BOSS・アナンターヴァイパー
森の中は不気味なくらい静まり返っていた……理由は簡単。この森の中にはアナンターヴァイパー以外の生物や魔獣がいない。デスグラウンド平原の一角にある小さな森、ここの主がアナンターヴァイパーであることは間違いない。
冊子片手に森を進む。
「なになに、アナンターヴァイパーは八つの頭を持ち、それぞれの頭にピット器官という熱を探知する器官を持つ。アナンターヴァイパーのピット器官は住処の森全ての熱源を探知し、森に入った獲物に噛み付き毒を送り込み弱らせ、死んでから丸呑みする……だってよ」
「ふーん。なんで死んでから丸呑みすんの?」
「あー……たぶんだけど、昔先生が言ってた。獲物は死ぬと身体の中で旨味成分を作り出す奴がいるって。死んで少し置いてから食べた方が美味い奴もいるって」
「へぇ、じゃあアタシらも死ぬと美味しいのかな?」
「死んだことないからわからん」
こんな会話をしているが、先程のヒュージマナスライムの一件もあり最大級の警戒をしている。
ヒュージマナスライムに襲われたのは、あのスライムが明確な『意志』を持っていなかったからだ。
どんな生物にも意志はあり、襲おうとする意志や殺気は必ず漏れる。それを察知して俺やカグヤは危険予測をするのだ。
今回は『意志』だけでなく、周囲の景色にも警戒する。
移動すれば地面を踏みしめたり、藪を擦って葉擦れの音がするはず。呼吸音や心音、匂いなど、情報はいくらでもある。
「頭が八つ……カグヤ、一つは残しておけよ」
「ええ、あんたこそ、燃やし尽くさないでよ」
『くぅぅ……』
そして、俺たちは無言になる。
森の中を進むと───あった。洞窟のような穴がある岩場。間違いなくアナンターヴァイパーの巣穴だろう……でも。
「留守、かな?」
「…………いや」
『…………』
シラヌイの尻尾の揺れが止まる。
俺は指をコキっと鳴らし、カグヤも足で地面を踏みしめる。
「大したモンだよ……これが野生の恐ろしさか」
俺は瞬間的に横っ飛び───背後から現れた刺突を回避した。
正確には刺突ではない。生物的な、グネグネした緑色の鞭……いや、ヘビだった。
『シュゥゥルルル……』
「出やがった……しかも、デカい」
まるで、鞭のような丸太だった。
顔や形は蛇なのだが、顔を守るように扇状に皮が広がっている。冊子には頭が八本と書いてあるのに、俺たちの前に現れたのは一本だけだった。
しかも長い。森の木々を縫うように、俺たちの背後から現れた。
『シャァァァァーーー───……』
静かな威嚇だった。
口を開けると反り返った長い牙があり、目は赤く爛々と輝いている。牙の先端から黒い液体がポタポタと落ち、どう見ても毒だった。
「こいつが、アナンターヴァイパー……でっかいヘビだな。喰えると思うか?」
「蛇なら食えるでしょ……って、油断すんじゃないわよ。毒にやられたら死ぬわ、たぶん」
「ああ。頭は八つらしい、どこかに隠れてるかもな」
『グルルルル……ッ!!』
シラヌイも全身を燃やし戦闘態勢に。
俺とカグヤも対峙し、構えを取った。
「さぁ、ダンジョン挑戦に必要な素材!! アタシが退治してやるっ!!」
そう、俺たちの目的はあくまでダンジョン。こいつは単なる依頼素材だ!!
