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元峠の走り屋のおっさん、勇者パーティを追放されたのに、聖女様を助手席に乗せて、今日もアクセル全開で逃亡中!  作者: MITT


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第八話「見守りし人々」①

 ……同時刻。

 ワダツミ峠、頂上付近。


 難しい顔で、エブラン方面を見つめていたエドガーも、背後からライトで照らされて、近くまで来ていた輸送用の箱型エアライドが駐機態勢になったことで、ようやっと振り返った。


「おう、エテルナ! お前らが第一陣か! まぁまぁ早かったじゃねぇか……怪我はもういいのか?」


 革の帽子とゴーグルを頭に掛けた背の低いボブ・ショートの娘が、運転席から降りてくると笑顔と共にエドガーのもとに歩み寄る。


「凍傷の跡が多少は痛みますが、こんな時に寝てられませんよ。私も目一杯飛ばしてきましたからね……後続はもう少しかかると思います。しかし、あのセナさんって、なんなんですかね……。道中あの人が残していったマナの痕跡を追ってきたんですけど、あり得ないほどのスピードで登ってきてたみたいです……。あ、マスター失礼しました! ご挨拶が先でしたね」


 そう言って、エテルナもビシッと敬礼をし、同乗していた副長のアルメダや数名のギルド職員も続々と降りてきて、仮設指揮所の設置作業を開始していた。


 なお、マナの痕跡だけで移動速度を分析するような真似が出来る時点で、彼女が並々ならぬ魔術師である証左でもあった。

 見た目も子供にしか見えないし、普段はおちゃらけた態度で、一見とても実力者には見えないのだが。

 

 こう見えても彼女はA級ライダーのライセンス持ち。

 特殊便ギルド所属の時点で、相応の修羅場を潜っているのはむしろ当然の話で、見た目にそぐわない実力の持ち主で、実際魔術師としてもB級認定されているほどの実力者でもあった。


 エドガーから見ると、身内と言っても、はとこの娘くらいの関係なのだが、身内なのは間違いなく、エドガーもたまに仕事で訪れる彼女に食事を奢ったり、色々贔屓しているので、関係は至って良好だった。


「堅苦しいのは止めろっての……ははっ! で、セナの事か? 見てみろよ……あのバカ、あそこの連続ヘアピンを律儀に抜けるんじゃなくて、崖から飛び出して、一気にショートカットとかやらかしやがったんだ。見てて、正気じゃねぇって思ったぜ……。いやはや、やっぱ降りて正解だったな」


 先程までの雪空が嘘のように晴れ渡っていて、上空はすでに星空とこの世界の月……カスタリアがくっきり見えるほどになっていた。

 眼下の風景も月の倍くらいの大きさがあるカスタリアの月明かりに照らされて、かなり細かく識別できるようになっている。


「エブラン側の下り5連ペアピン……の事ですよね? 確かに、崖から飛び出して行けば、一瞬でまとめてクリアって……なりますけど、やる度胸が信じられないですね。と言うか、そもそもエアライドって空飛べましたっけ? ああ、もちろん意図せず、風に負けて飛ばされることはありますけど……。恥ずかしながら、昼間……それで派手にクラッシュしちゃいましたからね」


「空は飛べねぇよな……普通は。俺だって、宙に浮いちまえばマナの供給が断ち切られて、エアライドも糸の切れたタコみたいになっちまうって事は知ってるさ。だが、野郎は空飛びながらも、きっちり制御してやがったからな……。ありゃ、どうなってんだ?」


 実際、エドガーが見ていた限りだと風に吹かれて、空高くへ舞い上がるようなこともなく……。

 落下速度も制御して、車体の姿勢も崩さずに綺麗に着地していて、エドガーもその神業のような技術を目にしたことで茫然自失した程だった。


「多分なんですが……自前のマナを使ったんでしょうね。でも、そんな事をしても普通はあっという間にマナが尽きて、制御不能になるって事には変わりないはずなんですが……」


 エテルナの実体験だと、そう言う裏技を使っても、稼げる時間はせいぜい10秒程度。

 実際、彼女も昼間のクラッシュの際、車体が風に飛ばされて制御不能になる中、自前のマナを精霊石に供給して懸命に車両を制御しようと試みたのだが、少しばかり高度と速度を落とせた程度に終わって、その上で身体保護の結界を張る時間を稼ぐのがやっとだったのだ。


 むしろ、エテルナはかなり頑張ったほうで、普通は為す術なく地面に墜落して、爆発炎上……。

 あの状況で、ほとんど無傷で生き延びただけ、彼女は優秀と言えた。


「まぁ、野郎のマナは底知らずみたいだからなぁ……。なるほどなぁ……やっぱ、アイツとんでもねぇや。で、そうやって崖ダイブで5連ヘアピンを飛び越したら、今度はファイアウルフが大量に湧いてきてな……」


「ファイアウルフ? まさか、エレメントウルフですか! あんなのエアライドでも逃げ切れないし、物理攻撃が効かないから、聖術師か聖騎士でも居ないと対処できないですよ! なんで、そんな怪物たちが……」


「いや、あの聖女のお嬢ちゃんが一緒だったから、なんだか楽勝って感じだったぞ。10匹も居たのに素手に白く燃える炎みたいなのをまとって、片っ端からぶん殴ってあっという間に半分くらいまとめて消し飛ばしやがった……。聖女様の支援魔法が強いのか、或いはセナのヤツがすげぇんだか……」


「エレメントウルフは、動きも早いですからね。特攻魔術の聖光放射とかでも簡単には当たらないので、ソロで10匹も相手にしたのなら、かなり厳しい戦いだったはずなんですが……。そもそも、素手で殴ってかき消した……ってなんですか、それ! そもそも良く、そこまで見えてましたね」


