第八話「見守りし人々」②
「どうだろうな。五人がかりで召喚したにしては、綺麗に統率が取れてたからな……。そもそも、そんだけ人数がいるなら、もっとバラけて潜伏すると思うんだがな。おそらく術師は最初から一人だけで、隠蔽や結界にも相当自信があったんだろうな」
「あの派手に燃えてる辺りですかね? 爆発の跡が一箇所に集中してるようなので、ピンポイントで見つかって、集中砲火されたんでしょうね。ここまで流れてきてるマナの残滓や精霊の活性化ぶりだけでも無茶な魔力を使ったって解りますよ。あれじゃ、結界魔法使ってても、ひとたまりもなかったでしょう。最初に絡んだ聖騎士達は全員無事だったみたいですけど、あれでも手加減してたんですね」
「ああ、確かに殺さない程度にとか注文付けてたからな。ちゃんと手加減してたってことだ。そういや、奴らはどうした?」
「貴様らの手は借りん! とか言って、一生懸命大破したエアライドを修理してたんで、もう放ってきましたよ。幸い峠の管理業者みたいな人たちが駆けつけてくれて、大穴が空いた道の修理と事故車両の撤去も手伝ってたみたいだったんで、通行の邪魔にもなっていないようでしたからね。でもまぁ、あの様子だと追いついてくるとしても、随分後でしょうね」
「ああ、あのセナの子分共か……。アイツらもともとは盗賊団だったんだが、エアライドのスピード勝負でセナに負けて、殴り合いでも負けて、むしろ心酔しててな……。そうか、連中……自主的にすでに動いてくれてたのか。まったく、あの時……セナの無理なお願いを聞いてやった甲斐もあったな。まぁ、いいさ……俺もあの聖騎士のエアライドがぶっ飛ばされたのを見て、スカッとしたからな! いい気味だ!」
「なるほど、ワダツミ峠って他の峠に比べると、通行料は取られるものの……どこも、しっかり整備されてて、すごく走りやすいって評判だったんですけど、専門の管理業者がいたんですね……。他でも同じことすればいいのにって思いますよ」
「そうだよなぁ……。あんな騎士団でも手に負えなかったような荒くれ者どもを大人しくさせて、すっかり更生させちまったんだからな。セナの野郎もよくやるぜ……」
「ところで……改めて聞きますけど、セナさんって何なんですか? 私は、ほとんど仕事も被らなかったんで、たまに駐機場で見かけたり、ギルドで挨拶される程度だったんですけど……。マスターは明らかに特別扱いしてますよね?」
エテルナのその一言に困ったように苦笑するエドガー。
だが、もう洗いざらい話してもらいますよと言いたげなエテルナの様子に観念したように、ため息を吐く。
「……お前は聞いたことねぇか? 勇者パーティの6人目……魔王軍の将軍やら幹部、軍勢を何人も殺しまくって、終いにゃ魔王すらも撃退したとも言われてる……存在しない事になってるメンバーがいたって噂を……」
「それ……知ってますよ。勇者パーティは王の采配がひどすぎて、勝ち目のない戦いにばかり投入されて、実のところ、連戦連敗……。それでも尽く生還し、魔王軍にも大損害を与えていたのは、名も公表されず、その存在も公式に否定されている6人目の仕業だって……人呼んで「知られざる本物」!」
これは、王都などでは有名な都市伝説のようなものだったのだが、まさに知らぬは本人ばかりだった……。
「その6人目がアイツなんだよ……元勇者パーティの聖女さんから直に聞いたから、間違いねぇよ。だが、今日……本気になったアイツを見て、納得したぜ。あんな風に、逃げながら追手を片っ端からぶっ飛ばして、魔王をも返り討ちにしたんだろうな……」
「やっぱり、そう言う事……ですか。でも、納得は出来ますよ……。なんで、そこまでの方がこんな辺境で……もっと評価されるべきなんでは?」
