第一話「最後の走り屋の最後の軌跡」③
けど……俺自身の終わりは本当に唐突だった。
他所の峠からのチャレンジャーとのワダツミ峠最速の称号を賭けた頂上決戦の最中……。
最後の勝負を決めるストレート……湖を渡る橋の上でデットヒートを繰り広げてたら、橋が爆発して崩落した。
……かくして、俺もチャレンジャーも仲良く湖の底にダイブってオチ。
そこで記憶がプッツリと途切れてるんだが、ありゃ間違いなく死んだ。
なんせ、老朽化して崩落したとかそんなんじゃなくて、目の前で橋桁が真ん中でドッカンと爆発して、思いっきりそれに巻き込まれた。
直前に上空にいた飛行船から、大音量で広域アラート放送が鳴ってたから、大陸の向こう側の連中が打ち込んできた弾道弾の流れ弾とかそんなんだったっぽいんだが。
まさか、平和な日本でそんな壮絶な最期を迎えるとは思ってもなかったわ。
まぁ、年食って病院のベッドで管まみれになって、生命維持装置に囲まれて、死ぬ自由も与えられない……とかなるよりも、最高にハイな気分で、生きてるってことを実感しながら、スピードの彼方へ旅立った!
それなりに悪くない最期だって、思ったんだがな。
異世界転生モノのお約束……神様との出会いとか、王宮の召喚の間での目覚めとかそんなこともなく。
気が付いたら、山の中の妙にだだっ広い砂利道で愛車の残骸共々転がってた。
で……そこをたまたま通りがかったこっちの世界のトラックみたいなのを運転してた爺さんに拾われて、爺さんの手伝いみたいなことをする事になった。
そう、この世界……異世界のお約束、馬車やら徒歩がメインな中世ファンタジーみたいな世界ではなく、自動車……みたいなのが移動手段として普及してると言う……ちょっとばかり、変化球な世界だったのだ。
ちなみに、この世界の自動車は地面にタイヤを転がしてってのじゃなくて、昔のSFに出てくる空飛ぶクルマ……エアカーみたいにちょっとだけ宙に浮ける車が主流。
どうも、過去に地球から転生だか転移したやつがいたらしく、自動車マニアだったそいつが、こっちの世界で自動車を再現しようとして……。
まず、かの田中角栄がやってたみたいに、全ての道路を砂利道から全面舗装化するとか無理ゲー過ぎたとか、ゴム素材の代用品が見つからなくて、まともなゴムタイヤが作れなかったとか……。
要するに、色々とハードルが多すぎて、散々迷走して現地技術で妥協した結果、こんな訳の解らん乗り物……「エアライド」が出来上がったらしかった。
こいつは、簡単に言うと地面に向かって強烈な風を吹き出して、地面から少し浮かせた上で、後ろに向かって風を吹き出して、推進力にする……言ってみれば、地面スレスレを飛ぶドローンみたいなもんだな。
細かい原理やら理屈は俺も良く解らんのだが、ファンタジー異世界の産物にしては、むしろSF寄りで、やってることは2050年の時点で次世代技術とされていた道路と車体を磁力で反発させて、宙に浮かべるリニアカーに通じるものがある。
まぁ、あっちはリニアビットを埋め込んだ専用道路以外だと宙に浮けないって欠点もあるんで、こっちの車の方が自由度は高い。
一番よく見るのは、風の精霊の力を引き出す魔術触媒、風の精霊石を使う方式で、緑色の風の精霊石から強烈な風を吹き出して、それを四方に配した四石浮揚型と呼ばれるタイプ。
色々と試行錯誤の結果、後ろの二つを加速用、前の二つを方向転換と減速用に振り分けたFR的なレイアウトが最適解と言われており、俺もこれが一番扱いやすいと思う。
ちなみに、タイヤの部分に精霊石がセットされるようになってるんだが、黒いカバーに覆われてるので、パッと見は普通の車のように見える……。
もっとも、大きな違いとしては、フロントの精霊石の前とリアの精霊石の後ろは、加減速のために風が通るように、バンパーが短くカットされてたり、荒い網目みたいになってるってとこなんだが。
それ以外は、全体的に角ばったちょっとレトロな雰囲気ながらも、普通の自動車と大きくは変わりない。
で、肝心の走行フィーリングだが、空飛んでるだけにスピードはそこそこ出るんだが、はっきり言ってめちゃくちゃ扱いにくい……。
なんせ、宙に浮いてるからタイヤのグリップもへったくれもなく、曲がる時はフロントの精霊石から横向きに風を吹き出して、ハンドルを切るのに連動して、精霊石の角度を変える事でコーナリングフォースを微妙に調整しつつ、車体の向きを変えて、後ろからパワーをかけて押し出すようにして加速する……。
なお、レスポンスは操作してから、パワーが掛かり始めるまで数秒ほどのタイムラグがあるとか、死ぬほど悪い上に、ちょっとコーナーで吹かしすぎると、バランスを崩してあっさりドリフト……ならぬスピンする。
ぶっちゃけねずみ花火とおんなじ理屈……推進力がそのまま回転力になって、延々と回り続けて、最後はちゅどーんと行くとこまで一緒。
この精霊石……強い衝撃が加わって割れると、一気に魔力が解放されて、爆発するんだわ。
だからこそ、一応剥き出しにするんじゃなくて、やわらか素材で出来たカバーで覆ってるんだが、気休めくらいにしかなってないと思う。
何よりも、タイヤの代わりに爆発物を付けてるようなものなので、エアライドが事故ると大抵爆発する。
……な? やべぇだろ?
