走り……到着した。
森の入口で立ち止まる。
「ここかぁ……くんくん、なんか生臭いな」
『くぅぅん』
「シラヌイ、あんたわかる? ヘビよヘビ」
『わぅぅん』
シラヌイは首を振る。どうやらまだわからないみたいだ。
俺は拳を鳴らし、屈伸と足の曲げ伸ばしをする。
「ま、入ればわかるだろ。行くぞ」
「仕切んないでよね、まったく」
『わんわん!!』
さっさと『アナンターヴァイパー』倒して町に戻るか。