第八話「見守りし人々」③
その後、国王は密かに暗殺ギルドなどにもセナの暗殺依頼を出してはいたのだが。
先の事情で手出し無用という事は、どこも共通しており、暗殺ギルドも国王からの依頼を門前払いする訳にはいかず、受領はしたのだが……。
実際は、依頼を受けただけで何もせずに、しばらく経ってから、暗殺に失敗しましたとの報告だけをする事でお茶を濁した……。
結局、セナによるアバレス伯爵暗殺の件は、それ以上追求されることもなく、表向きは病死と言うことで穏便に済ませることになったのだった。
「……なぁ、エテルナ、お前さん……なんで、そんな事まで知ってるんだ? そもそも、アバレス伯爵の件も公式には、病死って事になってるんだぜ?」
「私の副業として……辺境地域での情報収集活動ってのも含まれてるんですよ。まぁ、雇い主はさるやんごとなきお方……とだけ、言っておきますね」
「はっ! 詮索はしねぇけど、お前、意外と食えねぇヤツだったんだな……。うちのギルドの連中はお前の見た目にほだされて、完全に子供扱いしてたが……見た目通りじゃねぇってことか。さすがダグラスの娘だな……! だが、そこまで裏事情を話してくれたとなると、俺達を信用して……要するに、仲間だとでも言いたいってのかい?」
「ええ、そこはマスターを信用してますからね。一応、言っておきますけど、私はセナさんを含めて、マスター達の味方ですから……。まったく、こんな形ではありましたが、ようやっとセナさんと繋ぎが持てたことは素直に喜んでますよ」
「……知らぬは当人ばかり……かよ。でも、さすがに今回の件……無事に解決したら、セナの野郎も嫌でも表舞台に引き出されそうなんだよな……。王都への召還なんて命じられたら、アイツ……本気で海外へ高跳びしかねぇんだが、さすがにそろそろ庇いきれそうにないんだよなぁ……。いくらなんでも目立ちすぎ……だよなぁ」
さすがに、何事にも限度がある。
しかも、この一件はまだ終わってない……更に大きな話になるのは、もはや確実だった。
そうなってくると、セナ本人の意思に関係なく王都召還……となるのは、もはや確実だった。
だが、エテルナの答えは意外だった。
「……大丈夫だと思いますよ。最近は、魔王の脅威も魔王本人がまるで別人みたいになって、一方的に休戦を宣言して以来、すっかり影を潜めてますし、国王陛下も表には出てこなくなって久しいです。何よりも……彼を一番嫌っていて、貶めようとしていたアバレス伯爵は、すでに亡き者となりましたからね。実を言うとセナさんが敵視してた王都のガンと言える存在はもうまとめて息していないんですよ。だから、むしろ王都のやんごとなき方々は大喜びで出迎えることでしょう」
なお、最終的にセナを敵視するまでになっていた勇者イルマについては、完全に行方不明となっていた。
たった一人で、魔王に戦いを挑み返り討ちにあったとか、己の未熟を恥じて修行に出たとか。
噂だけは色々あるのだが、真実は誰も知らない状況だった。
「な、なぁ……一体、王都で何が起きてるんだ? 要するに、お前……そのやんごとなきお方とやらの耳目……間者って事か?」
「すみません、色々と事情があるのでノーコメントって事で……まぁ、そのうちお話します。それにしても、たった半日でこんな事になるような大規模火病災害なんて、これまで例がないですね。一応、警告ですが……後続の方々が来ても、一旦ここで待機して、状況を見守ることをオススメしますよ」
「おいおい、アイツが人手がいるって言ってたから、人も集めたってのに、文字通りの高みの見物してろってか? そりゃ、さすがに納得できんぜ?」
「そうですね……。私も魔力視くらい使えるんですけど……。ここから先は、精霊のバランスもデタラメになってますし、エブラン村の近くに……強烈な火の魔力を放つ何かあります……。多分、それが元凶だと思うんですが……。並の魔術師では、近づくだけで、あっという間に火病に感染するか、最悪火達磨になるかも……。現地と連絡が取れなくなってるのも、多分そのせいですね。ただ、別の強力な力の気配もあって……正直、何がなんだかって状況なんですよ」
