第三話「聖女アステリア」②
ちなみに、聖女の使える身体強化魔法と打撃系格闘技は、めちゃくちゃ相性良かったようで、強化された拳は文字通り岩をも砕くとかそんな調子で、後半になるとむしろ聖女が攻守揃った前衛の要みたいになってたんだよなぁ……。
勇者? アイツは神剣の近接火力と素早さだけで他はまるで駄目な極フリ失敗の典型みたいな奴でなぁ……。
肉薄して戦うなら、守りをおろそかにするなって、俺も言ってたんだが……当たらなければどうということもあるまいとか、どっかの赤い人みたいなこと言ってやがって、聞きゃしなかった……。
結局、盾も持たない両手剣愛好の紙装甲前衛とか困ったビルドになってて、壁役の聖騎士のルードリックはいつも身代わりになっては、ボロボロになってたし、その剣の腕前にしても勇者のチート剣技で確かに火力はあったんだが、剣聖ドレイクに遠く及ばず……。
一応ドレイクが勇者の師匠だったんだが……。
文句ばかりいっちょ前で、基本の素振りもすぐに投げ出すような不祥の弟子と言い放つような有様で、なんと言うか……残念すぎるヤツだった。
実際、俺も手合わせとか称して、喧嘩売られた事もあったんだが、剣じゃなくて素手でって条件つけたら、むしろ全然勝負にならなかった。
確かに、動きは目で見きれないくらいには早かったんだが。
殺気とか剥き出しで、全然読みやすくてな。
着地地点に置き足払いとかにあっさり引っかかって、すっ転んだところへマウント取って、あとはボッコボコ。
バカ正直に真正面から突っ込んできたとこへ、カウンターで崩拳ドカンでワンパンKOって事もあった。
剣だったら負けないとか言ってたけど、そう言う問題じゃないと思うんだがな……実際、ドレイクも似たような事言って諭してたからな。
結局、紙装甲勇者のフォローで毎回のように聖騎士ルードリックが死にかけて、ドレイクが避けタンクみたいな事やって、アステリアがルードリックを治療する時間を稼ぐとか本末転倒なことになって……。
それを見かねて聖女様も前衛転向とかなって、時にアタッカー、時にタンク、そして本業のヒーラーと八面六臂の大活躍をしてたんだがね。
あ、俺……前世では、新開発のVRMMORPGの開発テスターのバイトなんかもやってたから、おっさんだけど、ゲーム用語は割とお手のもんなんだぜ?
とまぁ……そんな経緯があったことで、アステリアからはめちゃくちゃ懐かれてて、二人だけの時はお師匠様とか呼ばれたりもしたんだが……。
軽い気持ちで本来、後衛守られ系のはずの聖女様をそんな武闘派に染め上げたとか、ちょっとだけ後悔もしてるんだがね。
ぶっちゃけ、そんなアステリアに護衛とか要らんと思うんだが。
むしろお目付け役って事で、付けられてたんだろうな。
それで、うるさいから外行ってろとか言われてちゃ立場ねぇわな……。
「い、いえ……ですが! 私にはアステリア様を見守る義務があるので……め、命令と言われましても……」
そこは譲れないとばかりに粘る聖騎士に視線を送りながら、チラッとこっち見てどうしましょうとばかりに目で訴えてくるので、一応俺もフォローする。
「まぁ、誰だか知らんが……やかましいから廊下に立ってろってのはあんまりだろ。そう言うことなら、アステリアもとりあえず、ソイツにしばらく黙ってるって約束させるって事なら、このままでもいいぜ」
最初は最大限の要求……その後にこんなもんでいいかって条件で妥協する。
これ、いい交渉結果を引き出すコツな。
最大限の要求をして、それをゴリ押すとそれはそれで禍根が残っちまうからな。
そこで一歩退いて要求を下げることで、ちょっと得したような気分になって相手も受け入れやすくなる。
「ドア・イン・ザ・フェイス」って言って、有名な交渉術だったりする。
「はぁ……おじ様がそう言うのであれば……。解りました……ミハイル、おじ様の温情に感謝なさい。ひとまず、この場では口を挟まず黙っていると誓うなら、側にいることを許可いたします……いいですね?」
「はっ! か、かしこまりました! 聖女護衛騎士ミハイル・ゴーシュ、我が聖剣に賭けて……誓います!」
それまで聖騎士も死にそうな顔してたんだが、アステリアの態度が軟化したことで、胸を撫で下ろしてるようだった。
まぁ、これでこの二人の関係もよく解ったな……要するにアステリアのほうがエライ。
「で、聖堂教会の秘蔵っ子のお前がこんなところにまで出張ってるとなると……何が起きた?」