「ああ、セナがこの高性能双眼鏡を置いていったから、観客気分でアイツの戦いぶりを見させてもらってたんだ。お前も見てみるか? すげぇよく見えるぜ」


 そう言って、エドガーがエテルナに双眼鏡を手渡すと、興味津々といった様子で、エテルナも双眼鏡を覗き込んだ。


「な、ななな、なな……なんなんですか、これ! こんな真っ暗なのに、信じられないくらいクリアに見えるじゃないですか! え、これ……すごく欲しいんですけどっ!」


 エテルナが驚くのも無理がなかった。

 このセナ手製の双眼鏡は、僅かな光を増幅することで夜の闇でも昼間のように知覚できる……そんな夜行性の魔物の眼球の構造と素材を応用した仕組みすらも採用されていた。

 

 要するに、モノとしては「イメージインテンシファイア」と呼ばれる暗視ゴーグルなどに近い……もはや、オーパーツ級の代物で……。

 更に驚くべくことに、魔力に全く依存しない魔道具ですらなかった。


 そして、エテルナが欲しがるのも当然の話で、エアライダーにとって、遠くの様子が見えるかどうかと言うのは、割と死活問題ではあるのだ。


 整備された街道の見通しがいいところであっても、ちょっとした岩陰や茂みの中に野盗や魔物が伏せている事はよくある事で、道中で高所を見つけたら、一度立ち止まってそこから前方の安全を確認してから進む……。

 

 これは、エアライダーなら誰もが行っていることで、この世界では街道と言っても安全は全く保証されていないから、むしろ当然の話だった。

 

 もっとも、従来の双眼鏡では夜間は使い物にならないと言う欠点があり、それ故に夜間走行はその視界の悪さも手伝って、危険だと言われていたのだが……。

 

 セナのお手製双眼鏡はその夜間の長距離観測手段の問題を完全に克服出来る……そんな代物だった。

 こんなもの……エアライダーのみならず、軍隊では喉から手が出るほどには欲するだろうし、冒険者たちも似たようなものだろう。


「ははっ! 欲しけりゃ、セナに頼んでみるんだな。だが、それに値付けするとしたら、100万ガルトは硬いぜ? 実際、そこらの職人が作った双眼鏡なんかとは、ワケが違うからな……。こんなもんを無造作に自作するとか、大概だよな……アイツも」


「な、なるほど……これでセナさん達の様子を見守ってたんですね……」


「まぁ、俺も暇だったからな。アイツらの戦いもファイアウルフ自体が赤く光ってたし、セナの野郎も白い炎をまとってたから、ここからでも解りやすかったからな」


「これスゴい……倍率も段違いに高いじゃないですか! これは確かにそこらの市販品とはワケが違いますね……。特に目で見るよりも、暗闇が明るく見えるって……どういう技術なんですかね。私も機械には強い方なんですが、これは仕組みが全く解らないです」


「そうさなぁ……。鑑定士のウォリック辺りに見せれば、もう少し解るかもしれんが……。夜目が効くようになる目薬とかも使ってるらしいからな」


「なんだか、むしろその錬成術の知識の方がよほど凄いですよ。けど、そうなると……エレメントウルフをあっさり撃退したのも自作魔法剣かなにかでも持ってたんですかね? でも、あの人……剣なんて持ってるの見たことないんですけど……」


 ちなみに、セナが冒険者ギルドに行くときは、いつもほぼ丸腰。

 駐機場で修理でもしていたのか、たまにスパナやハンマーを腰に下げていたりすることもあるのだが、基本的に武器を持ち歩くような事は一切無かった。


「ああ、あいつ……剣はまるで下手くそでな。素手のほうがよっぽど強いんだよ……。何度か、アイツとガチで殴り合ったこともあるんだが、拳一発もらっただけで、意識持ってかれそうになるほど重たいし、瞬間移動みたいな動きするから、俺でもまるで相手にならなかったよ……」


「マスターって、元A級冒険者ですよね? それでまるで刃が立たないって、あの人どれだけなんですか?」


「さぁなぁ……アイツは自分の実力を過小評価してるからな……。俺自身はA級冒険者に匹敵するって評価してるし、冒険者ランク昇格のオファーだって、何度もやってるんだがな……。俺は冒険者じゃねぇしとか言って、D級止まり……なんだよなぁ。勿体ねぇ話だぜ」


「……まぁ、私も冒険者ランクはB級ですけど……。直接戦闘では、まるで勝てる気がしませんね」


「俺もだぜ……そもそも、あいつに絡んで返り討ちにあったよそ者冒険者なんて、何人もいるからな。見てみろよ……あの派手に燃えてる辺り。どうやら、召喚術師を直接仕留めるために森ごとふっ飛ばしたみたいでな……。何者だか知らんが、喧嘩を売る相手を間違えたな」


「……話を聞く限りだと、エレメントウルフを10体も同時召喚できるって、その時点で半端な術者じゃないですよ……最低でも5人くらいで召喚したんだと思うんですけど……」


 一人二体召喚して、五人がかり。

 本来は、それくらいは必要なのだが、実際には、その術師は一人で10体どころか、更に20体以上もの魔物の同時召還を行っていて、その時点で戦力的には、少なくともA級冒険者以上の実力者という事になる。


 通常の魔術師なら、導師級の上級術士相当……その程度の戦力はあって、本来なら近づくものを一切寄せ付けない……その程度には強力な伏兵だったのだが……セナとアステリアの組み合わせは、そんな強力な術師を一蹴していた。

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