第一話「最後の走り屋の最後の軌跡」②
当然のように、そんな無茶な施策……反対意見くらい出そうなもんだったんだが……。
日本の農村は、どこも過疎化が進みきっていた上に、色々あった事で2030年代には限界突破し、それまで農村部を支えていた人々もバタバタと居なくなってしまっていて、何処の集落も住民が数えるほどしか残ってないとかそんな有り様になってたんだよなぁ。
それに、20世紀から21世紀初期の頃にかけて……色々無理して、全国津々浦々に設置した上下水道や橋やらトンネル、道路なんかも、2030年代には軒並み寿命が来て、総取っ替えするか、片っ端から捨てるか……そんな二者択一が迫られてたんだよなぁ。
要するに、車のEV化以前にそんな数々の問題が露呈してきてて、社会自体を人口集中によりライフラインを効率化するってのが強く求められてたってのもあったんだよ。
住み慣れた故郷や、先祖代々受け継がれてきた土地を捨てろとかあんまりだとか言ってた連中も、結局昭和生まれのジジババの生き残りばかりで「そのまま、居座ってもいいけど、めちゃくちゃ不便になるし、今なら補助金たんまり出すよ!」と言われては、都会へ引っ越しもやむ無しとなったようだった。
実際、日本の人口も……2020年代くらいから右肩下がりに減少して、2030年代に色々あったことで一億を切るどころか、今や8000万人くらいまで激減して、今も順調に減少中で2070年くらいには5000万を切るんじゃないかって、それくらいの勢いになってる。
まぁ、ここまで凄まじい勢いで人口減少が起こったのは、20世紀の頃から言われてた少子化の影響だけじゃないんだがね……2050年に至るまで本当に色々あったんだよ、色々とな……。
凄まじい勢いで平和も安定も失われ、経済も産業も何もかもが、崩れ去っていく中で、利権や足の引っ張り合いで結局、何も決められず、何も進められず、何よりも深刻な人材不足となった事で、完全に機能不全に陥ってた人間の政治家や官僚による統治ではなく……。
ある日を境に突如現れたAIを超えたAI……超AIによる統治を受け入れることで、なんとか持ち直したってのが、今の日本の現実だった。
まぁ、要は激動の時代……俺達はその只中にいたんだが。
別に俺自身には、そこまで大きな影響もなかったからなぁ……。
実際、車道楽にハマって、趣味に生きてたようなもんだったから、激動の時代だったとか言われても、言われてみりゃそうかと納得はするんだが、特段苦労したり、困ったりはしなかったからな。
でだ……。
俺のホームグラウンドだった峠道、ワダツミ峠も旧群馬県の山奥と山奥を結んでいた、かつてはそれなりの交通量があった街道だったそうなんだが……。
そりゃあもう、アホみたいに曲がりくねってて、ひたすら山を登る上に、登りきったところにある山自体も湖と温泉くらいしか観光資源もなく、過疎地と山奥に繋がってるだけの道なんて、別に要らないだろって事で、割と真っ先に切り捨ての対象になってしまったらしい。
……実際、ワダツミ峠から文明圏と言える市街地までは軽く30kmほど離れてる。
日本海沿岸の新潟辺りは、軍事警戒地域指定されてる関係で、軍事関係者以外は誰も住んでない事になっているので、前橋が関東エリアの北端になってるんだが、そこから更に山の方に向かう道だったんだから、そりゃ廃道指定にもなるわな。
実のところ、自然保護地域への立ち入り自体は禁止されておらず、入ろうと思えば誰でも入れるんだが。
今日日のワイヤレス給電EVの航続距離は10kmもない……これが放棄エリアを放棄エリア足らしめてるようなもんなんだわ。
基本的に、給電セルラインに沿って走らせるってのが大前提で、給電ラインから外れた生活道路や、立体駐車場の中とかを短時間走る程度しか想定してないから、バッテリーも小さな予備電源しか積んでないんで、そんなもんしか航続距離がない。
