第三話「聖女アステリア」①
やがて……街につく頃にはすっかり日も暮れきっていた。
冒険者ギルドの駐機場に車を止めて、例のお荷物嬢ちゃんを背負ってギルドに直行。
そろそろ、街中でも雪が本降りになって、雪景色みたいになってるんだが……まぁ、予報では冷え込みも今夜限りで、すぐ溶けるらしいんで、あまり問題にはなるまい。
ギルドの受付嬢にお嬢ちゃんを押し付けて、そのままギルマスのエドガーの執務室に殴り込み!
さすがに、これは直接文句くらい言わないとこっちの気が済まん。
「おい! エドガー! てめぇ、こんな日に土地勘もねぇ日雇いエアライダーに峠越えやらせるなんて、何考えてやがんだ!」
ギルドマスター……略してギルマスの執務室へ入るなり、怒鳴り散らす。
「……ぉん? 誰かと思ったらセナ……お前かよ。なんだぁ……そんな血相変えて、怒鳴り散らして……。ったく、いつも言ってるだろ? いくら俺とお前の仲だからって、俺に用があるならちゃんと受付を通せって……」
辟易した顔で、ご自慢のスキンヘッドを撫で回しながら、睨み返される。
まぁ、見た目はヤクザの親分と言われても納得するくらいには凶相で、若い頃もそれなりの場数を踏んでて、A級冒険者の称号を持ってたなんて話もあるくらいの武闘派マスターだ。
「知るか、そんなもんっ! てめぇ、外部の特殊便エアライダーに雪のワダツミ峠超えやらせただろ? 無茶やりやがって、あいつ思い切り事故ってたぞ! 雪のワダツミ峠……舐めてんじゃねぇぞ!」
俺がそう改めて怒鳴ると、さすがのギルマスも血相を変える。
「……う、嘘だろ! エテルナでも駄目だったのか? まさか……てめぇ、そのまま見過ごしたってんじゃねぇだろな!」
エテルナ? ああ、あのお嬢ちゃんの名前か。
そういや、今頃になって思い出したんだが、王都に特殊便A級エアライダー、期待の新人とか言われてる奴がいるって噂を聞いたなぁ……。
この運び屋業界って、意外と狭い業界なんで、腕利きの噂なんては嫌でも飛び込んでくる。
もっとも、王都の……それも特殊便エアライダーにもなると基本的に依頼料がクソ高いから、一般人には縁がなくて、貴族や聖堂教会やら、偉かったり金持ってる奴ら専門みたいになってるんだよなぁ……。
俺も王都の特殊便エアライダーギルドからは、ギルドのお抱えエアライダーにならないかってオファー受けたけど……俺は、そんなハデな金持ち相手の運び屋とか別にやりたいとは思えなかったし、ぶっちゃけ王都では色々あったからあんま近づきたくねぇんだわ。
辺境の地域密着型、地味な独立独歩の個人事業主として商売をする……それで十分っちゃ十分だろ。
「それこそ、まさかだぜ。ちゃんと拾ってやって、ここまで運んできたに決まってんだろ。まぁ、ずいぶん長いこと雪の中に埋まってたみたいで、危うく凍死しかけてたみたいだが……。一応、一通りの応急処置はしてやったし、そのまま医務室直行だったみてぇだが、きっちりお届けしてやったよ。ったく、そこはいきなり怒鳴り返すんじゃなくて、頭でも下げて、礼のひとつくらい言うべきだろうが! 違うか? ああっ!」
俺がそう返すと事情を飲み込めたようで、気まずそうにその禿げ上がった頭をボリボリと掻くと、ペコリと頭を下げてくれる。
「そうか……お前が助けてくれたって事か。確かにそうだな……まずは、改めて礼を言わせてくれ。エテルナを助けてくれてありがとう! 心から感謝する……。アイツは確かに外部のヤツなんだが、遠縁ながら俺の身内でもあるんだ……。だが、そうなるとお前は……そんなヤベェ雪山を平然と越えて戻ってきた。そう言うことなのか?」
「まぁ、そうなるな……。一応、言っとくが俺が本日の最終便だ。あの分じゃワダツミ峠は最低でも二、三日は通行止めだぜ。一体何を運ばせてたのかは知らんが……積荷を回収できるような余裕はなかったから、そこは潔く諦めてくれ」
「……そ、そうか。お前がそこまで言うなら、どうにもならない……そう言うことか。いや、わざわざ済まなかった……今回の件は、全面的に俺達冒険者ギルドの認識が甘かった……。礼金は後で払うから、ひとまずワダツミ峠とエブランの状況だけでも教えてくれないか? それと、お前でも……今から峠越えは無理か? もしも可能だってんなら、ひとつ仕事を頼みたいんだが……」
あん? まさか、そのなんだか良く分からん物を俺が運べってのか?
さすがに、この天候で行けってのは無茶だぜ。
「ああ、無茶言うなって言わせて……」
「むしろ、余裕……ですよね? セナのおじ様」
……頭に血が上ってたから、全然気付かなかったんだが……。
ギルマスの執務室には、先客がいた。
「お前は……」
満面の笑顔とキラキラな目で俺を見つめるのはかつての仲間……「聖女」アステリアだった。
こうやって、顔を合わせるのは三年ぶりくらい?
