第七話「空だって、飛べるはず」③
ちなみに、八極拳の極意は打撃点と地面を一直線に繋げた上で、一気に身体を伸ばしきって力を伝える事と、重心移動と引足を使った高速移動がその極意と言える……。
前者は発勁、後者は縮地とか瞬歩とか呼ばれる奴なんだが、八極拳はその縮地移動からの派生技ってのがかなり多い。
向こうにいた時に受けた修行っても、筋トレやランニングみたいな基礎トレと、精神集中しつつ気を練る……呼吸法の基本。
そして、ひたすら型の真似をさせられた。
これは、剣術で言うところの素振りみたいなもんで、健康法みたいなもんだと思って、暇な時に練気の呼吸と瞑想、そして、ゆったりとながらその型を真似してた程度だったんだが……。
こっちに来て身体スペックが上がって、本気の命のやり取りを経験したことで、同時にその動きの真髄を理解できるようになり、本格的に使いこなせるようになったんだ。
あっちで基礎を習ってなかったら、こうは行かなかっただろうし、この技術があるからこそ、未知の異世界で最低限自分の身を守る術ってもんを確立できた。
ったく、俺は爺さん共に助けられてばかりだな……どっちの爺さんも鬼籍に入っちまったが、いつだって、感謝の心は忘れてねぇよ。
おっと、もちろん今はアステリアにも大感謝だ!
しかも、このオーラ魔術を付与してもらった上での徒手空拳での戦い方ってのは、この手の非実体型モンスター相手には甚だ相性がいい……。
剣や槍なんかだと、点……良くて線の打撃しか出来ないから、この手の非実体型モンスター相手だと、あんまり削れないんだよなぁ……。
一番効果的なのは、範囲魔術でまとめて吹っ飛ばす……なんだが、俺と魔術はあんまり相性良くないからな。
だが、自分の身体を武器にする打撃系格闘術だと、鉄山靠みたいに面での打撃を与えることで、この手のモンスターの攻略法……一気に顕現体を削り取ることで、割と簡単に無力化出来る。
だからこそ、その手合とやり合う機会が多いアステリアにも、俺と同じ戦い方が出来るように八極拳を仕込んでやったんだが。
聖女様の場合は、この「聖女の祝福」が自動で常時発動する上に、全周で結界を展開することで、もうじっとしてるだけで勝手に突っ込んできて全滅するとか、そんな調子で俺よりもよっぽどつええんだよなぁ……。
要するに、俺はある意味、聖女様の下位互換。
ったく、笑えん話だよなぁ……。
……そして、戦いは続く。
二体……一歩下がって仲間の後ろに隠れながら、ブレスの準備を始めてる。
「やらせねぇよ! 死ねっ!」
脚部の強化魔法を一時的にブーストすることでジャンプ力を一気に増大させる。
軽く10m近くまで飛び上がって、取り囲んでいるファイアウルフの頭上を飛び越えて、踏み潰し!
止まった的の上に落ちるってだけだから、楽勝!
「ヘッドプレス! ってか?」
さすがに一撃だった……もう一匹もブレスをキャンセルして、飛び退こうとしたんだが、そのまま肩から行って粉砕!
「……ふむ、ひとまず半分は殺ったか。いちいち手応えがないから、つまらんな」
この時点で10体中残りは5体……半分が消えたことで、さすがに慎重になったようで、ファイアウルフどもも一斉に間合いを開ける。
実際、距離を取ってのブレスくらいしか、脅威にならないんだが。
そっちは、数秒ほど溜めがいるから、むしろ仕留めるチャンス。
この時点で、手詰まりだと思うんだが。
チェンジする気はないようだった。
もっとも、こっちはアステリアが精霊砲を撃つまでの時間稼ぎ。
実際、ここまで寄せ付けもしてない……こうやって、自分から拳を振るうのは、しばらくぶりなんだが……まだまだ鈍ってなかったようだな。
「アステリア、どうだ! 時間稼ぎは十分か?」
「は、はい! 砲撃準備はもう出来てるんですけど、すみません……巧妙に潜伏してるようで、未だ術者の居場所が特定できておらず……」
「ちっ! わりかし慎重な野郎だな……。それに、こりゃどう見ても向こうも時間稼ぎに徹してるな……」
ファイアウルフどもの動きを見てれば、明らかだった。
向こうも残り全部で包囲して、一斉に飛びかかってくれば、一矢報いるくらいは出来ると思うんだが。
それをやってこない……互いを援護できる距離を保ちつつ、俺の間合いに入らないように動いてる。
「テメェら……逃げ腰になってるなら、とっとと消えろ! オラオラ、魔獣使いさんよ! ……この程度の雑魚じゃ何匹いても俺には勝てんぞ! もっと骨のあるのを出してこいや!」
そう言いながら、自前の魔力を足に集中させて、一歩踏み出すと地面が爆発したようになる。
そこから、手近なのにぶちかまそうとしたんだが、今ので図らずとも広範囲攻撃みたいになったみたいで、ファイアウルフどもは全部ボロボロになってて、一斉に踵を返してUターンして全力ダッシュで逃げを打ってた。
「あ、待てやコラ! 召喚獣のクセに逃げてんじゃねぇよ!」
だが、そいつらの姿が一斉に消えると、入れ替わるように今度は20匹くらいのゴブリンと、デカいイノシシみたいなシルエットが地面から生えてくる……。
数は多いんだが、なんか……一気に普通になったな。
もっとも、ゴブリンは雑魚なんだが、まともにやり合ったら、この数はさすがに脅威だ。
おまけに鎧のような装甲をまとったイノシシ……アーマード・ボアがセットとか、よく考えてるな。
ゴブリンどもで足止めをして、動きが止まったところでゴブリンもろともアーマード・ボアの体当たりで粉砕!