「爆発オチなんてサイテー」って迷言もあるように、そんな最期は勘弁して欲しいぜ。
もっとも、大抵の車両に乗員保護の緊急保護結界装置とかはあるし、そこそこの腕の魔術師なら時速80kmでカッ飛ぶエアライドから飛び降りても、防御結界張って無傷で生還するくらいはやってのける……この世界の人間、結構しぶとい。
ちなみに、俺が乗ってるようなスペース効率を追求した箱型で重心も高い輸送車両とかになると、ちょっと勢い付けすぎると真横にバッタリと倒れるか……ギュルンギュルンとドリルみたいに横回転して、手が付けられなくなる。
乗り心地は、サスペンションがヘニャヘニャな勘違い高級車みたいなフィーリング?
地面に接地してないから、どれもそんなフワフワした乗り心地なんだが、むしろ凄く頼りない。
飛行船とか飛行機に共通する地に足着いてない落ち着かない感とでも言えば解るかなぁ……。
とりあえず、まだまだ空力関係の技術が全然発展途上らしい上に、とにかく車体のボディ剛性が話にならないくらい低いから、ハンドルから手を離したら、どこへ行くか解らんくらいには安定性がない。
安全性能についても……乗員保護も乗員の防御結界頼みとかそんな調子。
実際、荷室の天井とサイドパネルなんかは、鉄パイプのフレームに布張っただけとか輸送車両では当たり前で、外装も強度を要求される部位でも木の板に薄っぺらいブリキ板を貼り付けて補強しただけとか、なかなか酷い有り様……。
おまけに、生産もだが修理も基本全て職人の手作業……町工房でトンカチと釘でトンテンカンとやってるような……そんな調子だったりする。
そのくせ、操縦機構は、あっちと一緒で丸いハンドルで車体を左右に旋回させて、アクセルとブレーキの2ペダル方式……オートマ車と一緒だな。
なお、クラッチやギアはそもそもギアチェンって概念がないんで、そんなものはない。
俺の感覚としては、スズケンの旧規格軽自動車ではおなじみだったCVTに近いかな。
アクセル踏み込んでから加速が始まるまで、一呼吸ぶんのタイムラグが有て、唐突にドーンと行くラバーフィーリングも一緒。
昔のMTのダイレクト感には遠く及ばないんだが、俺ら世代ではMTはほぼ絶滅してて、CVTも割と当たり前だったから、そこはあんまり問題にならない。
そもそもCVTってのは、ギアチェンがない事でギアチェン中の空走が皆無で、パワー効率もATみたいにトルコンを介さないから、実は加速性能ならヘタなマニュアル車より優秀で、リッタカーで0-100kmが10秒以下ってケースすらあったくらいだった。
レスポンスが悪いなら、それを加味して、先読み先行入力でフォローするってだけの話だしな……まぁ、結局なんだかんだで慣れの問題なんだよ。
そんなエアカーもどきがあるなら、むしろ、道や地形の制約に縛られず自由に空を飛べる飛行機に発展しそうなもんなんだが……。
この世界では、魔力の源……マナは地面から離れると、急激に減衰してしまうと言うデカい問題があるんだわ。
要は、地面の上に接地した状態がベスト、行って地面から1-2mくらいってのが、マナの到達範囲……つまり魔法が使える範囲って事で、それより離れるとマナが供給されなくなって、魔法使いは自前の体内マナだけでなんとかしないといけなくなるし、マナを動力源にする魔道具なんかも、バッテリーの切れたドローンみたいにボトって落ちて動かなくなる訳だ。
その辺もあって、この世界……例え魔法使いであっても空は飛べない……。
魔法のほうきもチャリンコみたいに地面スレスレを走り回るのが関の山。
……空を飛ぶ魔物なんかも居ないこともないんだが。
空を飛んでる限り、バリアー……防御結界も長持ちしないので、弓矢とか投げ槍だの、魔力を使わない武器で遠距離スナイプとかすりゃ、あっさり始末出来る。
だから、ドラゴンなんかも地面をドタドタ走り回るのくらいしか生き残れないらしく、ワイバーンとか飛竜とかそんなのは絶滅して久しいらしい。
話によると、昔は空の上だろうが、お構い無しでマナが届いてて、魔法使いも自由に空を飛べてたそうなんだが。
ここ100年くらいで、地表からのマナ放射が急激に減衰したとかで、いつのまにかそんな風になったらしかった。
ちなみに、エアライドもその車マニアが流行らせてから、20年程度しか歴史がなく……割と最新テクノロジーと言えた。
まぁ、魔法で空を飛べないってのなら、グライダーとか人力プロペラ機とか作ったりして、そう言う方向で発展しそうなもんだし、飛行船くらいなら作れそうなもんなんだがなぁ……。