「アイツも……本来は争いごとも好まないし、平和な暮らしを送りたかったんだとよ。そもそも、アイツは貴族や国王からは蛇蝎のように嫌われまくってたらしいからな。まぁ、アイツのせいで世界を救うって鳴り物入りでデビューした勇者は、ほとんど役立たずに終わっちまって、教皇も王様もメンツ丸つぶれ、アイツもアイツで国王の采配を正面から全否定とかしてたらしいからな。いくら事実だからって公衆の面前で「無能王」とか言っちゃ駄目だろ」
その「無能王」と言う称号が民衆の間で定着してしまい「無能王」と王を罵ったものはその場で死罪とすると言う大人げない対応を実施した結果……。
今度は「例の無能」と言う陰口を叩かれるようになったと言う余談すらあった。
もちろん、これについては、自分を指す隠語だと王も気づき、激怒していたのだが。
「例の」と言ってるだけで、別に王様のことじゃないと言われてしまえば、そこまでで……。
さすがに、家臣から「無能」と言う単語にいちいち反応して怒れば怒るほど、自ら無能と認めているようなものと諌められてからは、市井でこの単語を耳にしても、気づかないふりをするようになったのだが。
内心では、腸が煮えくり返るような思いをしていたのは、想像に難くなかった……。
「むしろ、良く生きてますね……。普通は適当な罪をでっち上げられて、公開処刑……。少なくとも暗殺者くらい送り込まれるんでは?」
「あの野郎……ああ見えて、相当な実力者だからな。要は魔術が使えないってだけで、マナ自体は底なしなんだわ。なにせ……一度ギルドで魔力計測を試したんだが、計測不能とかなって、計測器がぶっ壊れる始末だ……。なんでも、適当にマナを解放するだけで、並の攻撃魔術ならほとんど無効化出来るし、毒や魔法薬も効きゃしないらしい。実際、暗殺者も何人も返り討ちにしてるし、やられたらやりかえす……依頼者まで追って確実に消す徹底ぶりに、暗殺者ギルドにアンタッチャブル指定された程なんだぜ」
アンタッチャブル指定。
要するに、触れてはならない相手と言う事で、敵に回すなら、死を覚悟した上で……名指しでこんな指定をされている時点でもはや異常と言えたのだが。
勇者パーティ時代、王都ではセナと暗殺者達の水面下の争いが幾度ともなく繰り広げられており、まさに知られざる暗闘……だった。
結果的に、セナへの暗殺依頼は、どんな相手だろうが、どれだけ金を積まれても、問答無用で門前払いとすると言うのが、もはや暗殺ギルドの共通認識となっていた。
なにせ、実際に小規模ながらも暗殺ギルドのひとつが、セナ一人の手で全滅させられているし、高名な暗殺者も何人も返り討ちにあっている。
そして、この返り討ちにあった暗殺者は、冒険者で言うところのS級やA級……最上級レベルの暗殺者達も含まれていた。
そんな腕利きのはずの暗殺者達が尽く返り討ちにあったのも、ちゃんと理由があった。
まず、彼らお得意の毒物や薬物がまるで効かない上に、その膨大なマナによる魔法への抵抗力も桁違いに高い為、要するに暗殺者達の常套手段である搦手と言うものが全く効かなかったからだった。
もちろん、遠距離からの狙撃などを試したものもいたのだが、それすらもセナには通じず、逆に居場所を特定され、確実に追い詰められて、狩られる始末だった。
中には、エアライドでの走行中に仕掛けるものもいたのだが、むしろそっちはセナの独壇場で、あえなく返り討ちにあっていた。
何よりも、セナ自身が卑怯上等の精神の持ち主なので、死んだフリとか、薬物で麻痺したフリなどの騙し討ちも当たり前のようにやってきて、搦手でジャイアントキリングを達成してきたような者達ほど、セナにいいようにやられて返り討ちにあっていた。
おまけに、度重なる暗殺攻勢でセナ自身が暗殺者のやり口を学習してしまった事で、ますます攻略難易度がアップ……。
暗殺ギルドが全滅した際のやり口も、3kmも離れた山の上の高台から、根城ごと精霊砲で吹き飛ばすと言う手口で、わざわざ今から殴り込みに行くと予告して、100人近い構成員が手ぐすね引いて待ち受ける中、そんな身も蓋もないやり口でまとめて吹き飛ばされてしまった結果……あっさりと全滅してしまった。