それ故に、そんな僻地まで来れるとすれば、ガソリンがある限り何処にだって行ける今や完全に絶滅種になったガソリン車やハイブリットカーくらいだった。
もっとも、今どきガソリンなんて、リッター500円とかする上に、街中からガソリンスタンドも無くなって久しいんで、原油を精油してむしろ余るようになった輸出用ガソリンを業者から買い付けるとか、そんな入手方法しかない。
この時点で、輸出業者とコネが無いとガソリンの入手もままならんので、ハードルが高いって訳だ。
要するに、来る手段が限られている上に、基本的にメリットなんて皆無に近いんで、俺等みたいなモノ好きしか来ない……。
なんせ、管理区域外で事故っても保険も降りないし、救急車もレッカー車も呼んでも来てくれないから、大怪我なんて負ったら、マジで命に関わる。
つまり、頼れるものは自分だけ……完全に自己責任の世界って訳だ。
で……まぁ、そんな自己責任上等な奴らの一人として、週末になるとワダツミ峠に出撃して、タイムアタックやらバトルで競い合ってるうちに、俺にはいつの間にか「ワダツミ峠最速」って二つ名が付いてた。
ちなみに、愛車は古のスポーツカーどころか、すでに滅んで久しい、かつての軽自動車規格の営業ワンボックス「スズケン・エブリワン660」だ。
660ccの軽規格エンジンに、全長3,395 mm 全幅1,475 mm 全高1,910 mmのほぼ真四角の箱型ボディを乗せたシンプル・イズ・ベストを体現したような実用性一点張り仕様。
かつては、配送業者の相棒とも呼ばれ、軽ワンボックスの王様とも呼ばれたような車だったんだが。
実は、この辺の商用軽自動車が自己責任峠アタッカー御用達だったりもする。
一般乗用車の純ガソリン車って随分前に生産終了ってなってたんだが……。
この手の営業系の車は部品在庫も豊富だった上に、割としぶとく生き残ってたから、俺らみたいなしがない底辺年収のおっさんでも、10年20年落ちのスクラップ同然のなら中古で買えないこともなかったし……。
放棄エリアに行けば、元農家の庭先やガレージに軽トラとかが放置されてて、それらの持ち主を探して、買取交渉することで割と状態の良い車両を手に入れることも出来た。
で、同好の士のネットワークを使って、DIY……要は自分で修理、レストア三昧の日々……。
そして、俺もそんな風に紆余曲折の末に完成した愛車「ストレイ・キャッツ号」を駆って、峠デビュー!
半ば管理社会となってしまった窮屈な文明社会から離れて、放棄無法地帯で、バカ同士で集まってバカやって……。
もちろん、昔で言うところの警察……治安維持機構なんかも、廃道で骨董ガソリン車の草レースやってるってのは、周知の事実だったみたいなんだが。
統治AI達ってのは、基本的に人間のやることには寛容で、管理区域外地域でアホな大人が集まって、好き勝手やってても、別に反社会的活動やら、人様に迷惑をかけてた訳じゃなく、廃道でワイワイ遊んでるようなもんだったから、たまに白黒塗装のパト・ドローンが様子見に来ることがあったり、国防軍の上空監視の飛行船から「君たちくれぐれも火元に注意して、事故って怪我したりしないこと!」って口頭注意される程度で、なんだかんだでお咎め無しだった。
それに……まぁ、俺らみたいな連中は、もはや滅びゆくことが確定している「最後の走り屋」って事は自覚してからな。
廃道が風化したり、今乗ってる車が壊れて動かなくなって、部品も手に入らなくなっちまえばもう終わりだろう。
実際、全国各地に自然発生してた俺等みたいな集まりは、年々減っていってたからな。
これも時代の流れ……致し方なし。
若い連中にもなると、EVのマニュアルモードは教習所で習っただけとかそんなのも増えてるらしいからな。