「なんだって! じゃあ、アイツらはそんなやべぇ中に飛び込んでいったってのか! それに……そ、それじゃ、エブラン村はどうなる?」
「二桁ものエレメントウルフを行使するような上位獣魔術士が足止め役として、配置されていたとなると……。明らかに組織的……他国の国家魔術組織か、二大邪教団辺りの仕業かもしれません。普通なら……絶望的だと答えるところなんですが。あの人達ならなんとかしてくれる……そう思いません?」
「確かに、あんなエレメントウルフが10体も居たら、腕利きが何人居ても苦戦は必至だ……。もし、セナのヤツが居なかったら、あそこで奇襲食らって、俺らもまとめて返り討ち……だっただろうな」
エドガーもバカではない。
セナ抜きでのギルドの戦力で、あのエレメンタルウルフの使い手が伏せた中に突入していた場合をシミュレーションしていたのだが……。
エレメンタルウルフが十匹もいて、森に伏せていたと言う時点で、奇襲されてそこで全滅するのはまさに火を見るよりも明らか……そんな風に理解していた。
「やれやれ、道一本塞がるだけで陸の孤島化するようなところで、魔獣使いが街道閉鎖してたとはな……。その時点で何かやらかす気満々って事じゃねぇか。やっぱり、魔王教団案件なのかねぇ……」
ちなみに、魔王教団は魔王を崇める事で魔王の脅威を避けられると信じて、魔王に忖度して各地でテロを引き起こす迷惑な人々の集まりなのだが、魔王自身はそんな彼らに微塵にも興味を持っていないと言う悲しき者達でもあるのだ……。
自分たちの勝手な思い込みで、魔王様の思し召しと称して、各地でテロを行う事で完全に各国を敵に回しているのだが……。
実際は、魔王本人も「クソ迷惑な狂人達であり、俺氏とは全く関係ないのである。むしろ、駆除に協力したいくらいなんだけど、どうよ?」などと投げやりな声明を出していて、その結果、魔王教団からは「偽魔王」呼ばわりされるようになっていると言う……。
ちなみに、現在の魔王の一人称は何故か本来は「余」だったのが「俺氏」になっており、定期的に国王指名で勝手に送りつけられるようになった魔王定期連絡と称する怪文書の内容は、毎度毎度こんな調子で偽物呼ばわりも当然の話だった。
一方の大宇宙真理教団と言うのは、いずれ星の彼方からやってくる神々を崇めると称する人々なのだが。
これもやっぱり、宇宙の神々の思し召しと称して、特に聖堂教会や政府関係者を中心に無差別テロを行う狂気の団体だった。
エテルナは、今回の黒幕もどちらかだろうと当たりを付けていたが、どっちもどっちなので、そこはなんとも言えなかった。
「そうですね……。魔王教団は魔王軍からも激しく弾圧されているので、大宇宙真理教団の可能性も高いと思いますが。両者は互いを敵視しているから、協力している可能性はないですね……。ただ、エレメンタルウルフを行使する上級獣魔術師ってだけでは、なんとも言えませんね。そもそも、エレメンタルウルフも精霊とは別系統の魔獣らしいですからね」
これは、精霊使い達にとっては、周知の事実なのだが。
まず地水火風を頂点とする精霊達は、正規精霊と呼ばれており、そちらがスタンダードと言えるのだが。
エレメンタルウルフのような魔獣は、エレメンタルと呼ばれてはいるものの、元素魔獣と呼ばれ精霊とは別種と言われており、その素性は魔物と大差なく、精霊使いにとっては行使も出来ず、そもそも全く相容れない存在だった。
そして、火病の原因についても、元素魔獣の一種ではないかと、彼らも推測しているのだが。
時折、罹患者が口走る謎の言語にしても、精霊語どころか、どんな言語ともかけ離れているし、元素魔獣すらも制御する炎の上位精霊の制御力をもってしても、火病の原因と思わしき、精霊のような何かは全く制御できず、限りなく別の生物に近いようなものだと考えられていた。
もっとも、問題なのはそれら精霊使い達が共有している情報すら、聖堂教会はまともに把握していない事なのだが……。
「お前、ホント詳しいな。もしかしたらなんだが……賢者の塔の関係者なのか? そう言うことなら、色々納得もできるんだが……。ダグラスからは魔術師学校に入学させたはずが、何故かいつの間にか特殊便で運び屋やってたって聞いてるぜ……」