そもそも、そんな聖女様が出張るとなると、まじでただ事じゃないからな。
何が出てきても驚かねぇぜ。
「ええ、実を言うと神託がありまして……。当初は、この街……ハルモニアで問題が起きると見ていたですが、何の前兆もなく……半ば半信半疑になりかけていたのですが……。あの、敢えて確認させていただきますが、おじ様は24時間以内にどこか付近の農村に立ち寄っていた……そう理解していいでしょうか?」
「ああ、つい今しがたエブランから帰ってきたばかりなんだが……。神託って、まさかとは思うが……「火病」とか言わねぇよな?」
俺がその言葉を出すと、アステリアも真剣な表情で頷く。
「はい……『かの地にて火病の兆しあり、何としても食い止めなければ大きな災厄となる』と。発生源はこの街か付近の農村だということまでは、当たりを付けていたんですが……。この街では火病の前兆もないようで、神託の真偽すらも判然としなかったのです……。一応、マスターからのお話でエブランで火病発生の可能性が高いとは判断していたんですが、決め手に欠けていまして……」
「なるほど……。もしかして、俺……火病の残滓でもまとってたか?」
「はい、そう言うことです。ミハイル、どうやらエブランにて火病が発生したようです。一刻も早く現地に向かい、沈静化する必要があります……準備をお願いいたします」
火病ってのは、一言で言えばたちの悪い伝染病のようなものだ。
初期症状は、人によっては40度超えの高熱がバーンと出て寝込む羽目になったりするんだが、大抵はやたらと怒りやすくなったりしながらも、せいぜい微熱が出るとかその程度の症状なんだが……。
第二段階として、凶暴化して他者への攻撃行動に出たり、無意味に暴れ回ったり、手が付けられない状態になる。
その上、筋力や持久力、そして反射神経……要はすべての身体能力が劇的に向上して、まさにある種の怪物と化す……。
この状態の感染者は「狂化」とも呼ばれ、問答無用で拘束の上で処置が必要となるし、落ち着いたように見えても、突然全身が炎に包まれて、良くて大火傷……悪いとそのまま焼死してしまう事もある。
そして、最終的には全身から赤い水晶が突き出してきて、やがて真っ赤な水晶の塊のようになって、粉々に砕け散ってしまう……。
この最終段階での致死率は100%……身体から水晶が生えてきた時点で、もう絶対に助からないと言われていたし、この最終段階に至ってしまうと、その周囲では爆発的に感染が広がり、手に負えないことになる。
まさに死に至る伝染病……確かに、それはアステリアのような聖女が動員される緊急事態だったし、俺も日本でこの手の致死性伝染病の脅威ってのを身を持って味わってるから、全然他人事じゃなかった。
「するってぇと、少なくとも俺は火病の感染区域に入り込んでたのは確実ってことか。でもって、俺も今日はエブランとハルモニアを往復しただけだから、消去法でエブランで火病で確定……そう言うことか。となると、俺もヤバいんじゃねぇか?」
「いえ、おじ様が火病に感染する事はありえませんので、そこはお気になさらずに……。ただ、まっすぐここに来たのは正解でしたね……。念の為に『浄化』をかけておきますね」
アステリアが手を向けると、俺の周囲に霧のようなものが発生して、すぐに消えた。
火病ってのは、人から人へ伝染する感染症のような性質があるんだが、初期段階であれば、治癒術師の使う消毒用魔術……『浄化』程度でもあっさりと回復するし、火渡り草と呼ばれる薬草の搾り汁と教会謹製の聖水を混ぜ合わせた解熱ポーションを頭からぶっかけるとかでもなんとかなる。
なお、前者は教会関係者以外では、使い手があんまりいない事、後者は、火渡り草自体がそこそこのレア薬草であまり保存がきかない上に、解熱ポーションも生成後12時間以内くらいしか効力がないって事が問題点だった。
ちなみに、火渡り草ってのは水分を多く含んだ分厚い葉っぱを持つ所謂、多肉植物と呼ばれる種類の植物なんだが……。
直接火にかけると盛大にくすぶって、水分を放出して燃えるどころか火を消してしまうと言うことで、消火用に用いられることもあるんだが……。
その葉っぱの搾り汁を薄めたものは、解熱、鎮静作用を持ち、薬草として重宝されている……なお、見た目は紫色の軍手みたいな葉っぱがゴテゴテと固まってる様に見えるので、かなりキモいし、色がヤバい。