『もう、色々限界なんで日本国政府は無期限解散し、今後は皆様御存知の超AIアマテラスが日本国の統治をやると言ってるので、全部お任せする事にしました』
なんて、衝撃的かつ、投げやりな発言を疲れ切った顔の政治家達が揃って言い出した時は、いったいどんな世の中になるんだと騒がれてたもんだが……。
いざ、そう言う時代が始まると、その直前までマスコミとか左翼共が騒いでたようなディストピア社会になることはなかった。
なんせ、超AI達のボス……「アマテラス」ってのは、日本国民第一主義とでも言うべき基礎行動原理の元に行動しており、日本人を……ひいては、世界人類をあまねく幸福に導く……なんて、スローガンを掲げてたんだからなぁ。
それに、急速に何もかも一気に変えるんじゃなくて、出来るだけ人々に多くのメリットを与えながら、少しずつじっくりと最適化を進めると言う形で、社会の改革を行っており、俺らも住めば都……実際はそこまで窮屈でもなく、生活水準も確実に上がっていった事で、なんとなく納得していった。
実際、よほどの悪さをしない限りは逮捕とかもされなくなった。
昔は、ケチな一時停止違反やら自転車を追い越しただけでも切符切られてたりとかあったんだが。
自動運転車は基本に交通違反なんてしない。
切符きりのお巡りやら白バイ警官も仕事がなくなったのか、全然見かけなくなったし、市内パトロールなんかもロボットパトカーやらロボット警官がするようになって、警察の仕事ってのは、どこでもそうなりつつあるように、警察署のモニタールームに集まって、ロボットやドローンの遠隔モニタリングと、現場のAI達の提案の実行承認やら監督業務が主な仕事になってて、知り合いの警官も毎日昼寝しに行ってるようなもんだとか言ってたくらい……。
基本的に最低限のルールとマナーさえ守ってれば、一般市民にとっては昔より、ゆるくなったと言われるほどだった。
むしろ、それまで偉そうにしてたマスコミ人やら大企業の社長とか、所謂上級国民とかの方々が法律違反だの脱税だのを厳密に適用されて、逮捕されまくってたし、外国からやってきてた犯罪組織だの不法移民、イキってた半グレ族なんかは完全に害虫扱いで徹底的に潰されて、ある意味とっても平等かつ、平和な社会になった。
もうワケが解らんほどたくさんあった税金やら社会保険料も、いくらなんでも収入の半分近くを持ってくとか、ありえないって事でゴッソリ減って、無責任な立場のくせに影で日本を仕切ってた財務省のお役人なんかも、AI達に仕事を奪われたり、過去の罪状を掘り出されたりで、まとめてクビになったり、刑務所行きになった。
給料も上がって、エネルギー源が化石燃料から、常温核融合発電による電気に移行して、世界情勢も安定化したことで、物価も安定して、割とナチュラルに誰も食うのには困らなくなったし、娯楽も以前よりも充実して、誰もが毎日楽しく生活できるようになった。
もちろん、戦争や犯罪なんかも別になくなっちゃ居ないんだが……戦争なんかも一般市民には関係ないとこでAIが無人兵器を使って、ドンパチやってるんで、もはや誰も気にしちゃいない。
外国もドンドンAI統治化が進んでいっていて、近い内にAI統治国家同士で連合国家としてまとまって、世界統一国家の樹立を目指し、宇宙への進出を始めるとか、そんな話もあって、仮想現実……VRの技術もどんどん進化が進みそうな様子で、やがてもう一つの現実となる……そんな風に言われるほどの爆発的な進化が進んでいた。
とにかく、世の中は急速に進歩し、2020年代辺りは大国の独裁者共が好き勝手やってたのに、国家を超AI達が統治するようになって国家の枠組みが取り払われていった事で、確実に平和になって誰の心にも希望ってもんが湧くようになってたんだ。