おまけに、とある組織では、暗殺依頼に関わった幹部だけが綺麗に全員暗殺された事もあり、敵に回しても割が合わない相手という事で、もはや完全にそう言う扱いとなっていた。
「ああ、それと似たような話……聞いたことありますね。国王の懐刀と呼ばれ、貴族社会に睨みを効かせていた隠密暗殺部隊の元締めだったアバレス伯爵が何者かによって、屋敷ごと吹き飛ばされて亡くなったって……」
これもやはり、有名な噂だった。
国王に叛意を持つ者がいれば、容赦なく粛清することで恐怖とともに、反国王派を押さえつけていたのが、アバレス伯爵だったのだが……。
ある日、伯爵の屋敷は唐突に爆発炎上し、その自慢の隠密暗殺部隊も屋敷に集められていたことで、伯爵諸共全滅してしまった。
かくして、国王は長年反国王派の貴族を抑え込むことで、その権力を支えていた要と言える存在をまとめて失ったことで、もはや完全に権威も権限も失い……今や事実上の隠居状態となってしまっているのだった。
「たぶん、それも……だな。なんだ、意外と詳しいじゃねぇか。俺もその話は、そこまで詳しくねぇぞ……?」
「特殊便のエアライダーなんてやってると、この国の裏事情にも嫌でも触れますからね。でも、なるほどなるほど……。色々と話が繋がってきましたね」
「アイツは……あまりにも規格外なんだよなぁ。本人はまるで自覚してねぇし、ここ数年はここら辺境でまったり地方定期便のエアライダーとして地味にやってたからな。もっとも、俺もアイツの素性は知ってたし、色々と話も聞いてたからな。敢えて、そっとしておいてやろうって思って、色々裏から手を回してやったり、後始末をしてやったりしてたんだよ……」
「なるほど……。そこまで規格外の方なのに、これまでほとんど噂にもなってなかったのは、辺境ゆえに情報が流れにくかったことに加えて、マスターが色々と手回ししてたんですね……。でも、なんでそこまでするんです?」
「そうさなぁ、なんでって言われると……。俺もアイツとはダチのつもりだし……付き合いも長いし、色々と借りがあるからな……。本人が穏やかな生活を望んでるんだったら、その手助けくらいはする……当然の話だろ?」
「なるほど、いえ……全くもって悪くない対応ですよ。国王側も国の重鎮であり、日頃から厳重な守りを固めていて、数多くの暗殺者を抱え、高位魔術師でもあったアバレス伯爵があっさり暗殺された事で、彼に下手に触ると痛い目見るから、もうほっとこうって方針になったみたいですからね。そもそも、結果的に魔王軍も退いて、危機的状況も無くなりましたからね」
要するに、先に挙げた暗殺ギルドとまるで同じ対応。
アバレス伯爵もやっぱり、殺しに行くから待ってろと言っておきながら、要塞化された屋敷に戦力を集めたところで遠距離爆撃でまとめてふっ飛ばされた……。
もちろん、屋敷の周囲には強力な防護結界が幾重にも張られていたのだが……ドラゴンすらも一撃で殺し、魔王軍随一の防御結界の使い手すら、難なく粉砕した精霊砲の前では、時間稼ぎにしかならずあっけなく粉砕されてしまった。
アバレス伯爵が暗殺されてから、後任として残された隠密や暗殺者達をまとめ上げた人物は、事の顛末を聞き、即座に金輪際セナに触れてはいけないと判断し、復讐を企む配下の隠密やアバレス伯爵と懇意にしていた貴族などを逆に粛清対象とすることで、徹底してセナと敵対する可能性を言うものを潰して回っていた。
それに加えて、同時期にセナも勇者パーティから追放された事で、逃げるように辺境へ移り住んだため、完全にメンツを潰された国王辺りは、殺せ! 殺せ! の大合唱だったのだが。
後任者は「私はアバレス伯爵の二の舞にはなりたくありません」の一言で、ぶった切ってしまった。