……機動力が命で殲滅力には劣る徒手空拳のソロ相手には、確かに有効な戦術だ。
始めっから、こっちだったら流石に苦戦してただろうな。
「はっ! ファイアウルフじゃ相性悪いから、メニューを変えておかわりどうぞってか! だが……テメェはしくじったな! 俺達はソイツを待ってたんだ! アステリアッ!」
「はいっ! 召喚時の魔力励起を捉えました……もう逃がしませんよ! フルファイアッ!」
ドコドコと色とりどりの精霊砲が10発くらいまとめて放物線を描いて飛んでいく……。
敗色濃厚なファイアウルフを引っ込めて、オーソドックスなモンスターを使った平押し戦術への切り替え。
……悪くない判断だったし、獣魔術師ならではの召喚獣を相手に合わせて、柔軟に変えるってのはまさに長所を活かした戦術と言える。
だが、せめて潜伏先を変えてから、チェンジすべきだったな。
ダミーの結界を複数張るなり、一目散に逃げるなりしてれば、まだなんとかなっただろうが、アステリアも発見次第ノータイムで撃ってるから、もはやどうにもなるまい……。
数秒後には、精霊砲が森の一角に着弾。
ビカビカと派手な閃光が見え隠れしたあと、6秒ほど経ってからドドドドドと爆音が連続して轟く。
こちらに向かっていた魔物の群れがスゥッと消えたことで、今の砲撃で術者が吹き飛ばされた事を確信する。
戦術は悪くなかったんだが、あのタイミングで召喚術式を発動したのは明らかに失策だったな……。
結果、アステリアの索敵網がピンポイントで居場所を捉えた……。
あの分じゃ、逃げる間もなくバラバラになって吹っ飛んだ……そんなとこだろう。
案外、結界でも張って凌ごうとしてたのかもしれんが……あんな集中砲火食らったら、多重結界を張ったストレイ・キャッツ号でも粉砕されるっての。
これじゃ、どこのナニモンだかも解らないくらい粉々になってるだろうから、敵の正体は相変わらず不明……。
だが、こんな獣魔術士を足止め要員として配置してたとなると、もう決まりだな……。
「アイム・ジャスティス! ビクトリー! デストローイ・ゼムオール!」
唐突に叫びながら、腕を交差して、Vサイン!
まさに、勝利のポーズ!
そして、皆殺し宣言も忘れちゃいけねぇ……。
骨も残らず木っ端微塵とか、ちょっと、やりすぎちまったとは思うんだが、知るかそんなもん!
なんせ、俺は自分に殺意を向けた相手は絶対に殺すようにしてるんだからな……。
容赦ねぇし、物騒な話なんだが、異世界で生き残るには、それくらいでないと生き残れない……。
あの聖騎士野郎も、聖剣を抜いたら殺すつもりだったんだが、手をかけただけで、別に殺意は抱いていなかったからな。
要は、始めからポーズ……威嚇だって事は解ってた。
だから、さっきも手加減して殺さないようにしたし、あの野郎……ああ見えて、なかななかどうして、見どころのあるヤツだった。
むしろ、殺し合うんじゃなくて、純粋にエアライド勝負がしてみてぇな。
「びくとりーっ!」
意味とか良く解ってなさそうなアステリアもストレイ・キャッツ号から降りてきて、同じ様に両手の指をVの字にして駆け寄ってくるので、申し合わせたようにパーンとハイタッチ。
まぁ、これもいつものことなんだよな。
そして、勝利者たる俺達は、火の海をバックにクールに去る!
これもまたいつものことだ!
「さぁってっ! さっさと行くぜっ!」
「がってん承知……ですっ!」
……アステリアって、俺がポロッと出した日本語の変な表現を真似したがるって謎な習性があるんだよな。
まぁ、別にいいんだけどさ。