◇◇◇◇◇◇
下手に炎で攻撃するとあっさり焼き尽くしてしまうかも。それに、森の中じゃ炎は使えない。
水場があれば第二地獄炎を使えたかもしれない、だが水場が近くにはない。
なら、討てる手は少ない。
「魔神器───『大地の爪』」
俺は左手を黄色の炎と一緒に魔神器を出す。
大地に手を突っ込む必要があるが、隙だらけになるので今はやめておく。
『シャァァァァーーーッ!!』
「来たぞっ!!」
俺がそう叫ぶとカグヤが飛び、シラヌイも飛ぶ。
前衛を任せ、俺は周囲の警戒をする。頭が八本という情報は忘れていない。恐らく、頭の一本で俺たちの相手をして、残りの頭は隙を伺ってるんだ。
「───カグヤ!! 気を付けろ!!」
「わかってる!!」
最初に現れたヘビの顎に飛び膝蹴りを食らわせたカグヤの真横からもう一匹の蛇が現れた。大きな口を開けて牙から毒液が垂れている。
「第三地獄炎『大地讃頌』、【土の手】!!」
俺は地面に手を突っ込み黄色い炎を出す。そして、カグヤを襲おうとしたヘビの真下から土の手を作りだし、頭に向かって伸ばし掴む。
『シャァァッ!! シャァァッ!!』
「っく……暴れんな!! カグヤ!!」
「いい援護ね、感謝っ!! 裏神風流、『鎌居太刀』!!」
レガースの脛を刃に変えたカグヤの蹴りが、ヘビの首を両断した。
頭が転がり血が噴き出す……残り七匹。
『わうわうっ!!』
「ん、っとぉぉっ!?」
シラヌイが吠えたおかげで、俺の背後から迫るヘビに気が付いた。
俺は横っ飛びでヘビを回避。するとヘビが大口開けて俺のいた場所に突っ込んだ。
俺は『回転式』を抜き、ヘビめがけて全弾発砲。頭に弾丸が食い込みヘビは大暴れだ。
『ブッシャァァァーーーーーッ!!』
「こんのっ……あっぶねぇだろうが!!」
回転式をホルスターに収め、両手の仕込みブレードを展開。暴れるヘビの頭に飛び乗り、弾丸が食い込んだ場所めがけてブレードを突き刺した。
突き刺さった場所は脳ミソだろうか、ヘビの動きがプツンと止まり、そのまま横倒しに。
残り六匹……くそ、めんどくさい。
「シラヌイ、その調子っ!!」
『わうわうっ!!』
カグヤとシラヌイを見ると……ま、マジか? ヘビの頭がいくつも転がっていた。
その数五、どうやらシラヌイを囮にしてカグヤが頭を蹴り飛ばし……いや、斬り飛ばしているようだ。なんともまぁ、息の合った連携だ。
そして、残りの頭は一つ……俺とカグヤはヘビの胴を伝って本体のある場所へ。
そこには、これまでとは違う大きさのヘビがいた。
『シャァァァァーーーッ!!』
めっちゃ怒っている。
そりゃそうだ。自分の頭七つをフッ飛ばされたんだからな。
アナンターヴァイパーは、大きな胴体に八つの頭が生えたヘビだ。胴体の中心に大きな頭が生え、これが最後の一本であると同時に本体でもある。
俺は『大地の爪』を展開。地面に手を突っ込んだ。
「第三地獄炎『泥々深淵』、【黄泉泥】」
俺は第三地獄炎でアナンターヴァイパーの足下を泥沼に変換。アナンターヴァイパーは動きもままならず飲み込まれていく。
胴体が飲み込まれ、頭だけが出ている状態で地面を硬化させた。
「カグヤ、最後よろしく」
「なんか後始末みたいで気分悪いわ。ったく……」
『フッシャァァァァァーーーッ!! ブシャァァァァァーーーッ!!』
「じゃ、おしまい」
カグヤはレガースを刃にして、アナンターヴァイパーの首を切断した。
血が噴水のように噴き出すがすぐに止まり……アナンターヴァイパーの目から光が失なわれた。
こうして、SSレート魔獣アナンターヴァイパーは討伐された。
◇◇◇◇◇◇
めんどくさがるカグヤのケツを叩いて解体をし、アナンターヴァイパーの素材を全て集めた。
牙、眼球、毒袋……俺が銃で撃ったやつ以外は全て回収できた。
毒袋はギルドから支給された専用のケースに入れ、牙は触れないように鉄のケースに、眼球はゼリーみたいな液体が入った箱に入れた。
ヘビ肉も回収。せっかくなので炙って食べてみたら……ヤバいくらい美味かった。
なので、ヘビ肉は大きな葉っぱに包んで持って帰ることに。
「あとの残りは魔獣たちが食うだろ。よし、日が暮れる前に帰ろうぜ」
「ええ、走れば夕方くらいには帰れそうね。アンタ、アタシの裸を見てお尻を触った罰として一人で持ちなさいよ」
「ったく、めんどくさい奴だな……」
『わぅん』
ま、素材と肉の重さだけだし大したことはない。
俺とカグヤとシラヌイは森を抜け、イエロートパーズ王国へ向けて走り出した。