「賢者の塔」は……大賢者グラファゾル老師を頂点とする魔術師達の総本山と言える組織の名だった。
アステリアの姉、賢者ミスティアは本来「賢者の塔」所属であり、勇者パーティには出向という形で協力しており、そこで生き別れとなっていたアステリアと再会し、姉妹の絆で結ばれた共にセナを慕う者同士という事で、一応抜け駆け禁止という事で互いに牽制しあって、敢えてセナに近づかないようにしていたのだが。
今回、全くの偶然……もしくは必然から、アステリアはセナと組んでの大冒険の真っ最中だった。
個人的にミスティアを良く知るエテルナとしては、ミスティアが荒ぶるのは間違いないと思ってはいるのだが。
頼むから暴走しませんように……と密かに祈るのみだった。
「そこはご想像におまかせしますよ。ですが、現場経験と武勲の数々から、四大聖女でも最強と言われるアステリア様と「知られざる本物」……幻の6人目が組んでるなら、この程度……軽く片付けるんじゃないですかね?」
「……じゃないんですかねって、お前さんよぉ……気楽に言うねぇ……まったく」
「実は、私も人づてに「知られざる本物」についての話は聞いていて、前々から同業者らしいという事で、興味はあったんです。それに……これから先、様々な事情からこの国は周辺国も巻き込んだ動乱の時代を迎えることになりますからね……」
「動乱の時代ねぇ……魔王戦争だけで、もう十分だと思うんだが……。まだなんかある……そう言うことか?」
「……」
「ダンマリかよ……。まぁ、どのみちここは辺境だからな……中央の情報なんて、あんまり入ってこない。それこそ、中央にツテがあって、頻繁に行き来する……お前らのような特殊便の関係者や本部から漏れてくる情報が頼みだ。だが、表舞台に出てこなくなった国王、賢者の塔の沈黙に、魔王の乱心……色々と噂は聞いちゃいるんだが、どうにも真偽ってもんが解らんのよな」
「いずれにせよ……少なくとも従来の枠組みは崩壊しつつありますね。というより、前が酷すぎましたからね。そろそろ、ツケを払うときが来た……そう言うことですね」
「なぁ、ココだけの話……これから、何が起きるんだ? そして、この騒ぎと中央は関係あるのか?」
「私の口からはなんとも……。一応、言っときますけど、この騒ぎは誰にとってもイレギュラー。正直、何が起きてるかまでは私にも解りません……。でも、そのうち解ると思いますよ」
「ああ、そうかい……。まぁ、俺等に出来ることは、アイツが上手くやってくれることを信じて、アイツらの後始末と村人の救助の準備をしとくってとこか?」
「そんなところですね。ただ、今回の件……聖女アステリアでも一人では手に負えなかったでしょうからね。実のところ、教会の判断は本来だったら、間違ってなかったんですよ。今回のケースはこれまでの火病騒ぎとあまりに様相が違いすぎます。彼女と聖騎士数名程度じゃ厳しかったでしょうね。でも、セナさんと言う鬼札が場に出された事で、定まっていた運命がひっくり返りそうな状況です。いやはや、これは面白い展開になってきましたね」
「……エテルナ、お前……なんかもう終わったような事言ってるが。これはそんなイージーな状況なのか?」
「はい、イージーだと思いますよ。あの方が言ってたとおりでした……セナさんは、どんなハードな状況でもイージーモードに変えてしまうって言ってました。でもまぁ、思いがけず、本人に命を救ってもらっちゃったので、借りくらいは返さないとって思ってますからね。微力ながら、お手伝いくらいしに行くつもりなんですが……マスターも付き合います?」
その言葉を聞いて、エドガーも破顔する。
「なんだよ、そう言うことなら、もっと早く言えよ! どのみち、あいつらだけにいいカッコはさせねぇよ。おい! サーシャの姐さんに、ボルヴィック! ……ちょうど良かったぜ! お前ら、俺に付き合ってくれ!」
さらなる後続が続々と到着して、気だるそうな女エルフと厳つい顔をした両手剣を背負った剣士が車両から降りてくるなり、エドガーが軽い調子で声をかける。
続けて、エドガーが張り切って、冒険者達に指示を出す様子を見ながら、エテルナもいつものお調子者の顔ではなく、真剣な険しい顔でエブロンの方を見つめていた……。