俺も現物を見たことあるんだが、別の惑星の植物なんじゃないかって思ったくらいには、グロテスクな形をしてる。
火病対策として、高熱に対する対症療法として火渡り草の解熱ポーションを飲ませようとしていたところ、患者が暴れて、一瓶丸ごと頭から被らせてしまった。
もちろん本来ポーションってのは経口投与……要するに口から飲ませるってのが大前提で、頭から被ったからって、効果が出るようなものじゃないはずなんだが……。
何故か割と顕著な効果があり、その感染者は最終段階一歩前だったのに関わらず、快方へと向かい……きっちり助かってしまった。
その後、この件は医療関係者の間にエビデンスとして共有され、この解熱ポーションを全身にかけると言う方法だと、経口投与と比較して、顕著に効果を発揮すると証明され、以来、火病の特効薬として扱われるようになっていた。
もっとも、火病については、病原体とか、何らかの原因物質があるのは間違いないんだが……。
怪我の功名みたいになった対症療法が上手く当たって、対処方法が確立された事で、その辺りはおざなりになっているみたいなんだよな。
それに、アステリアに代表される聖女や精霊使いには潜在的な感染者も含めて、感染者と健常者を見分ける事が出来る。
そして、この事が大規模感染を防ぐ要因にもなっていて、かろうじてパンデミック化の阻止は出来ていた。
ちなみに、この火病自体は魔王による対人類攻撃の一環だと言われており、魔王戦争の頃に俺も何度か火病で全滅した村とかを見る羽目になったから、その脅威は良く知ってる……。
近年は魔王軍の活動が沈静化したこともあって、以前ほどは脅威ではなくなっていたはずなんだが……。
どう言うわけか、最近になってあちこちで話を聞くようになっていた。
「……つまり、お前にはエブラン帰りの俺が火病の残滓をまとってるのに気付いたことで、ようやっと確信を持てたって事か。だが……そうなると、俺……ここに来るまでに、あっちこっちに火病をバラ撒いてたんじゃ……」
さすがの俺も不安になる。
なんせ、確かに俺自身は火病に感染したことはないんだが、逆を言えば感染したらどうなるかってのを身を持って体験していない。
だからこそ、知らぬまに感染していて、気づかないまま感染源になっている可能性だってある。
感染症って、この無自覚感染源が一番厄介なんだよなぁ……。
「いえ、おじ様程の魔力保持者なら、そもそも感染はしないですからね。ただ、火病感染者特有の火の因子の残滓をまとっていたのが見えたので……感染しかけていたのは確かですね。浄化は念の為くらいなので、ひとまず感染の可能性は度外視していいはずですよ」
そういや、前にも似たようなこと言われたな。
実を言うと、俺……魔術を使えないってだけで、魔力の数値自体は割と桁外れに高い……らしい。
なんせ、ギルドで魔力測定してもらったら、測定機がぶっ壊れて、計測不能ってなったくらいだからなぁ……。
もう一回ちゃんと測ってくれって、頼んだんだが……何度も測定器を壊されちゃたまらんので、もうヤダって言われて、それっきり。
一応、999が魔力を数値化した時の上限値と言われていて、一般人は50超えてりゃ御の字で、100超えて魔術のひとつ、ふたつでも使えるようになれば、立派に魔術師を名乗れる。
もっとも、上級魔術師を名乗る連中でも2-300くらいが平均で、聖女や賢者クラスとなると7-800くらい。
これが知られている限りの最大値で、アステリアは700くらいで、お姉ちゃんのミスティアは850で史上最高って言われてたらしい。
なんでまぁ、カンスト……999を超えるような人間はいないって事になってるんだが。
俺の場合は、その999を超えて、割としばらくしてから測定機が爆発したんで、4桁超えは確実らしいんだが……。
そんな4桁以上でも測定できるような魔力測定機なんて、どこにも存在しない……なんでまぁ、冒険者証に記載されている公式記録は未だに「測定不能」のままだったりする。
「火病」
拙作「アスカ様」に「ラース・シンドローム」って名前で登場してますが。
31世紀の銀河人類がヤバいことになったくらいにはヤバいです。
感染すると、ブチ切れっぱなしのDQN状態になって、感染者同士で殴り合って勝手に死んだり、
突然全身から発火して死にます。
そして、最終的にはファフナーみたいに、パリーンってなって居なくなります。