「はいっ! お久しぶりです……お元気そうで何よりですっ!」
「三年ぶりか……。ああ、久しぶりだな……アステリア。……それにしても、色々とデカくなったなぁ! 前はこんなちっちゃかったのにな!」
勇者パーティーで一緒だった頃は、13才……つまり、普通にお子様だった。
今や、16才……そりゃ、色々育つわなぁ。
思わず嬉しくなって、昔やってたように頭をグリグリ撫で回してしまうんだが……。
さすがに、ここまでデカくなって頭撫でるはないか……。
「すまん……。つい、昔を思い出して……」
「ふふっ、むしろご褒美なんで、全然問題ないですよ。……それにしても、こんなところでセナのオジ様と再会出来るなんて……。これは、まさに神のお導きかもしれませんね!」
……そう言って、アステリアも嬉しそうに笑ってるんだが。
本来、こいつは勇者パーティの中核戦力と言うべき存在で、聖堂教会でもかなり高い地位にあって、普段は王都の大聖堂に押し込まれて、外出することもままならない……そんな風に聞いてた。
だからこそ、こんな地方都市の冒険者ギルドのギルマス執務室なんかに居るようなヤツじゃないんだがなぁ……。
「なぁ、マスター……どう言う事だ? 聖堂教会の聖女様が出張ってくるってなると、さすがに尋常じゃないだろ……何があった?」
「あ、ああ……そう思うのももっともだよなぁ……。聖女アステリア様……この男、セナはこの冒険者ギルド所属の運び屋でも一番使える奴なんだ。腕っぷしも確かだし、本来なら運び屋じゃなくて、A級冒険者になっててもおかしくないほどの腕利きでもある。今回の件もこいつに任せるのが一番だと思うんだが……どうだ? 幸い、聖女様とは知り合いのようだから、なおさらだろ?」
「ああ、それでしたら……もちろんです! ええ、素晴らしく有能な方と言うのは、私も良く解ってますわ。では、おじ様にも今回の件について、順を追ってご説明させていただきますね!」
アステリアが説明を続けようとしてたみたいなんだが。
それまで黙って、部屋の隅っこにいた金髪のロン毛野郎がすっと前に出てきて、俺とアステリアの間に割り込んでくる。
「……アステリア様。このような訳の解らない男に、余計なことを言う必要はありません。貴様もだ……見た所、平民の運び屋のようだが、一体何の権限があって、このような大事な話し合いの席に割り込んで来たのだ? マスター殿、ご説明いただこう」
……恐らく、聖騎士。
それもそこそこの上位位階者。
聖剣持ちの「銘持ち」じゃねぇか……。
まさに取り付く島もないと言った調子で、人を舐め腐った態度に、思わず反感を覚える。
なんだぁ、この野郎……。
「俺は、コイツ……聖女様の古い友人でな。そもそも、コイツがこんな僻地に出張ってくる時点で、ただ事じゃないだろ? 俺で良ければ、相談に乗ってやろうって思ったんだがな……」
そう言って、アステリアの頭をポンポンと叩く。
当人は、顎をくすぐられた猫みたいにうっとりと目をつぶってる。
「なんだ貴様! その言い草は……! それに聖女様に気安く触るな! ……ありえんぞ! 貴様はここにおわす方を誰だと心得るッ!」
あん? こんなんいつもの軽いスキンシップだぞ? 何、ムキになってんだコイツ。
「聖堂教会の四大聖女の一人、第四席アステリア・ルイザーだろ? 俺とコイツは旧知の仲って奴でな……。そもそも誰なんだお前は? 悪いが、助さん格さんに用はねぇんだ……引っ込んでてくれねぇか。アステリアもすまんが、まずはこのうざってぇ髪型のお供を黙らせてくれんか、邪魔くさくてかなわん」
野郎のくせに、髪なんて伸ばしてんじゃねぇよ……ったく。
もしも、こいつと殴り合いになったら、まっさきにそのロン毛を引っ掴んでムシってやるぜ。
「はい、それもそうですよねっ! ……ミハイル、この方は私の恩師であり、大切な友人です。口を挟まないでくださいな」
「なっ! こ、こんな粗雑なチンピラ風情を……」
「いいから、もう黙っててください。おじ様もこんな分らず屋がいるんじゃ、話の邪魔ですよね? 聖騎士ミハイル、命令です……直ちに退出し、室外警備をお願いします。聞こえましたね? 復唱しなさい」
おー、おー。
前々からだったんだが、この聖女様……アステリアって……銀髪ロングで儚げでか弱そうな見かけに反して、実は結構な武闘派で、めっちゃ強気で最悪手が出る……守られ系どころか、暴力系ヒロインだったりする。
元々は見た目通り、気弱で自己主張も薄い儚げ系なヤツだったんだが……。
色々あって自信を付けてからは、すっかり化けて、言いたいことは割とはっきりと言うようになって、戦闘でもむしろ、中核戦力……みたいになってたんだわ。
勇者も癒やされるどころか、割とボロクソに言われたりして、影でヘコんだりしてたもんだ。
もっとも、非戦闘員扱いだった俺相手に手を出すことは無かったし、そもそもヒーラーも自分の身を守れるくらいにならないと……とか言って、旅の傍らで徒手空拳でも戦えるように八極拳なんてガチ武術を仕込んだのは、他ならぬこの俺だったりする……。




